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9/16 【海外サイエンス・実況中継】コロラド大学デンバー校

posted Sep 15, 2012, 7:30 PM by Yohei Ishii   [ updated Sep 17, 2012, 8:25 PM ]

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ Sep 2012, Vol. 51, No. 1
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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にて、エグゼクティブメンバーの庄司さんがご講演。
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メルマガ編集担当ブラウン大学石井です。今回はコロラド大学を卒業された押元さんに記事を
書いていただきました。私生活から大学生活、また卒業後の進路に至るまで幅広く網羅されて
います。ぜひお楽しみください。

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        私はUniversity of Colorado at DenverのNeuroscience  Ph.D. Program を
2012年2月に卒業しました。まず何よりも、2012年7月20日に起こった、銃乱射事件
により亡くなった方々、怪我を負われた方々、そのご家族に心よりお悔み申し上げ
ます。

私が所属したプログラムはコロラド大学デンバー校のメディカルキャンパスの中に
あります。ここには学部生がおらず、TAをする必要がありませんでした。この
キャンパスではおよそ3000人の学生が学んでおり、多数の病院も隣接しており、
話に聞いたところによると、世界で初めての肝臓移植手術もこのデンバーにある
大学病院で1963年に行われたようです。

        このメディカルキャンパスはコロラドのデンバー国際空港から車でおよそ
25分程、デンバーダウンタウンまではおよそ20分程のところに位置しています。
公共の交通手段はバスしかありません。路面電車も数は少ないですが住んでる
ところによっては使用可能です。2016年か、大分先だと思った覚えがあるの
ですが、メディカルキャンパスからも路面電車が通るようになるという噂は
ききました。私は2012年に卒業予定でしたので、あまり気にも留めません
でしたが、それが開通すれば、キャンパスの駐車場合戦はすこし和らぐで
しょう。私が住んでた場所から一番近いスーパーマーケットに行くにも、
車で5分でした。歩くと25分くらいでしょうか。このように、デンバーで
学生生活を送るには車は必要不可欠です。その代わり、バスはほぼ時間
通りくるし、大雪の日でも大抵チェーンをつけて走ってますので、頼れる
交通手段です。

        デンバーはマイルハイシティーという別名もあるとおり、標高が
1600メートルのところにあります。富士山で言うと何合目なんでしょう
か。想像のとおり空気が薄く、紫外線がものすごい強く、空気が非常に
乾燥しているもともとは砂漠地帯です。空気が乾燥しているため洗濯物が
すぐ乾く(乾燥機かけずにジーンズが一晩で乾いてしまう)、湿気臭く
ならない、カビが生えない、など良い点もありますが、体が順応しないと、
頭痛、倦怠感、異常な喉の渇き、手、お肌が異常に荒れる、等々、標高
の高い土地に住む難しさもあります。 また冬場は雪深い場所です。
ですが、午前中大雪で積もっても午後カンカン照りで10cm-20cm積もった
雪が翌日には解けている、など当たり前にあります。公共の除雪車も
すぐに出動してくれるので、車道が閉鎖することはめったにありません。
歴史的な大雪のときはあったと思います。

        このNeuroscience Ph.D. Program にアプライしたときは、
私のTOEFLのスコアは257点(2006年当時)で、GREはVerbalが10%below、
Analyticalが16%below、Quantitative が71% below、確かエッセイが
3.5点(2006年当時)でした。多少記憶に間違いがあるかもしれませんが。
このスコアが高いのだか低いのだかも当時も今もピンと来ませんが参考に
なったらいいなと思います。私個人の印象としては、プログラム側は
点数が高い低いより、研究の経験があるか、どのような人を知っているか
(コネクション)、どのような人物か、研究を熱心に出来るか、等の
要素を重視するのだと思います。私はアプライする前、大学4年生の春、
コロラド大学を訪問し、Neuroscience Programの教授達に実際に会いに
行きました。私が卒業研究を行ったラボの教授がここのプログラムのPI
とかつての研究仲間であったことも、大きかったと思います。

        まず1年目はコースワークですね。8月の末から始まり、翌年5月
くらいまで続きます。同時に3つのラボのローテーションを3ヶ月づつ
行うわけですが、毎回ローテーションの終わりにはローテーショントークと
言って15分の発表をします。3つのラボで決められない場合は4つ目の
ラボをローテーションすることも可能ですし、また8月に1年目がスタート
する前のサマーローテーションをすることも許可されています。従って
いずれの場合も最大4つのラボを経験することが出来るわけですね。
一年目の終わりの6月頃Preliminary Examがあります。このPreliminary Exam
ですが、今は大分制度が変わりましたが、私が1年生のときは、午前中が
暗記もの(in-class)の試験で、午後からtake-homeといって授業ノートを
見てもいいけど、夕方5時までに答案を提出するという試験でした。
結果は1ヶ月くらいで出ます。それが終わったら1年間ほどは配属された
ラボで研究生活。その1年間の終わりにあるComprehensive Exam は10ページ
のプロポーザルと、30分-1時間の発表、5-10分の質問タイム。終わったら
関係者以外は退出、部屋に残されたコミティーメンバー(5-6人)とおよそ
2-3時間のお話をするわけですね。先生方からの質問攻めが学生が返答に
困るまで続きます。これをパスすれば晴れてPh.D. candidateです。他の
大学は知りませんが、私の大学は、パスできなくてももう1度やりなおす
チャンスを与えられます。たとえば、コミティーとの話し合いが上手く
できなければ、半年後にもう一回同じことをスケジュールしなおす、
あるいは発表と質問タイムがパスできなければこれも半年後に同じことを
もう一回させられるといった具合でしょうか。チャンスも与えられず
不合格にされた例はありません。さらに、2度目で不合格にされた例もあり
ません。要は、パスしなかった学生の前例はないということです。試験を
パスしたいという学生の意欲さえあれば、教授達は全力を尽くしてサポート
してくれます。この時執筆する10ページにわたるプロポーザルは実際研究費
グラントを獲得するためにNIHに出すことを推奨されます。実際このプロポーザル
が受理されて卒業するまでそのグラントにサポートされていた学生が
多数いました。私は残念ながら外国人であったため、応募資格を与えられて
いないとわかっていたので、投稿プロセスなどの詳しい情報はよくわかり
ません。

        コロラド大学デンバー校Neuroscience Programは毎年、4-6人の
学生を取ります。学生は白人のアメリカ人が95%以上を占めます。 私が
入学した年は、プログラム初の留学生かつアジア人、でした。2011年度の
学生にまた新しく韓国から留学生を取ったようで、少しずつ海外からの
学生を増やしていきたいというプログラムの意向が伺えます。事実、外部者
によるプログラムの運営のチェック(external review of the program)が
数年前に行われた結果、「もう少し外国人留学生を増やすと良いであろう」
という助言をいただいたということを聞きました。私が知る限り、2006年
から2012年までの間、黒人の学生は一人もいませんでした。メキシコ系、
あとはインド系アメリカ人は1人、2人はいたかな。 留学生ゼロのプログラム
だったため、留学生の抱える問題を相談できるシステムはほぼ皆無でした。
従って、アメリカ人クラスメイトに頼るとか、上級生の学生に頼るとか
をしながら学生生活を送ったので、かえって人種を超えた絆が強く出来た
ような気がしました。その分カルチャーショックを受け止めるプロセスに
時間がかかりましたが、1年目2年目はあまりに学業が忙しくて面白いこと
にかえって3年目以降にカルチャーショックを強く感じ始めた覚えがあり
ます。

        3年目以降は実験をしていることが必然多くなりますが、それでも
1年に1度Public Talkを することを義務つけられています。自分の
プロジェクトの進行具合によっては、自分の選んだ5-6人の先生方で成り
立っているThesis Committeeから半年に一度Public TalkをしたりCommitteeと
Meetingするように要求されることも少なくありません。Public Talkは
成果を発表するという理由もありますが、研究者としてやっていくに
あたり重要になってくる、Talkをする能力を養成する目的もあります。
年に1度プログラム全員でロッキー山脈の山の中にあるロッジに一泊して
ひたすらサイエンスの口頭発表やポスターを発表しあう機会がありますが、
そのときも学生には出来るだけ積極的にPublic Talkをするよう教授陣は
呼びかけています。Public Talkはすればするほど、恥をかけばかくほど
上達するものだから、という先生方の想いがあるのだと思います。

        大学院生としての学生生活は本当に山あり谷ありですね。谷に
ぶちあったときは本当に辛いものです。少しだけコロラドの学生達が
どうやって気分転換しているのかについてお話します。今はGoogle Maps
など便利なツールも出てきましたが、地図をみてみると、非常に長い
ロッキー山脈がニューメキシコ州からカナダまで連なっていて、
全長は4800kmを超えます。その美しさといったら壮大です。この
土地を訪れて始めてわかることですが、コロラド州はとてもフラットで
ワイドな印象の街です。従って、数十キロ先まで見えてしまうんですね
。私は毎日家から学校まで運転しながらロッキー山脈を眺めながら
通いました。デンバーの非常にユニークなところは、都会から本格的な
山まで車でそれこそ1.5時間足らずで行こうと思えば行けてしまうこと
です。車から見えるビルが一つ、二つと消えていって、やがて壮大な
山々に変化してくる地点はそれこそデンバーを車で出発して30分- 45分
くらいです。夏はキャンプ、川くだり(Rafting)、Rock Climbing、乗馬、
すべて、そうですね車で3時間以内でしようと思えば出来てしまいます。
ちなみに湯治場のようなものも存在するため、温泉にアクセスすることも
出来るんですよ。冬はスキーにスノーボードですね。スキー場が数え
切れないほどこれもまた車で3-4時間の範囲に点在します。コロラドには
世界でも1位2位を争うような有名なスキー場があります。その一つ、
Vailスキー場は本当にハイクオリティーな雪があります。パウダースノー
というものですね。コロラドは空気が非常に薄く、湿度が低いため、
さらさらな雪が出来るんですね。私も一度訪れたことがありますが、
世界各国からのスキーヤーが集まってくるため、スキー片手に歩いていると
色々な国の言葉が耳に入ってきます。 また、コロラドはプロフェッショナル
スポーツが充実している都市でもあります。例えばアイスホッケーだったら
Colorado Avalanche、バスケットボールならDenver Nuggets、メジャー
リーグ野球ならColorado Rockies、アメリカンフットボールならDenver Broncos
 といった具合です。Rockiesがプレイオフまで進んだ年は街中が大騒ぎで
したね。今年はPeyton Manning がDenver Broncosのクオーターバックに
なったということで大注目されています。ところでスポーツといえばビールは
欠かせませんね。コロラドはアメリカでも1位2位を争うほど地元ビールの
生産が盛んです。ビール工場がたくさんありますし、街でレストラン、バーに
入ればビールの種類がたくさんありすぎて困るほどです。どのビールも
とてもユニークで味がいいです。New Belgium というビールメーカーは
コロラドのフォートコリンズに拠点があり、季節ごとに新しい新商品を
売り出しています。毎回新商品が出るのをたくさんの人がいつも楽しみに
しています。

ところで話はかわって卒業後の進路ですが、非常に多様だと思います。
正確な統計を取ったわけではありませんが、アカデミアに残った人が
60%くらい、それ以外の道に進む人が40%くらいだと思います。ポスドク以外の
進路を選んだ人の中で私が思い浮かべられる範囲では、Technology Transfer Office
 でLicensing Associateになった人、科学雑誌Science のAssistant Editor
 になった人、Science Policy の分野に行った人、Scientific Consultant
になった人がいました。中には一度大学の研究室でポスドクをして、方向転換
してその次には企業で働くサイエンティストになった人もいます。プログラム
全体としては、学生が必ずしもアカデミアに残らなくてもいい、むしろ多様な
分野で活躍してほしい、そのためにはプログラムが全力でサポートしていく、
という姿勢が強いです。本当に強く感じたのは、教授陣はいつも学生のことを
第一に考えてくれているということです。彼らはいつも学生達が選んだ道で
成功するよう、そして、サイエンティストとしてアカデミアに残る決意をした
学生には、その学生がアカデミアで成功していくサイエンティストになるよう
全力で育てよう、という深い想いが感じられるのです。  ちなみにここの
Neuroscience Program を卒業してすでに今Assistant 、Associate、あるいは
 Full Professorになられた方々は私が知っている限りでも3人おられます。
ここのNeuroscience programは1986年に始まり1993年よりNIHのグラントに
サポートされてきているプログラムです。大学でFacultyのポジションに
つくことが非常に競争率の高いこと、また卒業したすべての学生がアカデミアに
残ったわけではないことを考慮にいれると、すでに3人おられるというのは
素晴らしい成果なのだと私は思いますが、ご判断は読者の皆様におまかせ
します。

これからアメリカの大学院にアプライすることを考えていらっしゃる方々、
たくさんおられるかと思います。自分の興味のある研究がすでに分かって
いるのであれば、その情熱を強く育てて、どこのラボが一番自分の情熱を
強化できるかが判断材料になってくると思います。その一方、研究をする
ことは決定している、けれど分野は確定していない、もう少し自分の視野を
広げてみたいから米国のシステムを経験してみようという方もおられるかも
しれませんね。いずれの場合も、その大学院のある町が自分の生活スタイルに
合っているか、そのプログラムの人たちと上手く溶け込めそうか等、大学を
決めるに当たって判断材料にすると良い要素は他にもたくさんあると思います。
また、情熱を奉げている趣味をもっている方なのであれば、その街で自分の
趣味は継続できそうか、等々、少しだけ研究から目線をずらしたところにある
要素をしばし検討してみてくださいね。それらは、最後までやりとげてPh.D.を
取得するにあたり、無視できないとても大事な要素になってきますよ。もちろん
住めば都という言葉もありますけれどね。私の経験談が少しでも参考なりまし
たでしょうか。みなさんがんばってください。

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執筆者自己紹介
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押元 杏里沙
2002-2006 日本女子大学理学部物質生物科学科卒業
2006-2012 コロラド大学デンバー校にて Ph.D. in Neuroscience 取得

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編集者自己紹介
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石井洋平
2007年3月 上智大学理工学部物理学科卒業
2007年9月-現在 Brown University, School of Engineering, Materials Science
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