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8/7【海外サイエンス・実況中継】医学部出身者の理系大学院留学(前)

posted Jan 30, 2012, 12:22 PM by Yunke Song   [ updated Apr 20, 2012, 7:06 PM by Yuji Takeda ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ August 2011, Vol. 53, No. 40
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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こんにちは。8月のメルマガを担当させて頂きます、
University of California, Riverside
の中尾です。今回のメルマガでは、ストワーズ医学研究所に
在籍される杉村さんと、米軍医科大学Uniformed
Services University of the Health
Scienceに在籍される土屋さんのエッセーを前・後編に
分けて紹介させて頂きます。医学に興味のある方は必見です。
お楽しみください。


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医学部出身者の理系大学院留学(前編)
ストワーズ医学研究所
杉村 竜一
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ストワーズ医学研究所でPhDプログラム3年目の杉村です。今回は
米軍医科大学Uniformed Services University
of the Health Scienceに在籍される土屋基裕さんと
共同で、6年制の医学部出身者としての理系大学院留学について
書きます。同じく6年制の薬学部や獣医学部などにも役立つ記事に
なればと思います。前編を杉村、後編を土屋さんでお送りします。
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記事の構成


杉村(前編)

日本の医学部での教育カリキュラムと研究環境

なぜ大学院留学なのか

ラボ選び(医学部の人へ)


土屋さん(後編)

Uniformed Services University of
the Health Sciencesの紹介

学生のバックグラウンド

臨床研修(医学部の人へ)

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<日本の医学部での教育カリキュラムと研究環境>
ここでは、A君とB君の2人の学生に登場していただきます。A君はどこに
でもいる医学生。B君は少し変わっていて、研究に興味があるようです。

A君の6年間
1年生─3年生:一般教養科目を履修した後、基礎科目を学びます。
バイトや部活(医学生限定の6年制サークル)に明け暮れます。解剖、
生理、病理は試験が難しいですが、部活の先輩からもらった過去門を
頼りに切り抜けます。

4年生:はじめの半年間は、基礎配属。全員強制で基礎のラボに通います。
実験に興味がないので、「こんなことやってられるか」というA君は
「1度も行かなくていいラボ」を選びます。学生間の熾烈なジャンケン大会
に勝ち、見事A君は希望通り、一番楽なラボに行きました。部活の幹部
であるA君は、これまでよりも熱心に練習に取り組み、夏休みの西日本
医学生体育大会において見事入賞し、優秀の美を飾って部活を引退
できました。秋からいよいよ、臨床の講義が始まります。基礎科目の講義
よりも役立つ内容で、A君もうれしそうです。

5年生:病院実習が始まります。毎日が新鮮な経験で、「医師になる自分」
を実感します。そろそろ、国家試験の準備が脳裏をよぎります。
友人と勉強会を結成し、毎日国家試験の対策問題集を解きます。

6年生:国家試験の準備に加えて、「マッチング対策」が始まります。
マッチングとは、病院への就職試験です。夏に各病院において筆記試験と
面接が行われ、すべての医学生が全国ランキングされます。ランキングの
高い学生ほど、沖縄中部や聖路加といった通称ブランド病院に就職できます
(大学入試みたいなものです)。大学の講義は4年生の末に終了しています。
病院実習は6年の夏前に終了しています。勉強会のスケジュールはさらに
ハードになります。8月、いよいよマッチング試験。A君はまずまずの成績を
修め、第一志望は無理でも、第二志望の病院に就職しました。
秋以降、大学での卒業試験を受けます。内科や外科をはじめとした、
総20科目以上の筆記試験ですが、部活の先輩からの過去門を頼りに
切り抜けます。無事卒業し、国家試験も合格したA君は、来年4月から
第二希望の病院で働きます。

研修医時代:A君は前期研修の2年間を第二希望の病院で、後期研修の
3年間を別の病院で過ごしました。医師として5年間修行を積んだA君は、
もう一人前です。

それから:臨床に少し飽きたA君は、研究でもしてみようと思い、出身大学の
医学部に戻りました。所属する医局の博士課程(医学部出身者は修士を
すっとばせます)に進学したA君は、晴れて4年後、学位を所得しました。
この間は給料無しですが、医師のバイトで生活は余裕です。
臨床系のラボで小さな研究をしたA君ですが、ここで研究の面白さに
目覚めました。幸い、医局の先輩のつてで、海外の提携ラボにポスドク留学
できました。先輩のプロジェクトを引き継ぎ、論文に仕上げたA君は帰国
しました。この時点で、A君既に40歳です(すみません、Aさんと呼びなおし
ます)。研究を続けるか、臨床に戻って後進を指導するか非常に悩みます。
Aさんは自身の年齢や後輩の指導を考え、臨床に戻りました。
Aさん「でもやっぱり、研究懐かしいなー」



研究に興味のあるB君の6年間
1年生─3年生:A君と基本同じです。研究に興味があるため、基礎科目
を熱心に勉強したり、部活の時間を割いて自主的にラボに通ったりします。
部活は3年生のころ引退してます。

4年生:待ちに待った基礎配属。毎日ラボで実験します。半年後、
臨床の講義が始まりますが、空き時間はラボにいます。

5年生:病院実習はやはり面白いです。ラボに顔を出す時間も減って
しまいました。

6年生:このB君、少し「周りの空気に流されます」。マッチング、卒業試験、
国家試験をクリアするうち、研究のことは忘れました。

研修医時代:研修医は義務化されています。これを終わらせないと、
医師として働けません。A君に同じ。

それから:学生時代の研究に対する情熱が、少しずつこみ上げてきました。
あとはA君と同じ(中略)Bさん「でもやっぱり、研究懐かしいなー」



<なぜ大学院留学なのか>
A君とB君、2人ともはじめの研究に対する姿勢は違えど、結局同じ進路
をたどっています。このA君は、私がこれまで医学部の複数のラボでお世話
になった先輩方をモデルにしています。彼らとは今でも親密に交流させて
いただいています。全員尊敬できる医師であると同時に、科学に対する
情熱を自身の中に育まれておられました。しかし、いずれ臨床か研究か
の舵をきる時が来ます。人生を左右する決断です。非常に悩ましいです。
多くの場合、研究一本で生きていくのは難しいです。研究の経験不足、
これまでに臨床に費やした時間が長すぎる、得たコネクションは全て
臨床の先輩とのもの、などが理由となります。
中には、医局で小さくて安全なプロジェクトをするのではなく基礎系のラボ
に行き、裸一貫で勝負する先生もおられます。しかし、研究経験の乏しい
医師にとって非常にリスキーな選択です。一部で大成される方もおられれば、
夢破れる方も多くいます。

B君は、研究が盛んな国立の医学部でよく見るタイプです。周りの空気に
流されていると、私もこうなっていたかもしれません。後編の土屋さんの原稿
にも記述がありますが、周りの空気に流されるのは最悪です。
しかし、近年導入された、医学部のマッチング(試験を受けて難関ブランド
病院に就職すべし。落ちこぼれは出身大学病院に就職、という風潮
すらあります)や研究医の義務化など、周囲の空気に流されないとまるで
罪人扱いにされます。私は義務化された研修医をあえてしていません。

このように、日本の医学部では研究に進むのが非常に難しい状況に
なっています。私は幸い、学部の早いうちからラボに通い、知識や技術を
身につけるだけでなく、研究の世界とのつながりを築くことができました。
同時に、臨床からやってきた人格も頭脳もすばらしい先生方が大いに
悩み、泣く泣く研究を断念する姿を見てきました。早いうちから科学の
トレーニングを身につけることは非常に重要であると痛感しました。
極論ですが、医学部出身で世界的な科学者になろうとすると、
大学院留学しかないのではないかと思いました。例外として、世界的に
高名なラボが自分の大学にあって、医学生のうちから通い続けるというの
もあります。しかし、そのようなラボは数少なく、医学生を受け入れてくれる
ケースはさらに稀です。

大学院留学は、濃密な科学のトレーニングを得られるだけでなく、
世界中からの優秀な研究者とコネクションを持つことができます。
米国大学院での具体的な科学トレーニングは、私の前回の記事や
他の皆様の記事で数多く紹介されています。


<ラボ選び(医学部の人へ)>
研究に興味のある方は、医学生時代からラボに通うと思います。
もしご自身の医学部に世界的に高名なラボがあり、しかも医学生を受け
入れているなら、大きなチャンスです。「興味のない分野だから」は言い訳
になりません。医学部の教科書程度で得られる科学的な興味は、
本当の研究の前では、何の意味もありません。もしそのようなラボが近くに
ないのなら、高名であるかを問わず、医学生を受け入れてくれるラボを
選んでください。例え有名なラボであっても、内部で競争が激しかったり、
医学生が居ることに否定的であれば、いずれ病院実習が始まったときに
ラボを去るようにいわれます。医学部にこだわらず、他学部や近隣の大学、
研究所(理研など)に足を運ぶのもいいかもしれまん。学部のラボから
大学院にそのままステップアップするのが従来のパターンですが、現在の
研修医義務化では難しいです。おそらく、2,3年は研修医として研究を
離れることになるでしょう。その際、学部時代のラボや教授とのつながりは維持
してください。数年間自分を面倒みてくれたラボと教授は、きっとどこかで再び
助けになります。この点でも、医学生を受け入れてくれるラボは大事です。
もしかすると、博士課程やポスドク先のラボを紹介いただけるかもしれません。
独りで新しいラボに出願するよりも、失敗する可能性が減ります。


<参考リンク>
週刊医学界新聞(医学書院)2010年8月2日
寄稿、杉村竜一「基礎医学で米国留学、3年目の振り返り」
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02890_03
こちらでも、日本の医学部の教育と研究の現状を紹介しました。
また、医学部出身者が基礎医学研究をすることの意義も書きました。


<編集後記>
このメールマガジンの読者で、どれくらい医学部在籍・出身の方がおられるの
でしょうか。記事の内容は、私が卒業した当時(2008年)の出身大学の
状況を基にしました。記事の中の「基礎配属」の記述に若干問題がある
かもしれませんが、このような配属すらない大学も多いです。医学生が唯一
ラボの空気を経験できるこの配属は、私が医学部のラボにいたころお世話に
なった先生方にとっても、学生時代の貴重な経験でした。ただし、
これが貴重であったと思えるのは、卒業して自分が研究に携わるように
なってからです。近年、私の出身大学でも、学生自身の要望により、
基礎配属の期間が短縮されました。

各大学医学部によって教育カリキュラムの差異はあると思います。
また、ここ数年で医学部のマッチングや研修制度に変化があったかもしれません。
ご意見がございましたら、下記のアドレスよりメールお願いします。


<著者紹介>
杉村 竜一
高校3年生の頃、OBの特別セミナーにおいて幹細胞の魅力を知る。
2002年大阪大学医学部医学科入学。基礎医学研究を志し、
医学部での勉学の傍ら、膵臓や皮膚の幹細胞の基礎研究に携わる。
学生代表として同学部の医学教育カリキュラムの編成に参加。
2008年同学卒。同年より大学院留学し、米国ストワーズ医学研究所
においてPhDプログラムに在籍。造血幹細胞の基礎医学研究に従事。
将来は細胞の多様性を中心に多臓器の連関を解明したい。
Email: [email protected]

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編集者自己紹介
中尾 俊介
慶應義塾大学理工学部応用化学科卒業(2007)。
その後UC RiversideのPhDプログラムにて、大気環境の研究
をしています。
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