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1/8【海外サイエンス・実況中継】スタンフォード大学材料工学科紹介 第一部

posted Jan 30, 2012, 12:15 PM by Yunke Song   [ updated Apr 20, 2012, 7:24 PM by Yuji Takeda ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ January 2011, Vol. 53, No. 28
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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明けましておめでとうございます。2011年最初のメールマガジンの
編集を担当させていただく、ボストンの青木です。

昨年度は大変お世話になりました。感謝申し上げます。
2011年度もカガクシャ・ネットをよろしくお願い申し上げます。

今回と次回、スタンフォード大学(Stanford University)の材料
工学科(Department of Materials Science and Engineering)に
在籍されている松田佑介さんがご自分の大学と材料工学科を紹介
してくださいます。

第一部では主にスタンフォード大学全般、そして材料工学科の
先生方の研究、研究資金の獲得状況、研究施設のことなど詳しく
書いてくださいました。

また、大学院留学する上で、気になる資格試験(Qualyfing Exam)
のことについての情報もあり、大学院留学を考えておられる方々
にとって非常に興味深い内容となっております。

それではお楽しみください!

メルマガについて、ご意見などございましたら、カガクシャネット
ホームページ経由、 Eメールでもご連絡をお待ちしております。
今後配信して欲しい内容や、その他の要望などもお待ちしております。

http://kagakusha.net/

私たちの最新著書、理系大学院留学(アルク社)
http://kagakusha.net/alc/ につきましても、手に取りご覧になって
いただければ幸いです。どうかよろしくお願い申し上げます。
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~スタンフォード大学材料工学科紹介 第一部~
松田佑介
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はじめまして、スタンフォード大学材料工学科の博士課程所属の松田佑介と
申します。今回は私が在籍するプログラムの紹介をします。

「日本からの学生をもっと取りたいんだけどあまり応募者がいなくてね。」
私が所属するスタンフォード大学Materials Science and Engineering(以下
材料工学科)の学科長から数年前にこんなことを言われました。現在、同学科
には日本人(博士課程)は2名のみでもっと日本からの学生を取りたいようです。
材料工学分野で留学を希望している日本人学生の方は、ぜひ同学科への応募を
検討してみてください。スタンフォード大学材料工学科をもっと身近に感じて
いただけるよう同学科の紹介をいたします。入学選考についても触れたいと思
います。

学科紹介の前にスタンフォード大学について少し説明します。同大学はサンフ
ランシスコから南に約50キロ、通称シリコンバレーと呼ばれる地域の地理上、
歴史的にも中心に位置します。キャンパスは広大で面積にして甲子園800個
分に相当し、カリフォルニアミッション様式に統一された美しい建物が立ち並
び観光客でいつでも賑わっています。またキャンパス内の建物はビルゲイツ、
ジェリーヤン、ゴードンムーアといった寄贈者の名前を冠した建物が数多くあ
り、よく言われるスタンフォード大学と産業界の強い結びつきを体現していま
す。研究レベル理系はもちろん文系も一様に高く現在で16人ノーベル賞受賞者
(合計51名、卒業生含む)と4名のピューリッツァー賞受賞者が在籍しています。

日本人学生は博士課程在籍者では10-15名と少ないですが、ポスドクや企業派遣
の日本人は多く全体で300名以上います。日本人会もあり、コミュニケーション
の場を提供するとともに生活の助け合いを支援してくれています。

http://cgi.stanford.edu/group/SJA/cgi-bin/index.php

また、同大学の特色として学部間の垣根が低いことが挙げられます。学生は
基本的にどの学部の授業も受けられるのに加え、大学院課程では他学部の教授
のもとで学位を取得することも簡単にできます。例えば、私の所属する研究室
では材料工学科以外にも機械、航空、応用物理、果ては化学学科から学生が集
まっています。学生にとってより多くの選択肢があると言えましょう。

スタンフォード大学の材料工学科は教授陣が総勢16名(兼任を除く)と規模は
かなり小ぶりながらUS Newsの材料工学部門で5位と健闘しています。教授陣の
約半数がAssistant Professorと若い学科です。学生数は博士課程が約120名、
修士約50名、学士40名となっています。学生の出身地域内訳はアメリカ人が約
半数、中国・韓国・台湾で計約40名、インド地域で約10名、残りがその他とな
っています。博士号に在籍する学生のバックグラウンドは様々ですが半数以上
は学部から直接入学というパターンが多いと思います。

スタンフォード大学材料工学科における研究分野はnanoscience、energy、bio
が中心です。Nanoscience分野には2009年にSloan Research Fellowshipを受賞し、
カーボンナノチューブ・ナノワイヤの応用研究における世界的研究者Prof. Yi
Cuiがいます。同教授は引用件数が同学科で最多である、スーパースター研究者
の一人です。日本でもナノワイヤを応用したリチウムイオン電池に関する同教授
の研究成果が報道されています。

http://www.env.go.jp/policy/tech/nano_tech/review/theme/03/05.html

更にProf. Cuiはサウジアラビアの大学からバッテリー研究への資金10M$(8.5
憶円)を2008年に獲得し、我々の学科で所属学生が最も多い研究室です。Energy
分野では、有機太陽電池の研究で有名なProf. Mike McGeheeがいます。同教授も
同サウジアラビアの大学から太陽電池への研究資金25M$(22億円)を2008年に
獲得し、スタンフォード内外の研究室とコンソーシアムを発足させ活発な研究
活動を行っています。サウジアラビアからの研究資金については下記記事を参照
してください。

http://www.stanfordalumni.org/news/magazine/2008/novdec/farm/news/cui.html

Bio分野ではNature、Science等のHigh impactジャーナルに論文が多
く掲載されているProf. Sarah HeilshornやProf. Nick Meloshがいます。

また、NanoPhotonicsやPlasmonicsを研究しているProf. Marc Brongersma、
酸化物やALDのリーダーであるProf. Paul McIntyre、TEMにより原子の移動
を世界で初めて観察することに成功したProf. RobertSinclairといった世界
に名だたる教授陣がいます。

話しは少しそれますが、Prof. Sinclairは日本通で同学科の名物講義の
一つであるJapanese Companies and Japanese Societyを担当しており、
毎年日本文化・社会の紹介をスタンフォード大学の学部生向けにしています。

話を元に戻しましょう。スタンフォード大学材料工学科で忘れてはいけな
いのが、Nanomechanicsの研究です。ナノインデンテーションの父である
Prof. William Nix等が在籍し、同学科は伝統的にこの分野に強いことで知
られています。Prof. Nixは超有名で世界的権威にもかかわらずとても気さ
くな方です。先週も、Prof. Nixが以前作ったモデルについてわからないこ
とがありオフィスを訪ねたのところ、にこにことこれはねとすぐに私の質問
に答えてくれました。同教授は、近年ではNanopillarを用いて降伏応力が
サイズスケールの減少に伴い理論値に近付くことを示すなど世界の第一線
で活躍されています。私の指導教官でもあるProf. Reinhold Dauskardtは
界面強度研究の第一人者で半導体、磁気ディスク、航空他多くの業界で界面
強度測定の標準試験法となっているFour Point Bend Testを開発したことで
広く知られています。同教授は研究には厳しいですが、普段は優しい方です。

次に研究活動に欠かせない研究設備についてみていきましょう。スタンフ
ォード大学は共同研究施設がとても充実しています。これら共同設備のお
かげで各研究室が高価な設備を購入・維持することなく使用料を払うのみ
で数多くの設備を利用しています。トレーニングを受ければ内部・外部を
問わず誰でも設備を使用することができます。代表例として、HPの半導体
研究所、テキサスインストルメントの上級副社長を歴任し、現在スタンフ
ォード大学電気工学科におられる西教授がディレクターを務めるStanford
Nanofabrication Facilityがあります。ここには多くの半導体プロセス装
置・測定器があり30名の常駐スタッフにより運営されています。近隣の大学
や企業にも開放されており、遠くはサンディエゴからも利用者がいるほど
設備が充実しています。スタッフによる無料のプロセスコンサルティング
も受けられるので、経験未熟な学生でもアイディアを実現する方法とヒント
を比較的容易に得ることができます。

別の共同研究設備としてStanford Nanocharacterization Labolatoryがあ
ります。ここには企業に引けを取らないほど充実した表面分析装置があり
ます。今までのTEM (STEM), AES, FIB, SEM/EDX, Raman, XPS, XRD, SPM,
AES, XPS, Ramanに加え、最新鋭のTEMとnano-SIMSが最近加わり更なる設
備の充実が図られました。ここも常駐の経験豊かなスタッフにより運営さ
れ、測定方法の相談にも乗ってくれます。装置の故障にはスタッフは24時
間体制で対応してくれ私も休日の早朝に装置が故障したときにお世話にな
っています。

いずれの共同設備も常駐のスタッフがメインテナンス・トレーニング等の
運営をすることで、学生が雑用等に時間を取られることなく研究に集中で
き成果をあげやすい環境を提供してくれています。

では材料工学科の博士課程のプログラムを見ていきましょう。博士課程の
学生は最初の1年間は学科よりほぼ全員が金銭サポートを受けます。授業料
に加え生活費として2010年時点で年間3万ドル強が支給されます。この期間
に学生は研究指導教官を見つけます。決められたラボローテーションは特に
なく学生が自己責任で研究室を探します。

研究室に決まればコースワークと共に研究にいそしむ毎日です。授業と研究
のバランスは指導教官によります。私の指導教官は研究に加え、コースワー
クもフルでやらせる方針のため初年度はとても大変でしたが2年目以降は授業
をほとんど取る必要がなく研究に集中できました。一方、初年度はほとんど
授業だけでOKの指導教官もいます。

コースワークは必修科目を10コマと材料工学に関連する専門科目5コマが
卒業に必要となります。必修科目は結晶学、固体熱力学、Kineticsといった
伝統的な材料工学の科目から材料の機械・電気特性、化学、有機・バイオ材料
まで幅広くなっています。専門科目は自由に好きな授業をとればOKです。
授業のカリキュラムの詳細はここを参照してください

http://mse.stanford.edu/prospective/graduate_students/phd_program.html

そして、2年目には博士課程の最初の難関であるqualifying examがあります。
私の所属する学科のqualifying examは俗にいう“切るタイプ”

入学者数<qualifying exam合格予定者数

ではなく、基本的にすべての学生が試験に合格することを期待されています。
チャンスは2回与えられ、実際にほとんどの学生が2回目までに合格します
(合格率は例年9割以上)。Examは2時間の口頭形式で自分の指導教官を含む
3名の教授陣から自分の研究と必修科目について質問を受けます。質問は簡単な
質問からオープンな質問(明確な答えがないもの)まで多岐にわたります。
過去問を実際に見ていきましょう。

・物質Aと物質Bを混ぜたときにどのような反応が起きるか? 
・半導体と金属の電気抵抗と温度との関係を定性的に説明せよ。次に、これら
の変化を数学モデルと作って説明せよ。
・誘電率と屈折率の関係を説明せよ。誘電率の周波数依存性について説明せよ。
・ダイヤモンドの表面エネルギーを計算せよ。
・高温で製膜した薄膜の常温での応力を計算せよ。
・CVDプロセスについて説明せよ。薄膜生成速度を上げたいときは基板を熱する?
それとも冷やす?
・XPSの測定原理は?
・薄膜剥離の膜厚依存性について説明せよ。
・Hall-Patch relationを転位移動の観点から定性的に説明せよ。次にHall-Patch
relationを導け。
・Gibbs-Phase Ruleを導け。
・pn junctionについて説明せよ。
・自分の研究に適した表面分析技術はなにか説明せよ?

基本的には授業の内容を本質的に理解していれば大丈夫かと思います。答えに
窮した場合でも粘っていると教授からアドバイスをもらえるのでなんとかなり
ます。Qualifying examを通過するとディフェンス(最終発表)まで特に大きな
関門はありません。学位を取得後の進路に関する統計データはないですが感覚
として1-2割がアカデミア(ポスドク、国立研究所含む)に進み、1-2割
が各種コンサルタント(戦略、技術等)、残りがメーカーとスタートアップと
いったところかと思います。最終的に博士卒で過去に就職先が見つからなかっ
た事実はないと聞いているので、就職で困ることはあまりないかと思います。
いくつかの研究室は卒業後の進路を公開しているので興味のある方は下記を参照
してください。

http://dauskardt.stanford.edu/alumni/phd.html
http://www.stanford.edu/group/melosh/group.html
http://www.stanford.edu/group/wang_group/People/Alumni.html

余談ですが将来アカデミアを目指している方は研究室選びには慎重になる必要
があるかと思います。なぜならアカデミアに進みやすい研究室、進みにくい
研究室があるからです。例えば私の所属する研究室は大半が産業界に進む一方、
前述のNix先生の研究室では大半がアカデミアに進みます。希望するラボの学生
なり教授聞けばこの点について教えてくれるのでアカデミアを目指している方
は研究室選びをよく検討する必要があると思います。

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執筆者自己紹介
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松田佑介
2002年東北大学工学部機械・知能系卒業
2005年東北大学工学部工学研究科機械システムデザイン専攻修士課程修了
2003-2004年カリフォルニア大学サンディエゴ校交換留学
2005から2008年8月まで日立グローバルストレージテクノロジーズにてハード
ディスクドライブの研究開発を経て、
2008よりStanford University Materials Science and Engineering,
Ph.D. programに在籍。専門分野は材料工学(機械特性)および表面分析。

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編集者自己紹介
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青木敏洋
2000年熊本大学材料システム博士前期課程修了(修士)
2003年アリゾナ州立大学学際材料科学・工学プログラムPh.D.修了後、
John M. Cowley Center for High Resolution Electron Microscopyでの
博士研究員を経て、2004年9月、JEOL USA Inc.入社、2009年より米国Lehigh
Universityの客員研究員も兼務。専門は電子顕微鏡法のナノマテリアル研究
への応用。

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編集後記
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2010年11月からカガクシャ・ネットに参加しました。海外日本人研究者の
情報交換と今後留学を考えている方への情報提供に少しでもお役に立てればと
思っています。どうかよろしくお願いします。
この冬休みは2歳半の息子と念願の寿司づくりに挑戦しました。
形は多少いびつながらも息子とつくった寿司は格別で心身共にリフレッシュで
きました。気持ちを新たに今週から始まる新学期に臨めそうです。
上記記事に質問があればいつでも下記まで連絡ください。
質問お待ちしています。
Email: [email protected]
(松田)
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編集後記
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改めてあけましておめでとうございます。皆様の年末年始はいかがでしたか。
アメリカにいると“年が明けた”という気分をなかなか味わうことが出来ませ
ん。今年は元旦が土曜日でしたので、2日は日曜日で休みでしたが、普通ならば
2日より、仕事も学校も始まります。この時期になると毎年、日本のお正月がと
ても懐かしくなります。
(青木)

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