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10/15【海外サイエンス・実況中継】ミネソタ州立大化学科 PhDプログラム紹介 (後)

posted Jan 30, 2012, 12:29 PM by Yunke Song   [ updated Apr 20, 2012, 7:02 PM by Yuji Takeda ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ Oct 2011, Vol. 53, No. 44
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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皆さんこんにちは。今回も前回に引き続きミネソタ州立大の
関さんから同大での留学の様子を紹介してもらいます。
今回は関さんが所属している化学科の研究内容紹介と
有機化学研究の動向についての非常に興味深い洞察を
寄稿していただきました。

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ミネソタ州立大 化学科紹介
関 一
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科学者ネットの皆様、

こんばんは、
ミネソタ州立大化学科博士課程所属の関一と申します。

今回は専門分野について紹介させて頂きます。自分は日本での
学部時代から有機化学合成を専門にしています。
ミネソタに来てからは、Drug Discoveryの研究所で合成を行っています。 

さて、言葉の通り、有機物を人工的に創りだすのが有機化学合成です。
昨年の鈴木・根岸両先生によるノーベル化学賞受賞により一躍有名に
なった分野です。有機物とは炭素-炭素結合を中心とした物質で、
我々の周りにあるものはほとんどが有機物と言えます。
プラスチックなどのポリマーも元々は小分子ですし、
我々が病気の時に飲む薬も有機化合物です。

一般的に大学で行われている有機化学分野の研究は大きく二つに分かれます。
一つは新規反応の開発、もう一つは複雑な化合物の合成になります。

一つ目は、まだ知られていない反応を見つけるというもので、
鈴木・根岸両先生は当時未発見だったパラジウム触媒による
カップリング反応を開発し、2010年ノーベル賞に至ったわけです。
イメージとしては、粉Aと粉Bを容器の中で油と一緒に混ぜていると
Cができるという感じで、この際パラジウムなどの触媒が必要となる
ケースが多いです。ただ、反応条件は触媒の種類や温度を含めて、
ほぼ無限にあり、いかに目的の化合物だけを創るかが研究のテーマとなります。

二つ目、複雑な化合物の合成は、上記の個々の反応を何段階も行い、
目的のターゲットを創っていきます。ターゲットは何かしら合成する
理由がなくてはならず、多くは天然物や抗癌作用などの生理活性物質となります。
天然物はもちろん自然から抽出できますが、それでは十分な量が
得られないため(400kgの海綿から目的の化合物がたったの数mg、
なんていう話はよくあります)、有機合成により活性を調べるのに
十分な量を創るのが重要になってきます。


さて、この有機化学、100年以上の歴史があり、最近の発展は目覚しい
ものがあります。少し大げさですが、もはや有機化学者にとって創れない
化合物はないのではないか、というほどに成熟してきました。
反応開発に関しても、パラジウムによるカップリングが確立された後も、
次々と便利な反応が発見し続けられています。

一つには、分野自体が割と大きく、世界でも多くの化学者が
有機化学に従事しているからと言え、それだけ有機化学は
魅力的だと捉えることもできます。分子同士の反応は言わば
パズルを組み合わせるようなもので、実際にそのパズルが
本当に組み合わさるのかをすぐに実験室で試すことができます。
そうした作業が単純に楽しいという人もいますし、
もしかするとまだ誰も発見していない反応を自分が
世界で最初に発見するかも、という可能性に魅了される人もいます。


こうした有機化学の魅力ゆえに、例えば天然から大量に取れる
にもかかわらず、構造が難しいという理由のみで合成を行っていく
化学者も中にはいます。そこに山があるから登るのだ、
といった感じです。しかしながら、登山と違い有機合成にはかなりの
お金・労働力が伴うため、近年こうした研究は批判される傾向にあります。

そして有機化学自体の成熟さも伴い、最近は研究テーマの設定や
グラントプロポーザルにおいて(特にアメリカでは)、
有機化学分野内ではなく、その分野外においてどういった重要性が
あるのかがポイントになってきます。結果として、 有機化学者にとっては
材料科学や薬学など多岐にわたるコラボレーションが当たり前になり、
かくいう自分も化学科の学生ですが、薬学部で抗癌剤を合成しています。

さて、この分野での日本の貢献度はというと、 有機合成は言ってみれば、
究極のモノづくりであり、日本人の得意分野になります。 
少なくともアメリカと同じかそれ以上と言っても差し支えないでしょう。
昔は(現在もかなり)、忍耐・長時間労働を必要とし、考えるよりも
まず実験で試してみる側面があるので、勤勉な日本人の得意とする
ところだったのではないでしょうか。人名反応という、発見者の名前に
由来した反応があり、人名反応をまとめた本には日本人の名前を
数多く見ることができます。

アメリカでは有機合成のみでグラントを取るのが非常に
難しくなっており、何か他分野と絡ませる必要があるのですが、
まだまだ基礎研究を重んじる日本ではグラントを取ることが
できるようです。先程有機化学は成熟したと言いましたが、
もちろん反論する化学者も多くいると思います。
両国で今後どう有機化学が発展していくのか、楽しみなところです。

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