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6/18【海外サイエンス・実況中継】いろいろなことを経験できるPh.Dプログラム

posted Jan 30, 2012, 12:21 PM by Yunke Song   [ updated Apr 20, 2012, 7:07 PM by Yuji Takeda ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ June 2011, Vol. 53, No. 38
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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こんにちは。前回に引き続き6月のメルマガを担当させていただきます
Purdue大学の岩田です。今週のメルマガでは、Dartmouth Collegeの
Molecular and Cellular Biology (MCB) プログラムに在籍されてお
られる乕屋 聖子さんと、渋谷洋平さんの共同エッセーを紹介させてい
ただきます。大学のあるNew Hampshire州のHanoverでの生活、MCBプロ
グラムのカリキュラムと研究について詳しく書かれています。ではお楽
しみください。

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Dartmouth College Molecular and Cellular Biology (MCB)プログラム紹介

乕屋 聖子, 渋谷洋平
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Dartmouth Collegeは、アメリカ北New England地方のNew Hampshire州にある、
IvyLeagueに属する大学の一つです。メインキャンパスはHanoverという、のど
かな小さな田舎町にあり、可愛らしいNew Englandの伝統建築が並ぶ、自然あ
ふれる素敵な大学です。Hanoverから車で10分ほどの付属病院Hitchcock
Medical Centerは、ホテルかショッピングモールかと思ってしまうような、
驚くほどきれいで明るい居心地の良い病院で、とくにガン関連の研究施設が
充実しています。College (単科大学)と名乗ってはいるものの、
Liberal Arts Collegeの他にDartmouth Medical School・Thayer School
of Engineering,・Tuck School of Businessの3つの大学院をもつ総合大学
です。学部生、院生合わせて6千人程度と小規模ですが、教育レベルは高く、
特に学部課程とTuck School of Businessは各種ランキングで毎年全米TOP
10以内に入ります。また、 医療政策研究も有名です。
Medical Schoolの一部として約20年前に設立された研究機関、
The Dartmouth Institute for Health Policy and Clinical Practice
で行われているアメリカ国内の医療制度研究は、 Dartmouth Atlas of
Health Careとして知られ、オバマ大統領の演説に何度も登場するなど、
現政権の医療制度改革政策に大きな影響を与えています。

<Hanoverエリアでの生活について>

カラっとしたさわやかな夏、それは見事な紅葉の秋、白銀の雪景色に包まれ
る冬。どの季節をとってもそれぞれの良さがあります。大自然に恵まれた地
域なので、夏はキャンパス沿いの川や湖でカヤックやバーベキュー、秋は紅
葉を見ながらハイキング、冬はスキーやスノーボードなど、アウトドア派の
人にはオススメです。冬は寒い日だと摂氏-20度くらいになるので(湿度が低
いのでそれほど寒いとは感じませんが)、防寒対策は欠かせません。治安の
良さは抜群で、家や車に鍵をかけない人も結構いたりします。町の人もびっ
くりするほどフレンドリーで住みやすく、Hanoverは仕事をやめたら住みた
い町の全米2位に選ばれているほどです。
http://money.cnn.com/galleries/2010/real_estate/1009/
gallery.best_places_retire.moneymag/2.html
野生動物も多く、運転しているとダチョウの列、リスやシカ(そして稀です
がムース!!)がひょこひょこと出てきたりして、のほほんとした気分にな
ります。田舎町なので大きなレストラン街やショッピングセンターなどは
ありませんが、多くの学生が週末などに、車でボストン(2時間)・カナダ
のモントリオール(3時間)・ニューヨーク(5時間)などに行って大都市なら
ではの楽しみを時々味わったりしています。日本食レストランは大学周辺に
いくつかありますが、食材はボストン近郊まで買い出しにいく人が多いです。
Dartmouth Collegeは、「アメリカ初の日本人大学教授」である、朝河貫一
という歴史博士が19世紀末に卒業した大学としても知られています。その関
係で朝河博士の出身地である福島県二本松市とは、友好姉妹都市の関係にあ
り、Hanoverは日本との交流にも力を入れています。

<Molecular and Cellular Biology (MCB)プログラムについて>

MCBプログラムは、Biological Sciences、Biochemistry、Genetics、
Microbiology and Immunologyの4学部が参加するアンブレラプログラムで、
学術系大学院のなかではDartmouthで一番大きなPhDプログラムです。院生は
1学年に25名程度おり、そのうち2、3割が留学生です。留学生の出身国とし
ては、中国、インドが多いですが、日本人は少なく、現在、MCBプログラム
の日本人は著者ら二人のみです。MCBの学生は1年目はどの学部にも所属せず、
上記4学部のなかから興味のある研究室を3-4つ選び、3ヶ月程度ずつ
ローテーションします。1年目の終わりに所属研究室が決まり、卒業時の
学位は、自分の研究室が所属する学部から出ることになります。
(例:PhD in Biological Sciences)

<授業>

全員必須のCore Courseと呼ばれる基礎コースと、3つ以上の選択授業を
取る事が卒業の必須条件になっています。Core Courseでは分子生物学、
生化学、遺伝学、免疫学、微生物学の基礎的な内容を一年かけて学び、
選択授業は、様々な分野のなかから自分が興味があるものを取ります。
授業形式はディスカッションや学生のプレゼン中心のものが多く、
授業の予習や宿題、試験等、かなり時間を取られるので、自分の研究
と両立するのは大変です。Core Course、選択授業とも、成績は
High Pass、 Pass、Low Pass 、No Creditの四段階で評価され、
Low PassもしくはNo Creditを2つ取ると退学になってしまいます。
この他、夏学期を除く各学期にジャーナルクラブの授業を取る事が義務
づけられています。ジャーナルクラブでは教授の指導のもと、最新の
論文を学生同士で議論します。論文は学生が自発的に選び、軽食をつま
んだりしながら、くだけた雰囲気で議論する場合が多いですが、議論自
体はかなり真剣で、どの論文を選んでも批判的に読む事が求められます。

<TA>

MCBプログラムでは、Teaching Assistant (TA)として1学期間、学部生を
教える事が卒業の必須条件になっています。TAは学生実験を担当して皆
の前でデモンストレーションをしたり、宿題の質問を受け付けたり、
試験の採点をしたりします。Dartmouth Collegeの学部生は、良い成績を
取ろうと必死に勉強する人が多いので、そういう人たちを満足させるよう
に教えるには、TA側もかなり準備しなくてはなりません。英語にハンデの
ある私たち留学生にとってはかなり負担になります。私自身TAをやって
いた時は毎日必死でしたが、終わってみればとても良い経験でした。

<Qualifying Exam>

自分の研究テーマ以外からトピックを選び、10ページ程度の研究計画を
書きます。自分で選んだExam Committeeに研究計画書が認められると、
今度はその研究計画に基づいた口頭試験を受けます。これに合格すると
晴れて正式な博士候補生となり、年間500ドルの昇給、不合格ならば再
試験が一度だけ認められ、もう一度落ちると退学です。3年目の冬まで
にこの試験に合格する事が求められます。不合格になる人は滅多にいま
せんが、この試験は取りかかり始めてから合格するまで、かなりの
長丁場になり、その間にいろいろな困難があるので、個人的にはMCBで
最大の関門だと思います。

<RIP>

学生は年1回、Research in Progress(RIP)と銘打った研究発表会で、
自分の研究の進捗状況を皆の前で発表します。RIPが終わると、自分の
アドバイザーを含めた3人の教授からなるThesis Committeeとの
ミーティングがあり、これまでの研究結果や今後の展望などについて
話し合います。

<ディフェンス、卒業後の進路>

上記の条件を全てクリアし、自分の研究をまとめて博士論文を書き上げ、
最後のディフェンス試験に合格するとPhDの学位が授与されます。MCBの
卒業までの平均年数は5年半となっていますが、なかには4年程度で卒業
する強者もいます。卒業後はアカデミアに残って博士研究員をする人、
民間企業に就職する人、医学部に入学し直す人等さまざまですが、
留学生に限ると、大学等の研究施設で博士研究員をする人が多いと
思います。

<研究>

前述の大学付属Hitchcock Medical Centerは、全米で40ある包括的ガン
研究機関に指定されているため、MCBプログラムではガン関連の研究室
が多くなっています。その他の特徴として、Dartmouth Collegeは全米
の他の大学に比べてかなり規模が小さいので、研究室の数も少なく、
お互いがどんな研究をしているか皆よく知っています。この特徴と、
基礎研究をしている研究室と臨床研究をしている研究室が物理的にも
近くにあるという利点を生かし、 Hitchcock Medical Center内では
基礎-臨床間の共同研究が多数行われています。さらに、MCBプログラム
に所属する研究室同士に限らず、 Engineering Schoolや
Chemistry Departmentとの、学部を大きく越えての大学内共同研究も
盛んに行われています。また、共同研究までとはいかなくとも、
研究室間の敷居がとても低いので、試薬や機器の貸し借りが頻繁に
行われています。各研究室の所属人数も少なめで、学生中心で研究が
進められている場合が多いので、院生はアドバイザーの教授から丁寧
に指導してもらえます。これに加え、Dartmouth Collegeでは伝統的
に教授陣と学生との距離が非常に近い事が特徴で、自分の
アドバイザー以外の教授にも気軽に話しかけたり、自分の研究に関す
るアドバイスをもらったりできます。その結果、学生の成果が皆
知っているような有名ジャーナルに論文として掲載される事も
珍しくありません。MCBプログラムに所属する研究室の研究内容や
成果は、プログラムのウェブサイトで調べる事が出来ます。
http://dms.dartmouth.edu/mcb/faculty/


<最後に著者らから>

PhD留学で得られることは、本当に計り知れません。最先端の研究を
経験することの他、共に学び貴重な時間を共有する仲間、自分の考えを
簡潔にまとめ相手に伝える力、多様なバックグラウンドを持つ人たちの
なかで生きる力、日本とはちがう文化におけるコミュニケーション力、
さまざまなタイプの思考を学ぶ、などなど。いろいろチャレンジングな
こともあるかもしれませんが、向上心と好奇心のあふれるみなさんに、
ぜひ進路の一選択肢としておすすめさせていただきたいと思います。

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自己紹介
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乕屋 聖子(とらやせいこ)
東京大学薬学部にて薬学と免疫学を学び、2008年に卒業。現在、Dartmouth
College MCBプログラム3年目。ナノ分子と交流磁場を用いた卵巣ガンの
免疫療法について研究中。

渋谷洋平(しぶやようへい)
京都大学農学部応用生命科学科卒、同修士課程修了。現在、Dartmouth
College MCBプログラム3年目。研究テーマは、脳内コレステロール代謝と
アルツハイマー病の関係性解明。

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編集後記
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私の所属しているラボのアドバイザーが次の秋セメスターより大学を移動する
ことになり、インディアナ州からジョージア州にこの夏引っ越します。
ラボと、自分と、車で10時間の大引越しです。同じ国内でもインディアナと
ジョージアでは気候、人、食べ物、言葉(なまり)などいろいろな面で大きく
違います。Ph.Dの途中で大学が変わるとは予想もしていませんでしたが、
心機一転、新しい土地で残りの研究をがんばります。(岩田)


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