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7/3【海外サイエンス・実況中継】デンマーク工科大学(DTU)環境工学部‏

posted Jan 30, 2012, 12:21 PM by Yunke Song   [ updated Apr 20, 2012, 7:07 PM by Yuji Takeda ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ July 2011, Vol. 53, No. 39
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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はじめまして。今月のメルマガを担当させていただきますBrown University
の石井です。今週のメルマガでは、デンマーク工科大学(DTU)環境工学
に在籍しておられる吉田浩子さんに紹介していただきます。
通常アメリカの大学紹介記事が多い中で、今回はデンマーク工科大学の
紹介ということで、アメリカと違うデンマークの制度にも言及しながら、
うまくまとめられています。英語圏ではなくとも、デンマーク語は必要ないなど
さまざまなことについて書かれています。これによって、現地語ができない人でも
英語圏以外の留学も選択肢として候補に挙がってくるのではないでしょうか?

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デンマーク工科大学(DTU)環境工学、Ph.Dプログラム紹介
吉田 浩子
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デンマーク工科大学 環境工学部
はじめまして
デンマーク工科大学(DTU)で今年の一月から環境工学博士課程に在籍してい
ます吉田浩子と申します。デンマークに移り住む前は米国で学士号と修士号を取
得しました。アメリカとデンマークの制度の違いを強調しながら学生生活をレポ
ートできればと思います。
DTUはコペンハーゲンから電車で15分ぐらいいったところにLyngbyという街
にあります。コペンハーゲンを想像して大学に来ると少し期待はずれでがっかり
するかもしれません。大学周辺にはガスステーションとスーパーマーケットがか
ろうじてある程度です。なので学生の多くはコペンハーゲンに住んで電車やバス
で大学に通う人が多いです。大学自体は工学系の学科しか存在しない専科大学で
男女比率はだいたい3対1になります。ただ私の所属する環境工学科(DTU-Environment)
は女子も多く1対1ぐらいになります。研究室によっては10にいる博士課程の
学生が全員女性だったということもあります。環境工学の分野では自体はかなり
の大所帯で全体でスタッフが140人 そのうち 博士課程の学生が55人 ポ
スドクの研究者が15人程度になります。
私はその中でも3R Institute という研究室で廃棄物に関するライフサイクルア
セスメント(LCA)が主なテーマになります。デンマーク工科大学は LCA関係
では研究拠点のひとつであり 2010年に取りまとめられ 発表された環境毒
性学のコンセンサスモデル USEToxの開発の中心を担いました。現在は日々進化す
るLCAの方法論をどう実際に使うかというのが私たちの研究グループの主な
テーマです。私自身はその中でも下水場から出る沈殿汚泥の処理に関する環境負
荷を算定する計算機の開発に当たっていますので研究内容的にはかなり文系に
近い分野にいます。

デンマーク人は計画好き
研究室に入ると一番初めにやるのは三年間の研究概要を書くことです。その中で
三年間の予定をたてます。これは自分研究の方針を決めるという以上に 大学と
学生の間のコントラクトという性格が強く、ここに書かれた以上のことを教授は
生徒にさせてはいけないというルールがあるそうです。といっても 自主的に 
生徒がそれ以上のことをやりたいというのはありなのですが。
DTU-Environmentでの博士課程要件はかなりゆるく以下の4項を満たせれば
博士号が受理されます。
・30単位の授業を履修
・大学外のパートナーとの共同研究
・一学期分のTA
・三本から四本の論文または学会発表とそれを取りまとめた博士論文の提出

米国のような試験はありません。そのかわり博士課程の延長は原則認められて
いないので三年間はわき目を振らず研究に没頭することになります。
一つ変わっているのは論文の審査委員を担当教官のほかに DTUから一人、
デンマーク内の他の大学から一人、そして海外の大学から一人の計四人が審査
することが義務付けられている点です。これもあわせて 他の大学との提携が
DTUの特色かもしれません。また単位の互換が比較的簡単にできるのでやる
気があればデンマーク国内のみならずヨーロッパ中の工科大学に短期留学をし
て単位を取得することが可能です。

ユニークな授業方法
まずデンマークで修士以上の学位をとるのにはデンマーク語は必要ありません。
クラスの中に一人でも外国人がいたら英語で授業が行われます。外国人は
三年間はただでデンマーク語のクラスをとることができますがデンマークに
卒業を残りたいという強い意志がない限りデンマーク語はまったく必要ありま
せん。教授もクラスメイトもガソリンスタンドの店員さんも英語に堪能なので
努力をしなければデンマーク語が必要になることはまずありません。ただ 
英語がネイティブではない分確かに授業の内容はアメリカの大学よりも二割
から三割ほど薄い授業もありました。
デンマークはとてもユニークな教授法を採用しているので教えるのがすきと
いう人には面白い国かもしれません。たとえば私が今学期授業を取った
コペンハーゲン大学では最終試験が口頭試問の形をとっています。10ページ
のレポートをグループで三つ提出するという課題がありますが成績はこの
口頭試問一発勝負です。テストの形式は箱の中から課題をくじ引きで決め
20分の準備期間が与えられます。この間はノートやプリント、ウィキピディア
などどんな情報を参照してもよくその間に与えられたメモ帳に要点を書き出して
いきます。その後20分間教授から質問攻めに会うというものです。この方法が
デンマークでは一般的らしくだいたい高校からこのようなテスト形態が増えて
くるそうです。
もうひとつの授業形態がProject Based Learningというもので工学系の授業で
よく採用されています。講義は最小限またはまったくなく その代わりに学生
がグループで与えられた課題に取り組みそれをレポートにして提出するという
ものです。教授は相談役に徹し、生徒は決められた教授との面会時間の間に
質問をし プロジェクトの方向性を決めるということを繰り返すというほうほう
で学びます。この教授法はデンマークが発祥らしく有名なところでは 
南デンマーク大学の工学部はすべての授業がこのPBLだそうです。
このようにデンマークの大学は本当に勉強したい人が来るところという
感覚が強く どれだけ学べるかは生徒それぞれの自主性にかかっていると
いえるでしょう。

ちょっと現実的な話
さて最後にとても現実的な話をしましょう。デンマークと聞くと税金が
ばかたかいというイメージがあると思いますがまったくそのとおりです。
所得税はポスドクで26% 学生で32%、消費税は25%かかります。
そのほかの待遇も博士課程の学生は大学の職員扱いなので米国や
ヨーロッパ諸国と比べてもかなりいいと思います。たとえば週の
法定労働時間が37時間なので6時より後に残っている学生・教授は
ほとんどいません。二年目からは学生でも有給休暇が5週間つきます。
法定休日をあわせると一年に二ヶ月働かない計算になりますのですべてが
ゆっくりしたテンポですすみます。国民皆保険制度のある国なので医療費は
ただです。ただ 歯科治療にはかなりお金がかかります。また日本のように
至れり尽くせりの医療は期待するべくもなく 風邪程度ではまず薬を出して
くれませんが。そのほかにも産休も一年まで有給で取ることができます。一番
いいのはこの一年を父親と母親でわけることができるところです。たとえば 
博士課程に在学中に奥さんに子供が生まれた場合に 男女そろってはじめの
三ヶ月産休を取り その後に時間の融通が聞くほうがのこりの6ヶ月を消費する
ということができます。なので女性にはとても頼もしい社会だといえるでしょう。
デンマークへの留学ですが修士課程では米国と同じようにで
アドミッッションオフィスに応募します。大学によっては授業料免除になる
エリートプログラムのある大学もあります。博士課程は研究室のあきが大学
のVacanciesの欄に出ますのでそこから教授や研究室に直接応募するのが
一般的で書類や手続きはまちまちです。たとえば私の研究室では少し変わった
選考方法を採用していています。志望理由書の代わりに 研究室に空きができる
と教授が1から2ページほどの研究概要を公示し リサーチプロポーザルを
かかせるのです。その中で教授は研究室が持ってるグラントや自分の思惑に
一番近いプロポーザルを書いた生徒を選ぶそうです。また 見込みのある
修士課程の学生や直接つながりのある研究室の学生を6ヶ月程度
リサーチアシスタントして雇いその働き振りを見てから博士課程に進むのを
許可するということも多々も多いとききました。 

最後に
留学を目指すときについ英語圏に目がいきがちだと思いますが 非英語圏
でもいいプログラムはたくさんありますし 非英語圏のプログラムから
英語圏へ交換留学することもできます。もしもEU圏で大学院に行くことを
目指すのならば 一番大切なのは自分がやりたい研究テーマを少しでも早く
見つけて的を絞っていくことだと思います。EU圏の大学院は学士や修士過程
で関連分野を修めていなければ応募することすらできません。米国と
研究テーマを抜本的にかえることはほぼ無理だといってもいいでしょう。
でも もしもあなたのやりたいことがはっきりしてるのなら、非英語圏の
プログラムもぜひ目を通してみてください。個人的にはデンマーク他北欧は
のんびりしていて非常にお勧めです。

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自己紹介
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吉田浩子(よしだひろこ)
2010年ウィスコンシン大学 環境学部・工学部卒業。
2011年よりデンマーク工科大学にて廃棄物処理に関する
LCAおよび都市の物質循環を研究中。
中国・コスタリカにも留学経験あり。
詳しい経歴は以下のリンクをご参照ください
http://www.linkedin.com/pub/hiroko-yoshida/26/514/8a7 

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編集後記
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私の所属するブラウン大学では最近日本人がどんどん減ってきています。
他の大学の人に聞いた話でもやはり日本人は減少傾向にあるとのこと。
メルマガ等を通して、より多くの人に留学に興味を持ってもらえればと
思います。(石井)

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