E-Mag‎ > ‎2010‎ > ‎

研究に役立つ書籍:「グリンネルの科学研究の進め方・あり方」

posted Jan 30, 2012, 11:49 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:49 AM ]
これまで留学や研究に役立つ本についての記事を、あまり書いてきませんでしたが、
これからは散発的に、当ネットで紹介していきます。


さて、第一弾は「グリンネルの科学研究の進め方・あり方」です。
http://kagakusha.net/Grinnell.htm


読んでみた感想を一言でいうと、「このような本を大学院入学前か大学院初期に読んでおけたら良かった」。この本に書いてあることは、長年研究生活をしてきた上で、薄々気づいていたことが結構あるのですが、具体的な文章として読んだことはあまり無く、もっと早くから知っていれば、無駄な時間を費やさないでよかったのに、と思います。

筆者のグリンネル教授は、テキサス大学サウスウェスタン医療センターの教授で、細胞生物学の科学者であると同時に、「科学政策と社会」に関するさまざまな研究を行ってきたことで、よく知られています。

筆者が言うように、大学院の講義では、専門知識や実験手法に関すること・論文の読み方・ディスカッションの仕方などはみっちり教えられるのに対して、「実際に実験を行うにあたっての心構え」とか「科学研究をとりまく環境」について教えられることは、ほとんどありません。このことが、「授業の成績優秀な学生」が必ずしも、研究では実績を残せてない理由の一つではないかと、私は思います。

例えば、この本で議論される以下の項目が、特に参考になりました。


・すべての科学研究者は「何を、いつ、どう研究すべきか」「誰が支払うべきか」「発見にはどんな意味があるのか」という問題に直面しているが、この本の全体で、これらへの一般的な洞察と答えが示されている。

・科学研究に費やされる時間は、「ヒューリスティック(発見)」「デモンストレイティブ(論証)」「失敗」の3つの場面があるが、実際に最もウェイトが大きいのは3つ目の「失敗」である。「研究がほとんど失敗する」ということは、非研究者や大学院に入って間もない研究初心者などには、あまり理解されていない。

・しかし、教科書や論文などでは、現実の研究作業(失敗や発見までの経緯など)がアウトサイダーに知られることはめったにない。教科書は事実の羅列であり、論文は発見の形式的書類である。このように、「論文にみる研究の進め方」と「現実の研究の進め方」のギャップが大きく、後者に関して講義を受けることはあまりない。

・このように、科学研究の実際は、見かけ(教科書や論文)と裏腹に、論理と客観よりも、直感と情熱に大きく依存していることを、認識しないといけない。発見は、生身の研究者の興奮と冒険の結果である。そして、社会のさまざまな側面とリンクしていることを認識する。

・新しい「研究テーマ」に着手する前に、満たしているかどうか検討しなければいけない3つの基準。

・科学的「発見」をするに重要な、7つの事柄。また新しい発見をするのに必要な「物事のとらえ方」を進化させる方法。

・発表した論文が「信用」を得るプロセスとインパクトについて。

・科学技術予算と政策の傾向。研究費を獲得するのに重視される事柄と、それが科学研究の本質と矛盾する点は何か。

・初期の遺伝子治療はなぜ進歩しなかったのか。

・科学と宗教は「完全に分離」でも「完全に統合」でもなく、「相補的」であるべきだ。「インテリジェント・デザイン」でなく、「インテリジブル・デザイン」の信仰のすすめ

・科学研究を行うにあたって、「全体主義」と「細分化主義」の両方の視点を理解する。


これ以外にも、多くの興味深い話題があげられています。これから研究の世界に入っていく大学院生には必読の本です。研究歴の長い研究者にも、実は知らなかったこと、改めて重要なことだと再確認されることが多く取り上げられており、きっと役立つことと確信しています。


[目次はこちら]
http://www.kyoritsu-pub.co.jp/shinkan/shin0911_07.html


Comments