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【海外サイエンス・実況中継】University of California, Riversideのプログラム紹介

posted May 18, 2012, 10:57 AM by Yunke Song   [ updated May 18, 2012, 10:57 AM ]

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ December 2010, Vol. 53, No. 27
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引き続き、12月の担当をさせていただく、メリーランド大学の中山由実です。
今年最後の配信になります。来年も、どうぞカガクシャネットをよろしく
お願いいたします。皆様、よいお年をお迎えください!

今回は、前回と同じく、University of California, Riverside (UCR),
Department of Chemical and Environmental Engineering (CEE) 所属の
Ph.D.コースの4年生中尾俊介さんが、プログラム紹介に続き、
大気環境化学の論文紹介を執筆してくださいました。

環境科学、特に大気環境は本当に地球規模の研究で、すべての要因を
考慮しなければならない、複雑な、しかしやりがいのある分野だな
と改めて感じました。化学、有機化学反応からしばし離れていた私には
新鮮な研究分野でした。

メルマガについて、ご意見などございましたら、カガク
シャネットホームページ経由、 Eメールでもご連絡をお
待ちしております。今後配信して欲しい内容や、その他
の要望などもお待ちしております。http://kagakusha.net/

私たちの最新著書、理系大学院留学(アルク社)
http://kagakusha.net/alc/ につきましても、手に取り
ご覧になっていただければ幸いです。どうかよろしく
お願い申し上げます。

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UC Riverside,
Chemical and Environmental Engineeringのプログラム紹介(後半)
大気環境化学の論文紹介

中尾 俊介
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こんにちは、University of California, Riverside (UCR),
Department of Chemical and Environmental Engineering (CEE) 所属
の中尾俊介です。
今回は最近大気化学の特にエアロゾル(空気中の小さな粒子)の分野で
注目されているイソプレンの論文について、
その背景をメインに簡単に紹介したいと思います。

大気化学とは、大気中で起こる化学反応についての学問ですが、
私はエアロゾルといわれる大気中の粒子、特に有機物の反応によって生成する
微小な粒子(直径数十ナノメートルから数百ナノメートル)に注目しています。

大気中の有機物が酸化されることで揮発性が下がり、気体だったものが粒子
となります。このような粒子の気候への影響が、地球温暖化予測の
最も不確かな点の一つですので、多くの研究者が取り組んでいます。

エアロゾルの気候への影響は、直接効果と間接効果に分類されます。
直接効果とは粒子そのものが直接太陽光を散乱・吸収することによる効果で、
間接効果とは粒子が雲の核となり雲の寿命、太陽光の反射率、降水パターン
を変えるなど間接的に気候に影響を及ぼす効果のことです。

とくにこの間接効果の理解が遅れていて、エアロゾルの生成過程や変質過程
およびその気候への影響を理解する事が重要なテーマとなっています。
またエアロゾルは人体の健康に悪影響を及ぼし、
視程障害(遠くが霞んで見えなくなる事)を引き起こす事からも、
生成過程の理解が求められています。

エアロゾルの約3〜7割程度は有機物からなりますが、
これらは数百、数千もの有機物の反応に由来していてあまりに複雑なため、
その由来や生成過程についての疑問が山積しています。

しかし、近年この有機物の数%もしくはそれ以上がイソプレンという
たった一つの炭化水素の反応に由来する可能性が出てきました。

イソプレンは5つの炭素からなり2つの二重結合を持つ炭化水素です。
イソプレンは地球上で年間約5億トンもの膨大な量が主に植物から
排出されており、メタンを除く炭化水素の中で圧倒的に排出量の多い物質です。

イソプレンは小さな分子で揮発性が高いので、
酸化されても粒子は生成しないだろうと考えられ、イソプレンからの
エアロゾル生成は無視されていました。
しかし、近年、小さな分子が二つ、三つと繋がり大きな分子を作る
いわゆるオリゴマー化が粒子上で起こっているのではないかと
考えられるようになり、イソプレンからのエアロゾル生成も
注目されるようになりました。

イソプレンからのエアロゾル生成の割合は小さいですが、
イソプレンそのものの排出量が非常に多いため、掛け算をすれば
とても無視できない量であることが示唆されています。

イソプレンからのエアロゾル生成をより詳しく評価するためには、
化学反応のメカニズムを理解する必要があり、
多くの研究者が取り組んでいます。

そこで、昨年カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究グループが
Science誌に出した論文に代表される一連の研究は、イソプレンの
反応メカニズムの理解を進める上でインパクトの大きいものでした。
Paulot et al., Science 325, 730-733 (2009).

大気中の窒素酸化物(NOx)の濃度によってエアロゾルの生成量が
変わってくる事についてはここ5〜6年で徐々に理解が進んできました。
また粒子の酸性度もエアロゾルの生成量に影響する可能性があります。

Caltechのグループは、NOx濃度の低い条件、高い条件での反応メカニズムを
調べ、新しい重要な中間生成物を見つけ、NOxの影響、酸性度の影響について
議論しています。

イソプレンそのものは植物由来ですが、NOx濃度や粒子の酸性度は
人為的な要因が大きく寄与します。
人間活動の大気環境への影響を考える上でこうした研究は
非常に重要となります。またこうした反応メカニズムの理解は、
構造の似た他の物質にも当てはめられて役立てられていきます。

このように、自然起源・人為起源の物質の反応は、
別々に起こるのでなく相互作用を及ぼします。
今回挙げたイソプレン以外にも様々な反応についての理解が
近年目覚しく進んでいます。

こうした研究成果が、いずれ何らかの形で気候変動モデルに
組み込まれたり、都市レベルでの大気汚染対策に役立てられたりなどして
各国の政策決定に影響を与えていくので、
将来の楽しみな、やりがいのある分野だと思います。

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執筆者自己紹介
--------------------------------------------

中尾 俊介

慶應義塾大学理工学部応用化学科卒業(2007年)
University of California, Riverside
Chemical and Environmental Engineering, Ph.D.課程
専門分野:大気化学・エアロゾル化学

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編集者自己紹介
--------------------------------------------

中山 由実

東京大学農学部獣医学課程修了。2008年、University of Wisconsin-Madisonにて
Ph.D取得。その後、Mt. Sinai Medical Centerにてポスドク、ボスの移動に伴い、
2010年10月よりUniversity of Maryland-Baltimoreでポスドクをしています。
現在の研究分野は移植免疫です。

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編集後記
───────────────────────────────────

アメリカではクリスマスはサンクスギビングに次ぐ大移動期間ですね。
実は今までこの時期に国内を移動したことはほとんどなかったのですが、
今年はまさにクリスマス時期に移動することになりました。
空港をスムーズに通り抜けられるように祈っています。
アメリカでも日本でも、あわただしい時期かと思いますが、
皆さま、安全で楽しい時をお過ごしくださいね!

中山 由実

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【海外サイエンス・実況中継】University of California, Riversideのプログラム紹介

posted Jan 30, 2012, 12:14 PM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 12:14 PM ]

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あっという間に今年も最後の月ですね。
12月の担当をさせていただく、メリーランド大学の中山由実です。
今回は、University of California, Riverside (UCR),
Department of Chemical and Environmental Engineering (CEE) 所属の
Ph.D.コースの4年生中尾俊介さんが、プログラムの紹介、Riversideでの
生活について執筆してくださいました。

以前に環境工学についてのメールマガジンを配信してから、個人的に
興味がある分野です。お楽しみください!

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最後に、アルク社からの書籍プレゼントのお知らせがあります。
お見逃しなく!

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UC Riverside, Chemical and Environmental Engineeringのプログラム紹介
UCR, Dep of CEEやRiversideでの暮らしについて(前)
中尾 俊介
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こんにちは、University of California, Riverside (UCR),
Department of Chemical and Environmental Engineering (CEE) 所属の
中尾俊介です。現在Ph.D.コースの4年生です。今回は私の所属する
UCR, Dep of CEEやRiversideでの暮らしについて簡単に紹介したいと思います。

(1)UC Riverside

UCRは、UC BerkeleyやUCLAといった、州立のカリフォルニア大学の一つで、
ロサンゼルスから東に約100キロほどの位置にあります。もともとは柑橘類の
研究所として始まったので、今も大学の周りにはオレンジ畑などがあります。
それに関連して、植物系・昆虫系の研究も盛んですが、他にも約50の専攻が
あります。大学ランキングはUCの中では下位の方ですが、良いプログラム・
研究室も沢山あり順調に成長していますので、これから大学院留学を
目指したいが、上位校が厳しいという場合にはオススメです。

(2)Department of Chemical and Environmental Engineering

私の学科は化学工学と環境工学が一つの学科となっています。
環境工学は主に、大気環境(大気粉塵や排気ガス)・水・エネルギーに
分かれます。
私の所属する大気環境グループの強みは世界最大規模の設備で、
光化学スモッグを実験的にシミュレーションするスモッグチャンバーや、
路上を走るトラックの荷台に丸ごと研究室を納めてリアルタイムで
排気ガスを分析するモバイルエミッションラボなどがあります。
水のグループでは、水中の病原菌や化学物質の輸送などに取り組んでいます。
エネルギーのグループでは最近注目のバイオ燃料に力を注いでいます。
バイオ燃料といえばトウモロコシやサトウキビから作るものが有名ですが、
彼らは食料となるもの以外から安価に効率よく燃料を作り出す事を
目指しています。
化学工学の分野には、ナノワイヤーなどの微小な素材を利用した
センサーを作るグループ、燃料電池の触媒を研究するグループ、
理論計算をするグループなどがあります。また材料工学のグループでは、
生物の構造を真似た材料を作るBiomimeticsに取り組んでいて、
その研究室にあるずらっと並んだエビやカニの入った水槽は工学部では
若干異質で興味深いです。

当学科では、いわゆるローテーションというものはありません。
約半分の学生は入学前から所属したい研究室がすでに決まっていて、
入学と同時か、少し早くから研究室で働き始めます。他の学生は、
三ヶ月ほど興味のある研究室のセミナーに参加してから決めています。
最終的にほとんどの学生が希望する研究室に所属します。

一年目はやはり講義がメインで、4つの必修科目、2つの選択科目を
履修します。必修科目は、

1.数学(微分方程式の解法など、教科書:
Rice and Do/Applied Mathematics and Modeling for Chemical Engineers)

2.反応速度論・反応工学(反応容器についての計算、
教科書:Schmidt/The Engineering of Chemical Reactions)

3.輸送現象(流体力学、熱移動、物質移動について、
教科書:Bird, Stewart, Lightfoot/Transport Phenomena)

4.熱力学(統計熱力学など、教科書:教授が執筆中の教科書)

でした。私は選択科目に、大気化学系のクラスを2つ履修しました。
一つの科目ごとに一時間半の講義が週二回・一時間のディスカッション
(問題演習)が週一回、というのがよくあるパターンです。私の場合は、
日本の学部で輸送現象についてちゃんと履修していなかったので、
大学院レベルの輸送現象は二年目に履修する事にして、
一年目は学部のクラスを3つ履修してカバーしました。
このように、ある程度違う分野から来た人も
学部のクラスを履修して皆に追い付く事が出来ます。
毎週宿題がしっかり出るので忙しいですが、友人と一緒に勉強した事も
今では良い思い出です。またアメリカに来る前は、授業はTOEFLの
リスニングのようなものを想像していて英語が聞き取れなかったら
どうしようと若干心配していましたが、使うのは基本的に数式か
化学式ですし、教科書を読めば必要な単語は頭に入るので
授業の英語自体はとても簡単で安心したのを覚えています。

一年目の終わりにはPreliminary examという筆記試験があります。
基本的に問題は学部レベルですが、範囲が広いので一ヶ月近くは
試験勉強に専念しないといけません。不合格となっても追加試験
など救済措置もあるので基本的に皆クリアします。また一般的に
二年目の終わり頃これまでの研究成果・今後の研究計画を5人の
教授に発表するオーラル試験(Proposal)があります。
まじめに研究していればこの頃には教授陣からの質問攻撃にも
耐えられるだけの力がついています。これで晴れてPh.D. candidate
として研究に専念し、基本的に5年でPh.D.を取得し卒業します。
皆授業料は免除され、十分な生活費を支給されています。

(3)Riversideの生活

Riversideはその名前とは似ても似つかぬ乾燥地帯です。
夏は非常に暑いですが、湿度が低いので日差しさえ避ければ
不快ではありません。冬は暖かいので快適です。Riverside自体には
モールがいくつかあるくらいでこれといった観光地は無いですが、
車で1~2時間の圏内で、スキー場・ロサンゼルス・サンディエゴ
など色々行くことができるので、私自身はレジャーや日本食には
困っていません。なお車は必需品です。

日本からのアクセスは、基本的に成田─ロサンゼルス(LAX)の直行便で、
LAXからは乗り合いのシャトル(Super Shuttleなど)や電車(Metrolink)
が利用できます。

次号は、大気環境化学の論文紹介になります。

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アルク社より、「科学技術英語徹底トレーニング」の下記4シリーズを
各1冊ずつ寄贈頂きました。

・「資源・材料・エネルギー工学」編(http://goo.gl/AZCC)
・「環境工学」編(http://goo.gl/EGZO)
・「ロボット工学」編(http://goo.gl/rwxk)
・「バイオテクノロジー」編(http://goo.gl/3ld8)

カガクシャ・ネット宛に頂いたものですので、
抽選で4名の読者の方にプレゼント致します。

初めて英語での論文執筆やポスター発表を控えている大学・大学院生を
対象に書かれているため、近い将来に控えている方に特にお勧めの書籍です。
また、該当分野の学術論文・ポスターを使いながら解説が進められるため、
特に上記分野を専門にされている方には最適でしょう。
なお、「ライフサイエンス」編が来春発刊予定だそうです。

一つだけ注意点があるのですが、書籍の内容チェック等のため、
既に CDが開封済みであったり、新品の状態でない物もあります。
書き込み等は一切ありませんが、中古品扱いとなること、ご了承願います。

プレゼントを希望する方は、応募ページ(http://goo.gl/7LV2Q)より、
必要事項を、日本時間の12/19(日)深夜24時までにご記入下さい。
抽選は非公開ですが、締め切り後に公正に執り行われ、当選者の方に
メールでご連絡致します。こちらからのメール送信後、
48時間以内に送付先等の情報をご返信頂けるよう、お願い致します。

最後になりましたが、4冊の書籍を寄贈して頂き、本プレゼント企画を
ご快諾頂きました、現 h+mlab(元アルク社)の岡田真紀様、
そしてアルク社の菊野啓子様に、心から御礼申し上げます。

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自己紹介
───────────────────────────────────
中山 由実

東京大学農学部獣医学課程修了。2008年、University of Wisconsin-Madisonにて
Ph.D取得。その後、Mt. Sinai Medical Centerにてポスドク、ボスの移動に伴い、
2010年10月よりUniversity of Maryland-Baltimoreでポスドクをしています。
現在の研究分野は移植免疫です。

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編集後記
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ボスの引越しに伴い、ラボの引越しを初体験しました。
聞いていたよりはスムーズに行ったかな、、と思うのですが、やはりまだ
実験を再開してどんどん結果を出す、、というわけには行かず、論文を
書いたり機械の注文をしたり、、、という日々です。
そしてThanksgivingにChristmas、New Yearとイベント続きなので大学も
お休みになり、本格的に始められるのは来年の年明けからになりそうです。
となると、聞いていたとおり、「3ヶ月は何もできない」というのも
あたっていますね。。。

寒くなってきたので、暖かくお過ごしください!

中山由実

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【海外サイエンス・実況中継】中国人のアメリカ留学

posted Jan 30, 2012, 12:14 PM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 12:14 PM ]

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引き続き、11月を担当させていただく、メリーラ
ンド大学薬学部 の小葦泰治です。さて今回も、前回
同様、ジョンズホプキンズ大学Biomedical Engineering
Ph.D.プログラムに在籍中の宋云柯(そう うんか)
さんが、中国人に留学生が多い、理由、文化的背景、
また日本の現状、問題点、彼なりの解決法、米国の
Ph.D.に参加することで、日本では得られないメリッ
トなどを、わかりやすく要点を抑えて執筆してくださ
いました。


留学を志す方々に加えて、大学で研究、教育に関わる
方々にとっても、非常に有益な情報だと思います。


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中国人のアメリカ留学
宋 云柯 (そう うんか)
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カガクシャ・ネット、メルマガ購読者の皆さま、
こんにちは。The Johns Hopkins University Department
of Biomedical Engineering 三年目の宋です。今週のメ
ルマガは「中国人のアメリカ留学」というトピック
で、私の日中米の研究や教育についての意見を、気
ままに書かせていただきました。私は北京で生まれ、
6 歳のとき日本に移り、その後日本で小、中、高、
大学の教育を受け、アメリカに留学しました。日本に
来てからも、両親から中国の文化と思想を学び、毎年
中国に帰っては、友人や親戚とよく話をし、中国のこ
とを理解しようと努力して参りました。このメルマガ
に書かせていただいたのは、経験と聞いた話に基づく
自分勝手な意見ばかりで恐縮ですが、お付き合いいた
だければと幸いです。


◆科挙の国、中国。

留学を志されている日本人の方の間には、「中国人は
死ぬほど勉強する」(または「中国人の GRE スコア
は異状に高い」)というイメージを持っている方がい
らっしゃるかもしれません。中国人の学歴・出世に対
する情熱は、何も現代だけでなく、中華の歴史を通し
て顕著に現れています。隋朝(598年)から清朝(1905
年)まで続いた科挙という官僚試験は、昔の中国国民
が、よりよい暮らしをするための唯一の手段でした。
そこで親は、子供に勉強の大切さを説き、一家の希望
として科挙を受けさせました。倍率は 3000 倍とも言
われ、受験合格者があまりのうれしさに発狂して廃人
になってしまうこともあったといいます。王朝が変わ
り、時代が変わっても、中国人の学歴・出世に対する
情熱は、「万般皆下品、惟有読書高(ただ読書のみが
尊く、それ以外は全て卑しい)」という言葉と共に
1300 年間、変わることなく受け継がれてきたのです。


◆現在の中国の受験

人口が増え続け、競争がますます激化している現在
の中国において、科挙に取って代わる難関試験は、
北京大学・清華大学の受験でしょう。中国の大学受
験は、各省の統一試験ひとつの成績ですべてが決ま
ります。例えば、清華大学は 2010 年に河南省に 72
名の合格枠を振り当てましたが、一億人の人口を誇
る河南省で上位 72 名の成績に入ることの難しさは、
いうならば、日本全国の高校三年生がもれなく参加
する全国模試で上位100位以内に入ることぐらい、
といえるでしょう。


◆アメリカ留学 ~更なる高みへ~

難関を潜り抜けてきた精鋭が大学受験後にほっと
一息つけるかというと、そうでもありません。清
朝以来、「欧米に追いつき追い越せ」の姿勢をと
り続けてきた中国人は、今でも根強い欧米へのあ
こがれを感じています。そのためか、中国のトッ
プで満足せず、世界のトップになってこそ出世だ
という考えが、中国社会では一般的に見られます。
例えば、中国の新聞の広告には受験関係のものが
異常に多いですが、内わけは留学関係と大学受験
関係が半々であるように思います。雑誌でもアメ
リカ名門大学についての記事はよく見られますし、
GREやTOEFL の練習本や留学塾の数も非常に多
く、社会全体がアメリカ留学を学業の最終目標と
して掲げているように思います。その結果、現在
世界でアメリカの Ph.D. をもっとも多く排出して
いる大学が清華大学、二位が北京大学、そして三位
にやっとアメリカの UC Berkley となっています。
つまりアメリカの大学よりも、清華大学、北京大学
の方が多くアメリカ大学院で Ph.D. を取る卒業生を
送り出しているということになります。


◆中国のサイエンス

中国経済と社会システムが成長するにつれて、Ph.D.
取得後に中国に戻る留学生はどんどん増えると考え
られます。これは中国のサイエンスおよび工業の急
激な発展を意味しており、アメリカや日本にとって
は一つの脅威となるでしょう。例えば、論文数ラン
キングでは2007年に中国が日本を追い越して世界
第二位になり、その後も急激に上がり続けています[1]。
また、Nature が発表した Science and the City とい
う記事でも、中国(特に清華大学および北京大学が
ある北京市)の論文数の異常な増加は明らかであり、
その速度は年々ましているようにも思えます [2]。


◆日本の現状

日本は Science においての世界での地位はかなり高く、
多くのよい論文を出している国です。しかし日本が少
子化・ゆとり教育による理系離れ・博士の就職難など
の問題を抱えていること、また Science に対する日本
政府のサポートが足りないことも事実です。それでは、
アメリカのような超大国や中国のような新興国に対抗
し、国際的なサイエンス社会において日本の競争力を
さらに引き上げるためには、どうすればよいのでしょ
うか。

日本は「ポスドク一万人計画」によって、博士の数を
すでにかなり増やしています。サイエンスの結果は、研
究者の数×研究者の質で決まるとして、博士の数をこれ
以上増やしにくい日本にとって、博士一人ひとりの質を
保つ、またはさらに向上させることがきわめて重要であ
るように思います。これはあくまで私の意見ですが、博
士課程で留学することは、研究者として成長するいい機
会であると思います。その理由は、

1: 世界をみることで、いい刺激をもらえること。世界
中から集まった優秀な学生や研究者と共に学ぶことで、
自分の未熟さを知ると共に、高い目標を持ちやすくなり
ます。

2: プレゼンテーションやトーク等の技術が上達するこ
と。アメリカに来て知ったことは、自分の意図をうま
く表現して読者・視聴者に伝えることは、実験でよい
結果を得ることと同じくらい重要であるということで
す。アメリカの学生や教員は表現に長けているので、
彼らから学ぶことは多いように思います。

3: 英語がよく身につくこと。グローバル化した現在の
社会で活躍するには、英語を身につけることは must です。

4: 日本を出て、新しい環境での勉強・研究生活を送る
ことで、人間としての行動力が上がること。

などが挙げられます。日本には、忍耐力、勤勉さ、独
創性などのすばらしい素養を持った学生がいっぱいい
ます。そのような方々が勇気を持って世界に出て行き、
どんどん活躍することができたら、日本のサイエンス
や工業はもっと成長するのではないかと、私は思いま
す。


________________________________

[1] With output and impact rising, China’s science surge rolls on
http://sciencewatch.com/ana/fea/08julaugFea/
[2] Science and the City
http://www.nature.com/news/specials/cities/best-cities.html
________________________________


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
自己紹介
-----------------------------------

宋云柯 (そう うんか)
慶應大学理工学部生命情報学科卒業。現在、アメリカ
東海岸のJohns Hopkins University,School of Medicine,
Department of Biomedical Engineering Ph.D. 課程
に所属マイクロ流体工学、一分子蛍光検出に関する研
究に従事。
専門分野:生体工学


小葦泰治
関西大学工学部生物工学科卒。京都大学大学院生命科
学研究科修士課程中退。Mount Sinai School of Medicine
of New York University (Ph.D.)。現在、University
of Maryland School of Pharmacyにて、世界第4位のス
パコンKrakenなどを用い、創薬ならびに、実験では解
析の難しい病気関連タンパク質の原子レベルでのシミュ
レーション研究に従事。また科学技術政策にも興味があ
ります。
専門分野:生物物理、計算機化学、分子シミュレーション

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記
-----------------------------------

留学とは関係ありませんが、大学一年時、二年時から
研究室に入って何か実験を始めるのもいいかもしれま
せん。アメリカにはそういう学生が多く、みな博士課
程に入るころには経験豊富でばんばん実験ができる研
究者になっています。私も早めに研究室に入っていた
らよかったのに。。。といまさらになって思うので
した。(宋)

スーパーコンピュータの最新ランキングがこの11月
に発表されました。様々な指標(演算処理、消費電力
など)でのランキングが発表されています。演算速度
だけで見ると、中国が1、3位にそれぞれ1秒間に
それぞれ2556兆回、1271兆回の浮動小数点ができ
ます。米国は2位、日本は4位(1192兆回/秒)が最高
です。ただ省エネ部門、また別のマシーンですが、
自分たちがタンパク質のシミュレーション計算で用
いる、高速フーリエ変換では健闘していて、まだま
だ捨てたものではないと思いますが、開発にまつわ
る付随技術の開発、次世代の人財育成、応用研究の
促進、すべてにおいて世界1位になる意義は、科学
技術立国を掲げる日本にとっては、非常に大きな意
味を持つので、日本政府の関係者のみなさまには、
長期的な視野に立ち、目先のことに惑わされず、こ
れからの日本に本当に何が必要なのかを熟慮し、政
策および、予算を割り当てられることを、スパコン
を毎日利用する、現場の研究者として、強く望みます。
(小葦)


━━━━━━━━━━━━━━━━━
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【海外サイエンス・実況中継】ジョンズホプキンズ大学 Biomedical Engineering Ph.D.プログラム‏

posted Jan 30, 2012, 12:13 PM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 12:13 PM ]

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ November 2010, Vol. 53, No. 24
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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11月を担当させていただく、メリーランド大学薬学部
の小葦泰治です。こちらは、日曜日の夜中に時計の針が
1時間後ろに戻り、夏時間(Daylight saving time)から、
標準時間に戻り、1時間余分に寝れ、すごく得をした気分
です。ちなみに現在、米東海岸(ニューヨーク、ワシン
トンDC)と日本の時差は14時間です。


さて今回は、ジョンズホプキンズ大学にいらっしゃる
宋云柯(そう うんか)さんに、大学や所属されている
Biomedical EngineeringのPh.D.プログラムについて、
またプログラムへ応募する際に、選考委員の方々が出願
者のどのような部分を見て、また評価しているのか、
さらにそれを踏まえて合格率を上げるために気をつける
といい点のアドバイス、それから卒業後の進路、大学の
ある街ボルチモアについてまで、幅広く、非常にうまく
要点を抑えながら執筆してくださっています。


ちなみに、このプログラムは、この分野では全米一と
言われていて、私たちカガクシャネットの主要メンバー
がこのようなプログラムで活躍されていることは、もの
すごく誇りです。


私も宋さんとは、個人的に何度もお会いさせていただい
ていますが、すごい好人物で、個人的にも活躍を期待し、
将来が楽しみな後輩の一人です。


メルマガについて、ご意見などございましたら、カガク
シャネットホームページ経由、 Eメールでもご連絡をお
待ちしております。今後配信して欲しい内容や、その他
の要望などもお待ちしております。http://kagakusha.net/


私たちの最新著書、理系大学院留学(アルク社)
http://kagakusha.net/alc/ につきましても、手に取り
ご覧になっていただければ幸いです。どうかよろしく
お願い申し上げます。



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Johns Hopkins University School of Medicine
Biomedical Engineering (BME)
Ph.D. Program 宋 云柯 (そう うんか)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 


カガクシャ・ネット、メルマガ購読者の皆さま、
こんにちは。私は Johns Hopkins University (JHU) 
School of Medicine, Department of Biomedical 
Engineering (BME), Ph.D. Program 三年目の宋 云柯
(そう うんか)と申します。(生まれは中国北京なので、
名前がちょっと変わっていますが、小学校から大学まで
日本で育ちましたので、半分日本人みたいなものです。)


さて、このメルマガでは、まず私が所属するJHU につい
て簡単に紹介をさせていただきます。


◆Johns Hopkins University (JHU)について

アメリカ東海岸メリーランド州ボルチモア市にある、
大学生約5000人、大学院生約1700人の小さな大学です[1]。
1876年にアメリカで最初の研究大学としてJohns Hopkins
の寄付金によって設立ました。


アメリカで最初に博士号(Ph.D.)を授与したのも、
初めて実験室で化学実験を行ったのもJHUだといいます[2]。
学生、教師含め過去に計33人(医学・生理学賞16人、
平和賞3人、経済学賞5人、化学賞5人、物理賞3人、文学
賞1人)のノーベル賞学者を輩出しています。


ショウジョウバエの遺伝学実験で有名なノーベル賞
学者、トーマス・ハント・モルガンもJHUでPh.D.を
取得しています。また、最近では2009年にCarol 
Greider教授がノーベル医学・生理学賞を取得しました。


JHU School of Medicineは、それ自体がアメリカで
よく名の知られた医学部・医学研究科であり、Biomedical
Research のほぼすべての分野において世界最先端の
研究を行っています。例えば、研究者の評価の指標
として、よく引用数(ある研究者の書く論文が、どれ
だけほかの論文から引用されるか)が用いられますが、
ただ今世界で最も総合引用数が高い研究者はJHUの教
授です(Bert Vogelstein, M.D.)。


また、細胞シグナル伝達できわめて重要なp53という
癌抑制遺伝子を発見したもの、初めての制限酵素を
発見したのも、免疫の補体の一連のメカニズムを発見
したのもJHUです。



◆JHU BME博士課程について

私が所属するBMEは、学部と修士課程がSchool of 
Engineeringに、博士課程がSchool of Medicineに
属するユニークな学科です。JHU BMEは全米で最も
歴史が古く、最も大きく、また最も高い評価を受け
ているBME学科のひとつでもあります[3]。

BMEがカバーする分野はCells and Tissue Engineering, 
Cardiovascular Systems, Medical Imaging, Systems 
Neuroscience,Molecular and Cell Systems, Bioinformatics 
and Computational Biologyと広く、数多くの教員、
研究員が各分野でユニークな研究をしています。バイ
オと工学の両方の知識と研究経験を得たい学生、また
は実際に医療に役立つ機器を作りたいという学生には
お勧めの学科でもあります。


博士課程に入ると、一年目と二年目はコースワーク
(授業)が比較的多く、研究になかなか時間をとるこ
とができないことが多々あります。しかし、授業はい
ずれも内容が濃く、研究に有用なものが多いので、長
期的には有益なシステムだと思います。


博士課程二年目または三年目にはGraduate Board Oral 
Examinationという試験があり、これに落第すると博士
課程から追い出されることになります。合格基準は、
他校に比べて甘いと思います(落第率約3%)。四年
目にはThesis Proposal(NIHへの研究費申請フォーマ
ットに従って、自分の研究を5人の教授の前で説明し、
質問に答える試験)を受ける必要があります。そして
最終試験として、卒業間じかにThesis Defense(博士
課程で自分の行った研究を要約して教授方に説明し、
質問に答える試験)に合格すれば、晴れてPh.D.を取得
することになります。


他校の多くの博士課程と同じく、JHU BMEの学生は全員
が学費を全免除され、それに加えて給料を受け取ります。
給料は毎年ほんの少しずつ上がり(2010年は$27,125)、
生活に困ることはない額が支払われます(たいして贅沢
はできませんが)。給料のほかにも、健康保険が学校に
よってカバーされ、ほとんどの医療代が無料か10ドル程
度になります。



◆受験の仕方、アドバイスなど
一般的なアメリカ大学院の受験の仕方については
「理系大学院留学-アメリカで実現する研究者への道-」
http://kagakusha.net/alc/)をご覧ください。


JHU BME博士課程への合否は、教授陣の投票によって決
まります。つまり、数ラウンドの書類選考を経て、一部
の受験生が候補として選ばれると、すべての教授が集ま
り、どの受験生を合格させるかを話しあい、投票します。
学生は給料をもらう研究者であり、6年前後の比較的長
い時間と多くの資金を費やして育てることになりますの
で、教授陣は「この学生はどれだけ勉強ができるか」と
いうより、「この学生はJHUの研究に必要な人材である
か」という視点で学生を評価することになります。です
から、受験生が書くエッセイ(Statement of Purpose)
では、自分の成績の良さ、GREやTOEFLのスコアの良さを
強調するよりも、この大学でどのような研究をしたいか
ということを強調して書くべきだと思います。
(編集者注: これは比較的、多くの大学で共通しているこ
となので、これから出願を考えられている読者のみなさま
には、特に留意していただきたいと思っています。)


◆卒業後の進路について
Ph.D.取得後の道は比較的自由です。アカデミアへの道を
歩む人もいれば、会社に入って得た技術を製品開発に応
用する人、コンサルタントになる人、銀行に入る人等、
いろいろな人生を選ぶ人がいます。


たとえば私の研究室から卒業した人は過去二人いて、ひ
とりは大手電子機器メーカーに、もう一人は大手コンサ
ルティング会社に入りました。もう一人、卒業間じかの
学生は博士課程の間にベンチャーを起こし、卒業後は自
分の会社で働くようです。


◆ボルチモアについて
人口ランキングによると、ボルチモアはアメリカで約20
位前後の中型の都市のようです[4]。魅力としては、港が
あるダウンタウンがきれいであること、ワシントンDCに
車で一時間の距離、ニューヨークに三時間の距離である
ことなどが挙げられます。蟹が名物です。


ボルチモアはアメリカトップレベルの犯罪率を誇ります。
それだけを聞くと、生活環境はかなり厳しいように感じ
られますが、夜一人で危険エリアに出かけなければ、ま
ず事件に巻き込まれることはありません。


◆最後に
JHUに限らず、アメリカには多くのよい研究大学があり
ます。博士課程で日本を出て世界を見てみることは、
なかなか刺激的で面白いことだと思います。つらいこ
ともあるかと思いますが、それを乗り越え、自分ひと
りで問題を解決する、または自分ひとりで何かを成し
遂げるというのは、とても有意義なことです。もし留
学に興味がある方がいらっしゃいましたら、ぜひとも
がんばってチャレンジしてください。


________________________________

[1] http://members.ucan-network.org/jhu

[2]http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%97%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B9%E5%A4%A7%E5%AD%A6

[3] http://grad-schools.usnews.rankingsandreviews.com/best-graduate-schools/top-engineering-schools/biomedical

[4] http://www.infoplease.com/ipa/A0763098.html

________________________________


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自己紹介
-----------------------------------

宋云柯 (そう うんか)
慶應大学理工学部生命情報学科卒業。現在、アメリカ
東海岸のJohns Hopkins University,School of Medicine, 
Department of Biomedical Engineering Ph.D. 課程
に所属マイクロ流体工学、一分子蛍光検出に関する研
究に従事。
専門分野:生体工学


小葦泰治
関西大学工学部生物工学科卒。京都大学大学院生命科
学研究科修士課程中退。Mount Sinai School of Medicine
of New York University (Ph.D.)。現在、University
of Maryland School of Pharmacyにて、世界第4位のス
パコンKrakenなどを用い、創薬ならびに、実験では解
析の難しい病気関連タンパク質の原子レベルでのシミュ
レーション研究に従事。また科学技術政策にも興味があ
ります。
専門分野:生物物理、計算機化学、分子シミュレーション

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記
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アメリカに来たあと、食生活に気をつけないと、大変な
ことになります。あと、日本のご飯が恋しくなる。日本
にいるうちに、おいしくて健康的なご飯をおなかいっぱ
い食べてください。 (宋)


あくまで個人的な意見ですが、知日派、親日派の中国人、
また米国へ留学中の心ある中国人の方々は、中国人ノー
ベル平和賞受賞者(2010年度)の劉暁波氏、天安門大虐殺
事件(1989年)、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件(2010年)
などを、日本、米国、英国などのニュースで情報を得、
非常に公平かつ冷静に中国共産党政府がいったい何を行
っているのか、なぜ中国本土内で、youtube、twitter、
facebookが禁止され、情報統制が敷かれているのかにつ
いて、ものすごく疑問を持ち、それらを明らかにおかし
いと言っている方々を知っています。なので、個人的に
は中国人だからと言って日本人が敬遠してしまうことに、
強い懸念を抱いています。


一方、1895年以降、尖閣諸島は国際的にも日本固有の領
土で、中華人民共和国が 1949年の建国当時、尖閣諸島
の領有権を主張せず、1968年に地下埋蔵資源が確認され
て以降、中国、台湾が相次いで領有権を主張という流れ
なので、日本政府は弱腰ではなく、命がけで日本国民の
生命と財産を守るために、毅然とした態度で中国共産党
政府と対峙する、また同様のことをロシア政府に対して
も行うことを海外在住の憂国の日本人として、断固望み
たいと思います。(小葦)



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Purdue(パデュー)大学の大学院プログラム

posted Jan 30, 2012, 12:12 PM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 12:12 PM ]

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_/ October 2010, Vol. 53, No. 23
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10月を担当させていただく今村文昭です。
先日のメルマガでは、ボストンは快適・・・
記載しましたが、一転して氷点下まで気温が
落ち込む気配がしてきました。
皆さん、季節の変わり目、風邪などにはお気
をつけて・・・


今回は、Purdue大学にいらっしゃる岩田愛子
さんに寄稿して頂いた、ご自身がいらっしゃ
る生命科学系の学際プログラムについての紹
介となります。
最後にふれますが、Purdue大学は10億円規
模のファンドを国から受けて、新たな人材育
成の環境を築いているようです。その一片を
ぜひご覧ください。


メルマガについて、ご意見などございました
ら、カガクシャ・ネットホームページ経由、
Eメールでもご連絡をお待ちしております。
今後配信して欲しい内容や、その他の要望な
どもお願いします。
http://kagakusha.net/
Kagakusha.netからの本についても、手にとら
れていない方、興味を持って頂けたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
http://kagakusha.net/alc/


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Purdue University
Interdisciplinary Life Science
Ph.D. Program

岩田愛子
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こんにちは。Purdue University Interdisciplinary
Life Science Ph.D. Program (PULSe) 所属の
岩田愛子です。

根岸英一特別教授のノーベル化学賞受賞の
ニュースで、Purdue大学について知られた方
も多いと思います。今回はPurdue大学と、私
の所属しているPULSeプログラムについて、
そして、大学のあるWest Lafayette市での生
活について紹介したいと思います。


■Purdue 大学
Purdue大学はインディアナ州にある州立の総
合大学で全生徒数は40000人、200以上の専
攻科目がある大きな大学です。

インディアナポリスから北西へ車で1時間、
シカゴから南東へ2時間半のWest Lafayette
市に位置しています。大学のまわりは、大豆
ととうもろこし畑の広がる典型的なアメリカ
中西部の田舎の風景が広がっています。

留学生の数は5000人以上で、全米公立大学の
中では二番目に多く、特に中国、インド、韓
国、南米からの留学生が多く在籍しています。

しかしながら、日本人学生は学部生、大学院
生あわせて70人ほどしかおらず、キャンパス
で日本人と出会うことはほとんどありません。

対照的に、留学生の中で一番多い中国人は理
系のほとんどの研究室で最低一人は存在して
いることが多いです。

理工系分野のレベルは高く、特に、航空宇宙
工学は有名で、多くの宇宙飛行士を輩出して
おり、初めて月面着陸を成し遂げたニール・
アームストロング船長も卒業生の一人です。

航空宇宙工学以外では、根岸英一特別教授の
おられる化学科や、透明マントの開発で有名
なナノテクノロジーの分野、農学分野での
ノーベル賞と言われるWorld food prizeを受
賞したGebisa Ejeta教授のいる農学分野、薬
学、獣医学、コンピューターサイエンスなど、
多くの理工系分野が高い評価を受けています。


■PULSe
私の所属しているPULSeプログラムは既存の
分野にとらわれず、ライフサイエンスに関わ
る様々な分野を勉強したり研究したりする機
会を学生がもてるように設立されたもので、
現在、27の学部の185人の教授陣が所属して
います。

一学年で学生はだいたい30人ほどいますが、
ここ数年は、生徒数の半分が中国人、後の半
分はアメリカ人と他の国からの留学生です。

Chemical Biology, Neuroscience, Plant
Science, Microbiology, Cancer Biologyを
はじめとして、10のトレーニンググループが
存在し、いずれかのトレーニンググループに
所属して、勉強、研究をすることになります。

入学時には、どの分野で研究をしたいのか決
めかねている学生も少なくないため、一年生
の間は7週間ずつ4つの研究室をローテーショ
ンし、一年生の春セメスターの終わりに最終
的な研究室を決めます。

すべての教授陣が新しいPh.Dの学生を募集し
ているわけではないので、入学してすぐに、
ローテーションの学生を受け入れたい研究室
のリストをもらい、そのリストの中から、自
分の興味のある教授と話をして最終的にどの
研究室でローテーションをするか決めます。

一年生の間はコースワークもあるので、なか
なか思うように研究室にいる時間はとれませ
んが、それでも7週間の間にだいたいの教授
の人柄、研究内容、研究室の雰囲気はつかめ
ます。


次にコースワークについてですが、主に一、
二年生の間に必須の科目をとります。必須科
目には生化学、生物統計、自分の所属するト
レーニンググループの必須科目、またロー
テーションの研究内容について生徒がプレゼ
ンテーションを行うような授業があります。

多くの大学院にあるようなQualify examはあ
りませんが、その代わりPreliminary examは
3年生の秋セメスターに受けなければならず、
合格基準も若干厳しいです。

しかしながら、2回チャンスはあり、また準
備をきっちりすれば、大多数の留学生は最終
的には合格していますので、それなりの勉強
は必要ですが、決して超えられないような壁
ではないと思います。

PULSeは、ライフサイエンスに関わることを
研究したいけれど、特にどの分野を研究した
いか決めかねている。いろいろな分野の研究
を知りたい。違う分野の人と交流したい。と
いうような人にはお勧めのプログラムです。

さらに詳しくPULSeについて知りたい方はPUL
Seのウェブサイト(↓)をご覧ください。

http://www.gradschool.purdue.edu/PULSe/


■West Lafayette での生活
West Lafayette市とその東に位置する
Lafayette市は人口の半分以上が大学関係者
であり、静かな大学街です。

夏は30度近くまで気温が上がり、紫外線もき
ついですが、日本ほどに湿気はないのでそれ
ほど問題ではありません。

しかしながら、冬は-20度まで下がり、雪も
積もりますので、寒さ対策、運転の面などで
気をつけることが必要です。

建物の中自体は暑いくらいに暖房がきいてい
ますので、研究室にいる分には大丈夫です。

街の雰囲気としては、留学生に優しい人が多
く、治安もよく、また物価も安いために、住
むには最適な場所です。

日本のワンルームマンションぐらいの家賃を
払えば、ここでは、リビング、ダイニング、
キッチンのあるいいアパートメントに住むこ
とができます。

大学のまわりは大豆ととうもろこし畑が延々
と広がっているために、日本の都会に住み慣
れた人にとっては、若干退屈な街に感じるか
もしれませんが、勉強、研究に集中するには
もってこいともいえます。

また、インディアナポリス、シカゴへは車で
日帰りで行けますので、平日は研究に集中し
て、週末や祝日に遠出をして楽しむというス
タイルの人が多いです。

中西部の真ん中に位置していますので他の中
西部の都市へも出かけやすいです。アジア人
留学生が多いため、アジア系の食料品店も4
つほどあり、日本のもの、アジアのものも簡
単に手に入れることができます。

またアジア系のレストランも多く、寿司はも
ちろん、その他の日本の料理、中華料理、韓
国料理、インド料理などを楽しむことができ
ます。

また、留学生主催のインターナショナルなイ
ベントも多く、各国の留学生が自分たちの国
の食べ物を料理して販売するフードバザール
や、それぞれの国の伝統的なものを展示した
り、体験したりできるグローバルフェスティ
バルなどが毎年開かれています。

最後にPurdueへのアクセスについてですが、
最寄りの空港はインディアナポリス空港
(IND)とシカゴ・オヘア空港(ORD)で、そ
れぞれPurdue大学へのシャトルバスが出てお
り、インディアナポリスからは1時間半、シ
カゴからは3時間で来ることができます。

東京-シカゴ間の直通便はありますが、イン
ディアナポリス空港を使う場合、あるいは成
田空港以外の空港を使用する場合は1回か2回
の乗り継ぎが必要です。

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自己紹介
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岩田愛子
神戸大学発達科学部卒業 (2006年)
神戸大学大学院総合人間科学科修士課程卒業(2008年)
Purdue University, Interdisciplinary Life Science, Ph.D. 課程
専門分野:植物細胞遺伝学・ゲノム科学

今村文昭
上智大学理工学部化学科卒業(2002年)
コロンビア大学医学部栄養学科修士課程卒業(2003年)
タフツ大学フリードマン栄養科学政策大学院栄養疫学博士課程卒業(2009年)
2009年よりハーバード公衆衛生大学院疫学部門にてPost-doctoral Fellow
専門分野:疫学・栄養学・栄養疫学
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編集後記
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編集後記
PurdueでPh.Dコースを始めて3年目に突入しました。
こちらへ来た当初はあまりの田舎に愕然としました
が、生活費も安いし、広いアパートに住めるし、治
安も良いので快適な生活をおくっています。

いろいろな国の友達ができるのも留学生の多い
Purdue大学の大きなメリットだと思います。私の研
究室は、アメリカ人のほかに、プエルトリコ人、
コロンビア人、韓国人、中国人、台湾人、インド人、
フランス人、そして日本人と国籍豊かなため、研究室
のパーティーではそれぞれの国の料理を持ち寄ってみ
んなで食べます。私はたいていアメリカナイズされた
巻き寿司(カリフォルニアロールのような裏まきの寿
司ロールとかです)を作って持って行きます。

Ph.D.をとるのは決して簡単ではなく、忙しかったり、
ストレスがたまることもありますが、いろいろな国の
人と交流したりするのは気分転換になるし、他の留学
生のがんばりをみるのは励みになるので、私はアメリ
カに来てよかったと思います。

Purdue大学以外にもアメリカにはたくさん良い大学は
あります。同じアメリカでも場所によって気候も、人
柄も、街の雰囲気も、生活スタイルも大きく違ってく
ると思いますので、大学院留学を目指す読者の皆さま
が、自分のスタイルにあった大学院に進まれることを
願っています。

(岩田)


米国の国家機関であるNational Institute
of Health は、人材育成のためのファンドを設け
ており、Purdue大学にも施設や教授陣の確保
などに10億円規模のファンドを提供しているよ
うです。
http://www.ncrr.nih.gov/the_american_recovery_and_reinvestment_act/construction_programs/awards/
http://www.purdue.edu/newsroom/research/2010/100412KuhnBindley.html
NIHのホームページにあるように、全米各地で
新たな研究施設・プログラムが設立されています。
岩田さんの寄稿を通じて、あらあめて米国の
科学政策の力強さを認識しました。

(今村)

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アメリカ理系大学院留学を実現させるためのノウハウ ~修士・Ph.D. 課程の選択~

posted Jan 30, 2012, 12:12 PM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 12:12 PM ]

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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ October 2010, Vol. 53, No. 22
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10月を担当させていただく今村文昭です。
皆様、日米はともに連休だったかと思いま
す。どのように過ごされましたでしょう
か?ボストンは紅葉がすばらしく、快晴で、
とても快適でした。

今回の記事も、先月の青木さんの紹介に引
き続き、「理系大学院留学-アメリカで目指
す研究者への道」から、「修士・Ph.D. 課
程の選択」について紹介したいと思います。
また、本に記載された内容に加え、私の経
験によるちょっとした考えを紹介したいと
思います。

大学院留学を考えておられる方、興味のあ
る方にとって何らかの参考になれば幸いで
す。

本にご興味のある方は是非↓のリンクをご
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ネットホームページ経由、Eメールでもご連
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アメリカ理系大学院留学を実現させるためのノウハウ
~修士・Ph.D. 課程の選択~
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修士・Ph.D. 課程の選択
 修士・Ph.D. 課程の選択については、ま
ず、日本とアメリカの修士課程の違いを認
識する必要があります。日本の修士課程で
は、授業はあくまで卒業単位取得のために
受けるものであり、基本的に研究が中心で
す。

 一方、アメリカでは、修了条件に修士論
文が課されないプログラムも多く存在しま
す。授業によっては、ファイナル・プロジ
ェクトと呼ばれる、その授業に関連した研
究課題に取り組む場合もありますが、日本
とは異なり、研究が中心のカリキュラムで
はありません。

 従って、アメリカの大学院で研究するこ
とに主眼をおくのであれば、Ph.D.課程を選
んだ方が良いでしょう。

 ただしアメリカの大学院では、Ph.D. 課
程であっても授業に割く時間は日本より多
くなるため、研究のみに専念したい場合は、
日本で博士号を取得後、ポスドクとして、
アメリカへ研究留学するという道もありま
す。


 アメリカでは、このようなプログラムの
特徴(修士課程:ほぼ授業のみ、Ph.D. 課
程:授業+研究)があるため、どちらを選
択するかということが、学位取得後の進路
と密接に関わってきます。


 アメリカでの就職を考えるなら、修士の
み修了した場合では、高校の先生、投資銀
行、特許事務所、コンサルタント会社、研
究支援産業の営業、販売促進と、研究には
直接関わらないポジションとなる可能性が
大きいでしょう。

 修士取得後に研究職に着任する場合は、
Ph.D.取得者の下で働く必要があったり、技
術補佐員(technician)扱いだったり、待
遇面や権限の違いが生じる可能性が高いの
で、それらも考慮に入れた上で、自分に合
ったプログラムを選ぶ必要があります。


 一方、Ph.D.を取得しておくと、社会的に
一人前の研究者とみなされるので、製薬企
業、シンクタンク、製造業、国立研究所、
大学など、直接研究に関わるポジションに、
それなりの権限を持って就職する傾向にあ
ります。もちろん例外もあって、修士卒業
でもかなり優秀な場合は、企業や大学にお
いてPh.D.取得者と同じようなポジションで
研究している人もいます。


 注意点として、日本ではどの分野におい
ても、修士・博士の両課程がありますが、
アメリカの場合、特に生命科学系などにお
いては、Ph.D. 課程しか存在しない場合が
あります。

 また、Ph.D. 課程では財政援助が一般的
であるのに対して、修士課程ではその人数
が限られていたり、財政支援があっても、
Ph.D.課程のものには及ばなかったりする場
合もあります。修士論文の提出が必要とさ
れない、授業履修のみで修了できるプログ
ラムの場合、財政援助は非常に限られてい
る、と考えた方がよいでしょう。




 それでは、私(今村)の経験による事柄
を少し紹介したいと思います。

 上記のように、研究者としての価値、卒
後の就職に、修士課程を出るか、博士課程
を出るかは大きく異なってきます。基本的
に、米国において修士号のみ持つ人が研究
者としてみなされることはほぼ無いでしょ
う。

 では、研究者を目指す人にとって、修士
課程の価値とはなんでしょうか。

 種々の案があるかと思いますが、私は修
士課程は専門性を定める分岐点として価値
があると思っています。

 私は、日本で理工系の化学を専攻してお
りました。(それこそ先日、ノーベル化学
賞を受賞された北海道大学の鈴木章名誉教
授と米パデュー大学の根岸英一特別教授が
確立された領域です。)

 私は理工系の道を外れて、生命科学系の
応用分野に貢献できる領域で研究した
い・・と思い、北米の栄養学の修士課程に
進みました。

 私は研究者にはなりたいと思っておりま
したが、実は、どういう研究がしたいという具体的なアイデアは無かったのです。と
にかくも、化学を生かせてなお、一般社会
に貢献できる領域と思っていました。栄養
学・環境学など、頭にありました。

 そして修士課程において北米大学院レベ
ルの教育課程で栄養疫学という領域に惹か
れその道博士を取る道を選びました。栄養
疫学、および疫学は、日本では教育課程も
歴史の浅い領域ですので、結果的に大正解
でした。

 私はそんな道を歩んできたので、米国の
修士課程について、私がそうだったように、
「研究者になりたいが、学士を取った時点
で自分の道を決めたくない/決められな
い」という人にとって向いていると思って
います。

 研究者を志す人にとって、専門領域分野
を変えたりすることには、やはりリスクが
伴いますが、北米の大学院は、強い意志と
(潜在的な)実力があれば、専門領域を変
えることは容易です。

 北米大学院の修士課程では、多様な選択
肢を思い描くこと、さらにいろいろな志を
持った人が同じ学を修めることを可能です。
北米の大学院の1つの魅力ではないでしょ
うか。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
自己紹介
-----------------------------------
今村文昭
上智大学理工学部化学科卒業(2002年)、コロンビア大学医学部栄養学科修士課程卒業(2003年)、タフツ大学フリードマン栄養科学政策大学院栄養疫学博士課程卒業(2009年)、2009年よりハーバード公衆衛生大学院疫学部門にてPost-doctoral Fellow
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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編集後記
-----------------------------------

 9月、日本に一時帰国しました。ハー
バード関係で記事になったのか「最近は、
留学生が減ったんでしょう?」という話を
何度も伺いました。その真意はわかりませ
んが、それに伴って、日本は元気が無いと
か、学生は内向きだとか、そういった話も
耳にしております。本当なのでしょうか。
疫学者の私としては、科学的根拠を求めた
いところです。

 日本のノーベル章受賞、科学政策のあり
方、科学者の雇用に関する社会問題などの
後押しもあってか、科学系での大学院留学
が以前より増して着目・再考されているよ
うに思います。このメルマガも、その点か
らも、重要な役割を果たしておりますでし
ょうか。私も編集に携わる1人として、読
者の皆さまのお役に立てれば幸いです。

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アメリカ理系大学院留学を実現させるためのノウハウ~留学のメリット・デメリット~

posted Jan 30, 2012, 12:12 PM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 12:12 PM ]

執筆者: executive (11:04 am)
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_/September 2010, Vol. 53, No. 21
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前回に続き、編集を担当させていただく青木敏洋です。

今回の記事も、「理系大学院留学-アメリカで目指す研究者への道」からの
抜粋で、留学のメリット・デメリットについてカガクシャ・ネットメンバー
のアンケートの結果をもとに述べています(本中にアンケートの結果の詳細
あり)

確かにデメリットもゼロではない大学院留学ですが、英語によるコミュニケ
ーション力の取得を初め、長期的に見て様々なメリットがあります。この
グローバルな社会では研究者も企業の技術者も日本国内だけでなく、海外で
仕事をすることも多くなってきています。アメリカで企業研究者として働い
いることからそのことを痛感します。

大学院留学を考えておられる方、興味のある方にとって何らかの参考になれ
ば幸いです。

また、この本に興味のある方は是非↓のリンクをご覧ください。
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ご意見などございましたら、カガクシャ・ネットホームページ経
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アメリカ理系大学院留学を実現させるためのノウハウ
~留学のメリット・デメリット~
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カガクシャ・ネットのメンバー23名へのアンケート、「アメリカの大学院へ
進学してよかったこと」、「日本の大学院の方が優れていると感じた点」、
の結果を踏まえながら、アメリカの大学院留学のメリットとデメリットにつ
いて考えましょう。

〈メリット〉
コースワークや関門試験のほか、研究に関連するものからキャリアパスに関
するセミナーなどを通じて、自分の研究のみではない、幅広い素養を身に付
けることができる。

特にPh.D. 課程の場合は、財政援助(授業料免除、給料、健康保険など)が
充実しており、経済面の心配はあまりしなくてよい。

英語でのコミュニケーション能力(英会話のみならず、科学・技術のプレゼ
ンテーションをする力、論文を読む力、論文を書く力、他の研究者たちとディ
スカッションする力など)が身に付けられる。

世界各国から集まった、優秀かつユニークな留学生たちと交流することで、
アメリカのみならず、世界中にネットワークを広げることができる。


〈デメリット〉
大学院の1~2年目は授業で忙しく、またTAなどにも時間を取られる。

Ph.D.を取得する場合、日本の修士・博士課程に進学した場合に比べて、卒業
するのに時間が掛かる可能性もある。

日本の大学院よりも授業料が高いため、財政援助が受けられない場合、高額な
出費になる可能性がある。

Ph.D. 課程において、成績が悪い場合やQualifying Examに合格できない
場合など、退学させられるリスクがある。

日本とのコネクションが薄れがちになるため、日本での就職はやや不利に
なる場合もある。

メリットの中でも、英語でのコミュニケーション能力の獲得は、留学の大き
な成果になります。英語力は、現在のグローバル社会において、企業、教育機
関、国立研究所など、卒業後どこで働くにしても非常に重要なスキルです。研
究成果を学会や論文で発表する場合はもちろんのこと、他国の研究者、技術者、
ビジネスマンとディスカッションをしたり、交渉をしたり、取引をしたりと、
さまざまな場面で必要とされます。デメリットを挙げるとすれば、英語で新し
く修得した事柄は、日本語の専門用語でどう表現するのかがわかりづらいこと
です。しかし、日本語での発表練習を繰り返すことで、克服できることでしょ
う。

また、留学経験者が口を揃えて言うことに、数多くの留学生が集まるアメリ
カで学ぶことで、世界中から集まって来る知的で興味深い人たちと交流できる
ことがあります。特に大学院の場合、優秀な人材でなければ入学が難しいため、
その傾向が顕著でしょう。

アメリカの大学院の特徴であるハードな授業や試験は、さまざまな観点から
物事を分析する力を身に付けられると同時に、その充実度がゆえに、授業の予
習・復習に多くの時間を費やさざるを得ないのも事実です。これをメリットと
考えるかデメリットと考えるかは、一つのことを深く掘り下げたいのか、自分
の専門を持ちつつも幅広い視野も持ちたいのか、どちらを重視するかによりま
す。

豊富な財政援助は、大学院留学を後押しする要素にもなりますが、逆に財政
援助がもらえない修士課程などの場合は、かなり高額な出費につながる可能性
があります。日本の国立大学の場合*1、入学金と授業料標準額を合わせた初年
度納付金は、817,800円、私立大学の理・工・農学専攻の場合*2、修士課程で
の初年度納付平均金額は1,152,849円、博士課程では1,084,200円となっていま
す。一方、アメリカの公立大学の平均授業料は6,586ドル(約66万円)ですが、
私立大学では25,143ドル(約251万円)となっています*3。また、アメリカの
大学の授業料は、近年、年率5%前後の勢いで上昇し続けているため、将来的
にはさらに高騰が見込まれます。そのため、修士課程のみ希望する場合は、日
本の大学院の方が、経済的な負担は少なくなるかもしれません。また、授業料
免除+生活費を支給される場合も、給与をもらっているからこそ、その対価と
して、退学のプレッシャーにもさらされます。

留学することで、日本とのコネクションはどうしても薄れがちになってしま
います。しかし、国際学会に参加する日本からの研究者は多いですし、就職面
でも、日英バイリンガルのための就職フェアなども海外で開催されています。
また、それ以上に、苦楽を共にした世界中から集まった学生との絆は非常に深
いものとなり、さらには就職時にも役立ちます。

このように、各項目を比較すると、同じポイントでも、メリットとデメリッ
トのどちらにもなり得ることがわかります。自分自身の基準や価値判断をもと
に、ゆっくりと検討してください。そして、結論として大学院留学を目指すの
であれば、前向きな姿勢を貫くことで、最初はデメリットに思えても、それを
最終的にメリットにすることは可能です。

*1:出典:文部科学省・平成21年度国立大学の授業料、入学料及び検定料の
調査結果について
*2:出典:文部科学省・私立大学等の平成20年度入学者に係る学生納付金等
調査結果について
*3:出典:College Board: Trends in College Pricing 2008

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自己紹介
-----------------------------------
青木敏洋
熊本大学工学部卒業(1998年)、熊本大学博士前期課程修了(2000年)。
米国アリゾナ州立大学材料科学・工学Ph.D.課程修了(2003年)。
アリゾナ州立大学、ジョン・M・カウリー高分解能電子顕微鏡センターでの
ポスドクを経て、現在、JEOL USA, Inc.勤務。2009年より、米国リーハイ大学
にて客員研究員を兼務。ボストン郊外在住、仕事でアメリカ大陸を飛び回る。
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編集後記
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先週は仕事でテキサス工科大学に出張していました。月曜日にキャンパスにつ
くと、芝生のあちこちに所狭しとテントが張ってありました。たくさんの学生
たちがキャンパスでキャンプしているのです。理由をお客さんに聞くとその週
の土曜日に宿敵、テキサス大学オースティン校とフットボールの初対戦がある
らしく、それに向けて準備??をしているとのことでした。アメリカでは大学
対抗のスポーツ特にフットボールはプロ並みの人気で、学生はもちろんのこと、
地元の住民までもが熱狂的に応援をします。フットボールの試合前に、観戦に
来た人たちが駐車場でバーベキュー・一杯やってから試合を見に行くことは普
にあることですが、この一週間近く前からキャンパスにキャンプしてというの
はテキサス工科大ならではの伝統だそうです。この小さな町ではフットボール
が唯一の楽しみ・息抜きという学生も多く、この伝統を守っているようです。
また、キャンパスのどこかにスキャナーがあって学生証を多くスキャンすると
ゲームの時に良い席に座れるとか。これも学生たちがキャンプをする理由でも
あるらしいです。ともあれ、アメリカにおける大学対抗のスポーツへの熱狂ぶ
りには目を見張るものがありますし、文化とも言えます。米国では秋になると
このように毎週、宿敵同士の大学が全国あちこちでフットボールの試合を繰り
広げています。

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注目される研究分野・研究者と求められる人材~環境科学・工学(Environmental Science and Engineering ) 2/2 ~

posted Jan 30, 2012, 12:11 PM by Yunke Song   [ updated Jan 31, 2013, 5:26 PM by Yuji Takeda ]

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9月の編集を担当させていただく青木敏洋です。
今回は前回に続き、環境科学・工学領域の記事を紹介したいと思います。

この内容は、Harvard University、Organismic and Evolutionary Biology
にてPh.D. 課程を修了され、現在は兵庫県立大学大学院准教授の伊勢武史さん、
MIT, Program in Atmospheres, Oceans, and ClimateにてPh.D. 課程を修了
され、現在は電力中央研究所所属の杉山昌広さん、University of Michigan
Environmental & Water Resources EngineeringにてPh.D. 課程を修了され、
現在は東京農工大学所属の斎藤広隆さん、そして編集でも登場されている、
Tufts University, Nutritional EpidemiologyにてPh.D. 課程を修了され、
現在はHarvard School of Public Health, Dept. of Epidemiology所属の
栄養学、疫学者の今村文昭さんらが執筆してくださいました。

今回の記事も、「理系大学院留学-アメリカで目指す研究者への道」からの
抜粋です。

この本には理系大学院留学のノウハウのみならず、留学体験談や最新の研究
分野まで非常にバライティーに富んだ内容となっており、大学院希望者に
とっては必携のマニュアル、そうでない方にとっても楽しんでいただける
内容となっております。

興味のある方は是非、↓のリンクをご覧ください。
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ご意見などございましたら、カガクシャ・ネットホームページ経
由、Eメールでもご連絡をお待ちしております。今後配信して欲し
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注目される研究分野・研究者と求められる人材
~環境科学・工学(Environmental Science and Engineering ) 2/2 ~

伊勢武史, 杉山昌広, 斎藤広隆, 今村文昭
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2.土木・環境工学(Civil and Environmental Engineering)

土木工学は土地開発を含む生活空間向上のための社会資本の整備、環境工学
はかつて衛生工学などと呼ばれたように、主に生活環境の向上を技術的に解決
するために発展してきた応用科学です。言うまでも無く、土木工学や環境工学
が日本のみならず欧米諸国の近代化に果たしてきた役割はとても大きく、その
貢献は甚大なものです。例えば、アメリカにて1930年代に完成したフーバー
ダムや、20世紀後半に完成したシエラネバダ山脈などカリフォルニア北部か
らカリフォルニア南部へと水を運ぶ、総延長1000kmを越える巨大なカリフォ
ルニア導水路(California Aqueduct)など、巨大事業が行われてきました。

また、下水処理技術の進歩は、社会の衛生状態を飛躍的に向上させ、平均寿命
を大きく延ばすことに貢献しています。今日では、これら巨大な公共事業は環
境負荷の問題などからネガティブに捉えられることが多くなり、従来型の土木
工学や環境工学には、新たな進展が求められています。

土木工学・環境工学の貢献

また、社会資本が未熟な国の場合、土木インフラストラクチャの整備が生活
の質の向上や食糧生産の安定的確保に直接つながることもあり、伝統的な土木
工学(農業土木)・環境工学はまだまだ貢献の場が多いと言えます。世界には、
水不足あるいは、水が十分にあっても効率的に使えず、安定的な食糧生産が確
保できていないところがとても多いのです。乾燥地や半乾燥地の問題を例に考
えてみましょう。乾燥地での農業、砂漠化の抑制などの課題を考えたとき、そ
の対策として塩害や乾燥に対し、強い作物を遺伝的に開発する試みが挙げられ
ます。しかし、乾燥地対策として最もすばやく効果をもたらす対策は、ダムな
ど水資源の確保を可能とする土木工事にほかなりません。また、東南アジアな
ど多雨の地域では、降雨量が偏在しており、そのために、温暖な気候を活かし
た米の二毛作などができなくなります。このような場合も、水路やダムの整備
により、偏在する降雨量に対しても水を安定的に供給することで、二毛作など
による増産・増収を見込めるようになります。このように、実はこれまで先進
諸国で使われてきた土木工学・環境工学に関する技術は、地球規模で考えれば
まだまだ貢献する場が残っていることがわかります。

一方先進国では、従来の環境工学の知識・技術では対応しきれない課題が多
くあり、この分野の更なる発展が期待されています。例えば、世界的な人口の
増加に伴う、水・食糧・エネルギー需要の増加に応えると同時に、環境負荷を
最小とする、気候変動になるべく影響を与えない新しい材料・社会基盤・プロ
セスの提案を通して貢献することです。特に、土木工学においては持続的な社
会基盤の設計が、環境工学では人間活動と自然環境保護とのバランスを考慮し
た環境技術が求められています。

人間活動と地球環境システムとのバランスについてといっても、自然環境で
起こる現象は、物理・化学・生物プロセスがそれぞれ複雑に絡み合ったもので
あり、未だ解明されていないことが多いのが実情です。例えば世界にはさまざ
まな水問題がありますが、その多くは、水の循環プロセスが十分にわかってい
ないために、根本的な解決が妨げられているような例がいくつかあります。従
って、土の間隙スケールの短時間の水移動から、流域スケールの季節変動、あ
るいは地球規模の長期間の気候変動まで、幅広い空間・時間スケールでの水の
移動・循環についての研究がまだまだ必要です。応用科学としては、たとえば
MITのEntekhabi教授*7が進めるように、最新のリモートセンシング技術を導
入し、広域水循環について効率化を図る研究が挙げられます。また、現象を理
化するということだけでなく、従来の環境整備の技術にコンピューターサイエ
ンスを導入することにより、災害の対策や細かな気候変動に対応した社会環境
のデザインが可能になります。

環境負荷物質に対する浄化・除去技術開発に関する研究

水に限らずエネルギー資源についてもその存在は空間的に限定があり、水の
場合同様にこの限られた資源を有効利用するため、さまざまな空間的・時間的
スケールでのエネルギー資源の動態解析とその応用が土木・環境工学の研究対
象となります。そのほか、ナノ・コロイド粒子や医療薬品などに代表される、
この分野では比較的これまで取り扱ってこなかった新しいタイプの環境負荷物
質(環境汚染物質だけでなく、温暖化ガスなど環境に負荷を与えるものの総称)
に対する浄化・除去技術開発のための研究も、注目される研究分野の一つです。
しかし、例えばナノ・コロイド粒子の浄化やナノ・コロイド粒子を利用した環
境浄化には、まずは環境中の動態が理解されていることが必要です。環境中の
ナノ・コロイド粒子の動態にはまだまだわからないところが多く、新たな研究
課題が浮き彫りとなっており、コーネル大学のSteenhuis教授*8を筆頭に研究
が進められています。こうした環境負荷物質については、基礎的な研究から、
進展が望まれています。

二酸化炭素の回収・貯留に関する研究

もう一つ土木・環境工学分野で、今後注目を集めると思われる研究分野とし
て、地球温暖化問題関わるもので、コロンビア大学のLackner教授*9による研
究に代表されるような二酸化炭素の回収・貯留(Carbon Capture and
Storage, CCS)に関する研究があります。これは地球の温暖化を引き起こす
原因の一つと言われている二酸化炭素ガスを、回収して例えば地中深くに貯留
して隔離することによって、大気への放出を抑制するというものです。土壌や
海洋の生態系の利用、工学技術の応用など幅広いアプローチが採られています
が、この技術の実用化にはまだまだ超えなければならないハードルが多く、世
界でもまだほとんどが実験段階です。しかし例えば地下貯留の場合であれば、
土木・環境工学がこれまで培ってきた地盤岩盤の力学、土中の物質移動学など
の知識・技術を基本として、超臨界流体の地盤中の移動など、この技術特有の
問題に対して貢献が期待できます。この問題に関してはコンピューターシミュ
レーションが欠かせませんが、ローレンスバークリー国立研究所のPruess教
授*10が中心となって開発している多孔質体中の物質移動のシミュレーション
コードなど、世界で活躍するツールも登場しています。

社会全体のシステムをデザインする環境工学

二酸化炭素の排出や回収に関わる科学だけではなく、従来の化石燃料に代わ
るエネルギー資源として注目されている水素ガスや植物由来のバイオマス資源
のエネルギー、太陽光、風力、さらには宇宙の電磁波などの自然エネルギーに
関する科学、その応用を担う技術開発は今後も進展していくことでしょう。そ
して、何より、発展している技術を、既存の社会に根付かせ、効率よくエネル
ギーを循環させる、社会全体のシステムをデザインする環境工学の貢献は欠か
せません。個々の科学や応用技術だけではなく、それらと従来のものを結びつ
けて発展させ、高効率の持続的な社会を作るシステムの研究が、今後さらに必
要とされるでしょう。

そうした社会のデザインには社会や経済が深く関わっていきます。なぜなら、
地球温暖化対策や環境工学の研究は、環境税や排出権取引の制度設計、京都議
定書後の国際枠組みと国際交渉など、いわゆる文 系の研究が重要だからです。
そうした領域に、再生可能エネルギーや省エネ技術などの技術が深く関わるた
め、自然科学と社会科学の中間的な研究も欠かすことはできません。
次に、そういった科学の発展と社会をつなげる研究について紹介します。

3.環境科学と社会科学

温暖化対策というと細目に電気を消すというイメージが浮かぶかもしれませ
んが、対策の規模はとてつもなく大きなものです。プリンストン大学の
Pacala教授*11とSocolow教授*12は、簡略化された排出シナリオを仮定して
2050年ごろまでの二酸化炭素削減量を検討しました(2004, Science)。削減
量を7等分してクサビとよび(グラフでは三角形に見えるためこう呼ばれる)、
クサビに相当する技術導入量を計算しました。例えば、20億台分の自動車の
燃費が2倍に向上する必要があります。風力発電なら現状の50倍の導入量が、
太陽光発電なら700倍という、膨大な量が必要なことが明らかになりました。
温暖化対策ではさまざまな計算がなされていますが多くのものは理解が難し
く、対策を技術的に整理していくのは大事なことです。Socolow教授のグルー
プは、さまざまな技術の詳細な検討や全体像の整理の研究を行っています。

技術の導入必要量がわかったら次に気になるのはコストです。温暖化対策の
コスト計算が難しいのは技術開発が積極的に行われていることによるコスト低
減の可能性からです。こうした推移について、カリフォルニア大バークリー校
のKammen教授*13は長年にわたり、企業投資や研究開発への取り組みと技術
進歩の関係を研究しています。また、最近話題の太陽電池を考えれば、長期的
に見れば安くなってきていることがわかっていますが、近年は低下の度合いに
振れがでてきています。Kammen教授のもとで研究したNemet(現ウィスコン
シン大学助教授)*14は太陽電池のコストの変化を製造工程ごとに研究し、習
熟効果の時間的な変化などを考慮に入れるなど、さまざまな方法で研究してき
ています。こうした研究でコスト低減にはバラつきがあり、大きな不確実性が
あることがわかっています。

科学と実社会を結びつける科学

個々の技術に不確実性があることがわかりましたが、これらの技術を組み合
わせるとどうなるのでしょうか。MITのWebster助教授*15らは長年温暖化の
不確実性について社会経済システムと気候システムを統合したモデルを開発し
てきました。Websterの所属するMITの研究プログラムは経済学者のJacoby
教授*16と大気化学者のPrinn教授*17が率いており、統合モデルで温暖化の予
測(例えばForest et al. 2001, Science)と対策の両面から不確実性について
研究してきています。最近の計算では対策がない場合の2100年の温度上昇は
3.5℃から7.4℃になるという結果が得られています(Webster et al. 2009,
MIT Joint Program report)。

基礎科学や工学が発展するさなか、その科学と実社会を双方向で結びつける
科学が必要なのです。温暖化対策を含める環境の科学はめまぐるしく発展して
いるため、上記のような研究はますます重要性を高めていくことでしょう。

研究者情報
2.土木・環境工学
*7:Dara Entekhabi, MIT, Dept. of Civil & Environmental Engineering
*8: Tammo Steenbuis, Cornell Univ., Dept. of Biological and Environmental
Engineering
*9:Claus S. Lackner, Columbia Univ., The Earth Institute
*10:Karsten Pruess, Lawrence Berkeley National Lab, Earth Sciences Division
3.環境科学と社会科学
*11:Stephen Pacala, Princeton Univ., Dept. of Ecology and Evolutionary Biology
*12: Robert H. Socolow, Princeton Univ., Dept. of Mechanical & Aerospace Engineering
*13: Daniel M. Kammen, Univ. of California at Berkeley, Energy and Resources Group
*14: Gregory F. Nemet, Univ. of Wisconsin-Madison, Dept. of Public Affairs and
Environmental Studies
*15:Mort David Webster, MIT, Engineering Systems Division
*16:Henry D. Jacoby, MIT, Sloan School of Management
*17:Ronald G. Prinn, MIT, Dept. of Earth, Atmospheric and Planetary Sciences



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自己紹介
-----------------------------------
青木敏洋
熊本大学工学部卒業(1998年)、熊本大学博士前期課程修了(2000年)。
米国アリゾナ州立大学材料科学・工学Ph.D.課程修了(2003年)。
アリゾナ州立大学、ジョン・M・カウリー高分解能電子顕微鏡センターでの
ポスドクを経て、現在、JEOL USA, Inc.勤務。2009年より、米国リーハイ大学
にて客員研究員を兼務。ボストン郊外在住、仕事でアメリカ大陸を飛び回る。


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編集後記
-----------------------------------
先週末はニューイングランド沖をハリケーンアールが通過すると言う天気予報
で私も出張先のフロリダからの飛行機が遅れて大変でしたが、幸い、ハリケーン
は弱まり、更にそれてくれたので被害が出ずにほっとしました。その週はとても
暑かったボストンですが、今週末はすっかり秋の空気、最高・最低気温22/11℃
と非常に過ごしやすい季節となりました。先週のことが遠い昔のように思えます。
日本では未だに34℃/27℃と厳しい残暑が続いているようです。お体にお気をつけ
ください。

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編集責任者: 青木 敏洋
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【海外サイエンス・実況中継】注目される研究分野・研究者と求められる人材 ~環境科学、工学~

posted Jan 30, 2012, 12:11 PM by Yunke Song   [ updated Jan 31, 2013, 5:26 PM by Yuji Takeda ]

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8月二回目を担当させていただく中山です。

今回は、環境科学・工学の領域の
「注目される研究分野・研究者と求められる人材」
の一部について紹介したいと思います。この内容は、Harvard University、
Organismic and Evolutionary BiologyにてPh.D. 課程を修了され、現在は
兵庫県立大学大学院准教授の伊勢武史さん、
MIT, Program in Atmospheres, Oceans, and ClimateにてPh.D. 課程を修了
され、現在は電力中央研究所所属の杉山昌広さん、University of Michigan
Environmental & Water Resources EngineeringにてPh.D. 課程を修了され、
現在は東京農工大学所属の斎藤広隆さん、そして編集でも登場されている、
Tufts University, Nutritional EpidemiologyにてPh.D. 課程を修了され、
現在はHarvard School of Public Health, Dept. of Epidemiology所属の
栄養学、疫学者の今村文昭さんらが執筆してくださいました。

今回も、幾度も、紹介させていただきました「理系大学院留学-アメリカで
目指す研究者への道」からの抜粋です。
アメリカの大学院への進学を視野に入れている方にとって、始めの一歩
を踏み出すために最適な情報が満載です。もちろん日本の大学院に在籍中の方、
そのほかの方も、是非参考にしてみてください。
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ご意見などございましたら、カガクシャ・ネットホームページ経
由、Eメールでもご連絡をお待ちしております。今後配信して欲し
い内容や、その他の要望などもお願いします。
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注目される研究分野・研究者と求められる人材
~環境科学・工学(Environmental Science and Engineering ) 1/2 ~

伊勢武史, 杉山昌広, 斎藤広隆, 今村文昭
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環境科学とは
私たちが生きる環境、私たちの子孫が生きる環境。環境問題が一般に注目さ
れるようになりながらも、漠然と「環境問題を考える」と言ってしまうと、ど
うも胡散臭い印象を持ってしまう人もいるかもしれません。自然保護のために
過激な抗議行動を取る団体のニュースなどを耳にすると、環境問題を考えてい
るのは激情的な活動家だけのように思えるのも無理はないかもしれません。
しかし、大学や大学院で学ぶ最先端の専門知識は、環境を客観的・定量的に
とらえるために非常に役立ちます。環境は、個人の感情的な好みに基づいて守
るよりも、科学的な基礎に基づいて守る方が説得力を増すことでしょう。

そうしたニーズに応えるのが、環境科学・環境学(Environmental Science,
Environmental Studies)といわれる分野です。環境を正しく観測し、環境が
変化するメカニズムを解明し、環境の保全と持続可能な利用のバランスを考え、
また将来の環境を予測し対策や応用を考え実践する学問の総称です。環境科学
は非常に幅の広い学問で、環境を観測し、環境の変化のメカニズムを解明し将
来の予測に役立てるには自然科学の専門知識が中心になります。
また、従来の土木工学のように社会構造の構築を担ってきた分野も、環境工
学として近年の科学と技術を応用することで、より持続可能性の高い社会環境
をデザインするための役割を担うようになってきています。さらにそうした科
学の発展の一方で、対策や適応の費用対効果を考え政策を提言するための社会
科学の専門知識が重要視されています。

求められる人材

環境問題は、科学界や一般社会、世界中から過去に類をみないほどの注目を
浴びているトピックです。幅広い分野が環境問題の科学に貢献するため、多く
の人が科学者として大成できる分野と考えられます。例えば、エネルギーの科
学といっても、膨大な気象データを扱うことのできる物理統計学に通じる物理
学者から、バイオマスエネルギーの開発生産を手がける農学者までさまざまな
貢献の可能性をあげることができます。そして、環境工学や社会科学のような
「実学」が必要とされます。学際的あるいは領域横断的な学問といえるでしょう。

従ってこの分野で活躍するには、基礎科学が必要となる以上に、いろいろな
領域の科学や社会学に興味をもち、それを自分の知識や研究の糧にできること
がとても大切になります。

また、コンピューターサイエンスや応用物理学などが、環境科学にさらなる
貢献をみせることでしょう。基礎物理への理解、数理統計やプログラミング技
術などが、研究の本筋とならなくとも、研究するための武器として強みになる
ことは間違いなく、そうした領域に通じている人材が今後も必要とされると考
えられます。

次に紹介する「今後注目される分野」の内容から明らかなように、将来は、
環境科学を社会に展開するための環境工学や社会科学が重要性を増していくこ
とでしょう。その研究対象は社会であり自然環境であるため、何かひとつのこ
とに特化するというよりは、「全体を見渡す力」が必須となります。これから
の研究者は、一つの研究トピックの大成を目指すだけでなく、環境科学や社会
科学などの応用分野とそれに関係する実社会を視野に入れることが大切です。
そして、「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on
Climate Change、IPCC)に参加する科学者のように、専門領域で活躍しつつ
他の分野の研究者と多面的に議論できる人材が、科学と社会、政治、メディア
との交錯の中で活躍することが求められています。それは深い知識や経験だけ
でなく、広い知識と、柔軟性のあるコミュニケーション能力が必要とされてい
ることにほかならず、教育現場や学術交流の機会においてそうした能力が養わ
れるべきであることを示しています。

今後注目される研究分野

いま人類が直面している最大の環境問題のひとつ、地球温暖化(global
warming)をはじめとする気候変動(climate change)の研究を例に、いま注
目されている分野と、これからの展開についてまとめていきます。さらに、こ
れまでも実社会に貢献してきた環境工学や社会科学について紹介します。

1.地球温暖化と環境科学
アメリカは、ダントツで世界最大の温室効果ガス排出国であるとともに、地
球温暖化についての研究をリードしている国です。この逆説的な事態は、世界
でいちばん経済規模が大きく豊かで余裕がある国だからと考えることもできま
す。そして2009年のオバマ大統領就任とともに、温暖化の現状認識・将来予測・
対策と適応などの推進が国策となり、今後さらなる発展が期待される分野です。

気候変動に関する政府間パネル

IPCCとは、地球温暖化に関する知識を集大成し政策決定に活かすための国
際連合の機関です。IPCCは3つの作業部会を設けており、第一作業部会は気
候システム及び気候変化の自然科学的根拠についての評価、第二作業部会は気
候変化に対する社会経済及び自然システムの脆弱性、気候変化がもたらす好影
響・悪影響、並びに気候変化への適応のオプションについての評価、第三作業
部会は温室効果ガスの排出削減など気候変化の緩和のオプションについての評
価を行っています。非常に難しく感じられてしまうかもしれませんが、気候変
動に関する研究者は、端的に言えば、研究成果がIPCCに取り上げられ世界各
国の政策に反映されることで、社会に貢献することができます。

地球温暖化の研究で核となるのは、地球の気候をシミュレーションするコン
ピュータモデルです。私たちが中学・高校・大学で段階的に学んできた、質量
保存の法則やエネルギー保存の法則などに始まる物理の法則に基づき、地球の
大気の流れや温度のバランスを再現するモデルは、大気大循環モデル(General
Circulation Model)といわれています。

地球システムモデル(Earth System Model)

しかし、大気に関する物理学だけでは、地球の気候を正確に再現したり予測
したりすることはできません。地球の気候は、大気圏・水圏・岩石圏・生物圏
が相互に影響を与え合って変化するものだからです。例えば、温暖化の主因で
ある二酸化炭素は、海洋に溶け込んだり、生物の光合成や呼吸でガス交換され
ます。これら、大気・海洋・陸面で発生するプロセスを総合的に取り扱うモデ
ルは地球システムモデル(Earth System Model)と呼ばれ、最新の科学的予
測の中心的な存在になっています。日本では、海洋研究開発機構・国立環境研
究所・気象庁・東京大学が中心となって地球システムモデルを構築し、過去や
現在の気候の再現と、将来の予測に取り組んでいます。

地球システムモデルの構築と運用では、アメリカが世界をリードしています。
IPCC の第四次レポート(2007) では、National Aeronautics and Space
Administration (NASA)、Global Fluid Dynamics Laboratory(GFDL)、
National Center for Astronomic Research (NCAR)というアメリカの公共
研究機関が気候の将来予測に参加しました。気候のシミュレーションに関わる
研究者の多くはこのような研究機関に所属しているため、彼らが指導教官とし
て学生を持つことは現実的に難しいと考えられます。(*)

*(2013年追記):より正確に言えば、
NASA GISSならばColumbia University、GFDLならPrinceton University、
NCARならUniversity of Colorado, Boulderと関係がありますので、
指導教官が無理な場合でもthesis committeeに加わっていただくのは
可能だと思われます。

ここでは、将来このような研究機関で働き温暖化の研究に参加できる科学者になることを考えてみまし
ょう。まずは大学や大学院で、バックグラウンドとなる知識を十分身につけ、
教官の指導の下に研究の経験を積むことが重要になります。大学では、温暖化
に関連する分野を幅広く学んでみましょう。そして、いろいろなテーマのなか
から自分のトピックを見つけ、大学院で専門的な勉強をすることになります。

大気・海洋・陸面の3つの科学

自然科学で温暖化に関連する研究には、上に述べたように大気・海洋・陸面
の3つの分野があります。大気や海洋のダイナミクスを学ぶには、流体力学を
基礎として学ぶ必要があります。MITのMarshall教授*1は、数学やコンピュ
ータシミュレーションを用いて大気や海洋の循環を研究しています。また、大
気中のさまざまな汚染物質や温室効果ガスが生成されたり変化したりするプロ
セスを研究する、大気化学という分野もあります。ハーバード大学のJacob教
授*2は、大気中に浮遊するチリや有機物について、実際に観測されたデータを
用いた研究やシミュレーションなどを用いて幅広く研究しています。

温暖化に関する陸面の科学では、降水と蒸発などの水の収支を研究したり、
冬に地表を覆った雪が春になって溶けたりするプロセスなどを扱います。雪や
氷は太陽からの熱を多く反射しますが、これが溶けて地面や水面がむき出しに
なると、太陽の熱は多く吸収されます。温暖化が進めば雪や氷が減るので、そ
れがさらなる温暖化を生むという正のフィードバックが懸念されています。コ
ロラド大学のPielke教授*3は、このような地表面のプロセスをシミュレーシ
ョンするモデルを構築・運用しています。

生物学の知見

また生物学の知見も地球温暖化の研究に大きく貢献します。例えば生物は、
光合成することで大気中の二酸化炭素を吸って有機物を作り出しています。有
機物は呼吸によって酸化され、二酸化炭素として大気に帰り、いわゆる炭素循
環を織り成します。すなわち環境では、気候と生物がお互いに大きな影響を与
えているのです。世界には熱帯雨林・砂漠・ツンドラなどのさまざまな気候帯
がありますが、それぞれの炭素循環を研究し、植物や土壌が蓄える炭素の量の
変化を推定することが求められています。ハーバード大学のMoorcroft教授*4
は、植物の光合成・呼吸といった生理的プロセスから、森林の遷移・土壌炭素
の変化といった長期にわたる変化までを含めたシミュレーションに取り組んで
います。カリフォルニア大学バークレー校のBaldocchi教授*5は、人工衛星デ
ータを用いる生態系の炭素循環研究のスペシャリストです。海洋生物学の分野
では、オレゴン州立大学のBehrenfeld教授*6が植物プランクトンの気候変動
への影響を研究し注目を集めました。

以上のように地球温暖化の研究は、実験室あるいはフィールドでの実験、理
論構築、データ解析、モデリングと多種多様です。そして、現状の把握と今後
の予想、そして政策の実施がどれほど現状を改善するか正確に予想し、最善の
政策を提言することが求められています。そうした政策に、これまで社会を環
境に適合させてきた環境工学の貢献は欠かせません。次節では、その環境工学
について従来の科学から紹介します。

研究者情報
1.地球温暖化と環境科学
*1:John Marshall, MIT, Dept. of Earth, Atmospheric and Planetary Sciences
*2:Daniel J. Jacob, Harvard Univ., School of Engineering and Applied Sciences
*3: Roger Pielke, Univ. of Colorado at Boulder, Center for Science and Technology
Policy Research
*4:Paul R. Moorcroft, Harvard Univ., Dept. of Organismic and Evolutionary Biology
*5: Dennis D. Baldocchi, Univ. of California at Berkeley, Dept. of Environmental
Science, Policy & Management
*6:Michael Behrenfeld, Oregon State Univ., Dept. of Botany and Plant Pathology

次節、2.土木・環境工学(Civil and Environmental Engineering)と
3.環境科学と社会科学は9月の配信予定です。お楽しみに!

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自己紹介
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中山由実
東京大学農学部獣医学課程卒(2003年)。
University of Wisconsin-Madisonにて免疫学博士課程修了(2008年8月)。
現在はMount Sinai School of MedicineにてPostdoctoral Fellowとして働い
ています。移植免疫について研究しています。
ラボの引越しに伴い、10月からはUniversity of Maryland-Baltimore
に移る予定です。

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編集後記
-----------------------------------

今年の夏はいつまでも暑いと思っていましたが、NYCでは急に秋の気配です。
私は地球環境の変化に非常に興味があったので、今回の内容は自分自身、
大変面白く思いました。まさに地球規模の研究ですね。いつまでも、四季の
変化が感じられる地球であってほしいです。

され、私事ですが、ラボが引っ越します。ラボの引越しは初体験で自身の
引越しとラボの引越しのタイミング、いつどこに誰が、、など緻密が計画が
必要なことを実感しています。。。
日本はまだ残暑が厳しいようですが、皆さん夏ばて熱中症に気をつけてください。

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【海外サイエンス・実況中継】注目される研究分野・研究者と求められる人材 ~材料科学・工学~

posted Jan 30, 2012, 12:10 PM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 12:10 PM ]

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
_/
_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ August 2010, Vol. 53, No. 18
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
_/
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
八月第一回の編集を担当させていただいている布施紳一郎です。

今週は先週に続き、材料科学・工学の領域の
「注目される研究分野・研究者と求められる人材」
の一部について紹介したいと思います。この内容は、Arizona State
UniversityにてPh.D.を取得され、現在JEOL USAにてご活躍の
青木敏洋さんが執筆してくださいました。引き続き、カガクシャ
・ネット著書、「理系大学院留学-アメリカで目指す研究者への道」
からの抜粋です。

ご意見などございましたら、カガクシャ・ネットホームページ経
由、Eメールでもご連絡をお待ちしております。今後配信して欲し
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注目される研究分野・研究者と求められる人材
~材料科学・工学(Materials Science and Engineering)2 of 2 ~

青木敏洋
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3.光エレクトロニクス材料(Opto-Electronic Materials)

 電子工学と光学の融合学問である光エレクトロニクスは、現在のIT社会を
支える重要な研究分野です。光通信や光記録、情報表示などのシステムを支え
る光デバイス(LED、レーザー、光ファイバー、光センサーなど)は、さま
ざまな材料で作られており、材料技術の発展はこの分野においても重要となっ
てきます。

III族窒化物半導体(Group III Nitrides)

 シリコンやガリウム砒素(以下GaAs)などの半導体は、これまで多くの研
究が行われ、技術がかなり確立されています。1990年代に、中村修二教授(元
日亜化学、現在University of California at Santa Barbara)*13が、窒化ガリ
ウム(GaN)系のIII族窒化物半導体を用いて、20世紀中には不可能といわれ
た青色の発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)を世界で初め
て開発しました。それ以来、III族窒化物半導体と呼ばれるGaN、窒化インジ
ウム(InN)、窒化アルミニウム(AlN)などの材料も、多くの研究者の関心
を集めています。

 III族窒化物半導体は、どれも発光に非常に適した直接遷移型です。3つの
材料を混ぜ合わせて、窒化アルミニウム・ガリウム合金(AlxGa1-xN)を作
ると、遠紫外線~紫外線のLED、LDを生み出すことができ、窒化インジウム・
ガリウム合金(InyGa1-yN)を用いると青色~緑色のLED、LDをつくること
ができます。III族窒化物は、他のシリコンやガリウム砒素(GaAs)などの確
立された半導体に比べて欠陥密度が非常に高いこと、大きな結晶を作ることが
困難なこと、また結晶を従来の方向に成長させた場合、材料内部で分極が起き
てしまう(Polarization)ことなどを解決すべく、今でもかなり活発な研究が
行われています。この分野での日本人の活躍は著しいですが、アメリカで活発
な研究が行われている研究機関はUniversity of California at Santa Barbara
などが挙げられます。

酸化亜鉛(ZnO)

 ZnOは古くから研究されてきた材料です。ワイドバンドギャップ(ほぼ紫
外線領域の光に対応する)に加え、発光に適した特性を持っているので、レー
ザー・LED応用への期待が高まり、注目される材料となりました。同様に、
紫外線~青色領域のGaNは、既に広く実用化が進んでいますが、材料中に欠
陥が多いことが欠点です。一方、ZnOは欠陥の少ない結晶を比較的容易に、
簡便な方法で作ることができるため、コスト、効率、信頼性の問題でも期待が
大きいといえます。また欠陥が少ないことから(欠陥が少ないことはLD材料
にとって理想的)エキシトンと呼ばれる現象を利用した室温でのレーザー発振
の報告もあり、魅力的な材料です。Virginia Commonwealth Universityの
�zg�r教授ら*14は、ZnOについてかなり包括的なレビュー論文を発表してい
ます。

 University of California at Berkeleyのグループ*15は、自己組織化により
サファイア基板上に作製したZnOのナノワイヤを用いて室温で紫外線レーザ
ー発振をすることに成功し、ZnOのナノワイヤ、ナノロッド、およびZnOに
よるレーザー研究を活性化しました。MOXtronics, Inc.のRyu博士*16は、共
同研究者らと共に多重量子井戸構造(Multi-Quantum Well: MQW)を有する
ZnO/BeZeO薄膜を用いて紫外線レーザーダイオードを作製しました。また、
遷移金属を添加することで希釈磁性半導体となるという報告もあり、スピント
ロニクスへの応用の面でも研究が進められています。

4.スピントロニクス(Spintronics)

 従来の電子デバイスでは、電子の持つ電荷のみを利用してきました。現在で
は電子の持つもう一つの特性、スピン(upとdownの2種類がある)を制御し、
それを利用するデバイスの開発が試みられています。

GMR素子、TMR(Tunneling Magnetoresistance = TMR)

 このスピントロニクスの前衛と言える巨大磁気抵抗(GMR)を用いたデバ
イスは、ハードドライブの高集積化に多大な貢献をしました。発見者のFert
博士とGr�nberg博士*17が2007年のノーベル物理学賞を受賞したことはまだ
記憶に新しいかと思います。トンネル磁気抵抗(TMR)という現象を利用し
た素子も広く用いられています。

 GMR素子、TMRなどの研究においてはIBM Almaden研究所*18が大きな貢
献をしており、Stanford Universityと共同で、2004年にスピントロニクスの
科学と応用を研究するIBM-Stanford Spintronic Science and Applications
Centerを設立しました。磁性を持つ半導体(Magnetic Semiconductor)研究
においては、東北大学の大野教授のグループが先駆的な仕事をし、大きな業績
を残しています。

 University of MarylandのAppelbaum教授*19は、磁性材料中ではなく、半
導体シリコン中でのスピン注入、輸送、コントロールについて研究を進めてき
ましたが、彼の成果はスピンを利用するシリコンの集積回路が開発可能である
ことを示唆しています。

分子スピントロニクス(Molecular Spintronics)

 Institut N�el, CNRS & Universit� Joseph Fourier のBogani 博士と
Wernsdorfer博士*20は(2近年、分子エレクトロニクスとスピントロニクス
の融合とも言える単分子磁石(磁性、スピンを持つ分子)を用いたスピントロ
ニクスデバイス、例えば、分子スピントランジスタ、分子スピンバルブ、分子
マルチドット素子などの研究のアイデアについて言及しています。この分子ス
ピンエレクトロニクスは新しい分野であり、磁性・スピンを持った単一分子を
つくり、それを室温で制御するなど難しい課題は多いでしょうが、今後の発展
が期待される分野といえます。

 スピンをベースとした量子コンピューターを開発するには、量子ドット中の
電子のスピンをコントロールすることが鍵となってきます。Delft University
of TechnologyのKoppens教授ら*21は、実験的に単一電子のスピンを量子ビッ
トとしてコントロール可能なことを示しました。

5.超伝導材料(Superconductors)

 超伝導とは、物質を冷却して行ったときにある特定の温度で電気抵抗がほぼ
ゼロになる現象です。1980年代に銅酸化物による高温超伝導材料が発見され、
大ブームが起きましたが、ここ最近は下火でした。しかし、2001年に青山学
院大学の秋光教授のグループ*22が、金属間化合物であるMgB2が39Kで超伝
導を示すことを発見しました。銅酸化物超伝導よりも低い温度ですが、金属系
の超伝導温度の記録更新であり、第2の高温超伝導材料として注目されました。
また、2008年には、銅を含まず、これまで超伝導の発現を阻害すると考えら
れていた鉄を含む新しい第3の高温超伝導材料を、東京工業大学の細野教授の
グループ*23が発見し、新たなブームを生み出しました。超伝導と相性が悪い
と思われていた鉄ですが、細野グループとその共同研究者の研究で、鉄がどの
ように超伝導に寄与するのかが明らかになりつつあります。Tc(超伝導の発
現する温度をTcと呼ぶ)は銅系のものと比べるとまだ温度は低いものの、こ
の材料系は基礎の面でも応用の面でも今後の発展が期待されます。

6.バイオマテリアル(Biomaterials)

 伝統的なバイオマテリアルとは、一般的に、病気や怪我により失われた人体
の機能を補うために体内に移植される材料のことを指します。人体中で長期に
渡り用いられるため、人体に毒性がないこと、拒絶反応がないことなどが必須
となります。これまでさまざまな材料が開発され、ステンレス鋼、チタン合金、
そしてアルミナ、ハイドロキシアパタイトなどのセラミックス、カーボン系の
コンポジットなど、多くの材料が用いられています。これまで人工関節、歯科
用インプラント、人工骨、人工心臓弁、人工血管、人工皮膚などにおいて、実
績を挙げてきました。

ドラッグ・デリバリー(Drug Delivery)

 近年ではバイオテクノロジーやナノテクノロジーとの融合が進んでおり、ド
ラッグ・デリバリーはその典型といえます。普通、薬を服用すると全身にほぼ
均一に薬が行き渡ります。こうなると薬の効果も落ちますし、有害な副作用が
生じることもあります。例えば、抗癌剤などの場合は副作用が大きな問題にな
ります。

 ドラッグ・デリバリーとは、サイズが1~100nmほどの「キャリア」と呼ば
れる媒体を用いて患部のみに薬を運び、そこで薬を放出するようなシステムを
開発しようという研究です。こうすると薬が患部のみ運ばれるため、薬の効果
が十分に発揮されるだけでなく、副作用がかなり軽減されます。このようにド
ラッグ・デリバリーの概念はしっかりしているのですが、実際にはまだ希望通
りの機能を持つキャリアの探索が続いています。

 最近、ポリマーと薬の分子を接合したキャリアの研究が活発に進められ、水
に溶けやすいナノサイズのポリマーを水に溶けにくい薬の分子と融合すること
で、ドラッグ・デリバリーの能力が大きく向上しました。

 東京大学マテリアル工学系の片岡教授グループ*24は、両親媒性のポリマー
が自己組織化により作る内殻構造を有するナノ構造を開発しました。これを
Polymeric Micellesと呼びます。この内角構造が、薬を入れるカプセルの働き
と薬の放出をコントロールする機構として使われます。また近年はWorm-like
MicellesやPolymersomesなど、新しいドラッグ・デリバリー用のナノ構造が
開発されています。

 現代のポリマー化学の発展により、ドラッグ・デリバリーに適したさまざま
なポリマーが開発されるようになりました。これらの合成ポリマーはニーズに
応じて自在に構造を変えることができるため、この分野に大きな革新を起こし
ています。まだ解決すべき点は多いものの、今後の発展が楽しみな分野です。

 このレポートでは、炭素系ナノ材料、エネルギー関連材料、光エレクトロニ
クス材料、スピントロニクス、超伝導、バイオマテリアルについて紹介しまし
た。材料科学はさまざまな分野で私たちの生活を豊かにするだけではなく、医
療、地球環境などの改善にも貢献しており、将来、これらの技術の更なる発展
と実用化・高性能化が期待されます。

研究者情報
1.炭素系ナノ材料
*1: Cees Dekker, Delft Univ. of Technology, Dept. of Applied Physics and DIMES
(Denmark).
*2: Andre Geim and Kostya Novoselov, School of Physics, Univ. of Manchester (UK).
*3:A. H. Castro Neto, Physics Dept., Boston Univ. (USA)
*4:Walter A. de Heer, Physics, Dept. Georgia Tech (USA).
*5:Fredrik Schedin, Dept. of Physics, Univ. of Manchester (UK).
*6:Ernest W. Hill, School of Computer Science, Univ. of Manchester (UK).
2.エネルギー関連材料
*7: Rajesh Bashyam and Piotr Zelenay, Materials Physics and Applications, Los
Alamos National Lab.
*8: Alan Le Goff, Commissariat � l’�nergie Atomique (CEA), Institut Rayonnement
Mati�re de Saclay, Service de Physique et Chimie des Surfaces et Interfaces
(France).
*9: Ingrid Repins, National Center for Photovoltaics, National Renewable Energy Lab
(USA).
*10:Wolfgang Guter, Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems (Germany).
*11:Alan J. Heeger, Dept. Physics, Univ. of California at Santa Barbara (USA).
*12: Arthur Nozik, Center for Advanced Solar Photophysics, National Renewable
Energy Lab (USA).
3.光エレクトロニクス材料
*13:中村修二教授, Dept. Materials, Univ. of California at Santa Barbara (USA).
*14: �mit �zg�r, Dept. Electrical and Computer Engineering, Virginia Commonwealth
Univ. (USA).
*15:論文、Huang et al., Science 292 (2001) 1897-1899を参照ください。
*16:Yungryel Ryu, MOXtronics, Inc. (USA)
4.スピントロニクス
*17: Albert Fert, Universit� Paris-Sud (France) and Peter Gr�nberg, Forschungszentrum
(Germany).
*18:Stuart S. P. Parkin, IBM Almaden Research Center (USA).
*19:Ian Appelbaum, Dept. Physics, Univ. of Maryland (USA).
*20: Lapo Bogani & Wolfgang Wernsdorfer, Institut N�el, CNRS & Universit� Joseph
Fourier (France).
*21: Frank H. L. Koppens, Kavli Institute of NanoScience, Delft Univ. of Technology
(Denmark).
5.超伝導材料
*22:秋光純教授, 物理・数理学科, 青山学院大学
*23:細野秀雄教授, 応用セラミックス研究所, 東京工業大学
6.バイオマテリアル
*24:片岡一則教授, マテリアル工学, 東京大学

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自己紹介
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布施 紳一郎
慶応義塾大学理工学部卒(2001年)、東京大学院医科学修士(2003年)。
米国ダートマス大学院博士課程修了(2008年5月・微生物学・免疫学専攻)。
モルガン・スタンレーにてサマーインターンを経て、2008年9月より米国ボストン
にてヘルスケア専門の戦略コンサルティング・ファームに勤務。欧米大手製薬
企業、米国バイオテック企業を相手に新規医薬の開発・商業化、提携・M&A戦略
支援、新規市場開拓、営業体制改善などプロジェクトに参画。

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編集後記
-----------------------------------

既に8月中旬に差しかかり、夏はどこへ行ってしまったのだろうと今週末は途
方に暮れています。7月、8月はプロジェクト・ワーク、出張などでバタバタした
日々が続きました。ただ様々なクライアント、米国・日本の製薬・バイオテック
業界で御活躍される方々と中身の濃いディスカッションをする機会が多々あり、
様々な経験も積むことができ、個人的にはとても実りの多い夏でした。
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