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【海外サイエンス・実況中継】体重の減少・減量に関する研究とその報道(前)

posted Jan 30, 2012, 11:41 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:41 AM ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ July 2009, Vol. 48, No. 1, Part 1
_/ カガクシャ・ネット→ http://kagakusha.net/
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みなさん、長らくお待たせ致しました。今号より、カガクシャ・ネットによる
第三弾メルマガを開始致します!途中からメルマガ購読を開始された方のため、
まずはこれまでの第一弾、第二弾、そして特別編のトピックをおさらいしてお
きます。第一弾・第二弾は総集編へのリンクを貼っているので、そこから各記
事の過去ログへアクセスすることが可能です(無料の会員登録が必要です)。

【メルマガ第一弾】(2007年1月~2008年2月)
●最先端の研究分野中継(前)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=65
●最先端の研究分野中継(後)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=66
●アメリカの理系大学院を選んだ理由(前)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=68
●アメリカの理系大学院を選んだ理由(中)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=69
●アメリカの理系大学院を選んだ理由(後)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=133
●なぜ日本でなくアメリカの大学院を選んだのか ~ 理系留学生が語る本音
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=57

【メルマガ第二弾】(2008年4月~2009年6月)
●留学本では教えてくれない海外大学院のホント(前)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=128
●留学本では教えてくれない海外大学院のホント(後)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=129
●Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには(前)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=131
●Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには(後)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=132

【特別編】
●科学英語についての特集(研究者向け)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=134
●読者アンケートの結果
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=135


さて、第三弾のトップバッターは、栄養疫学で博士号を取得し、現在ハーバー
ド大にてリサーチフェローをされている、今村さんに務めてもらいます。今回
のエッセイでは、健康に関する情報の捉え方についてです。非常に身近な話題
で、ある意味情報が氾濫している印象も受けます。メディアを通して公表され
る内容であっても、その中に嘘はなくとも、ある一面しか紹介されていない場
合は多々あります。そのため、情報を配信するメディア側には、公正かつ客観
的な視野が求められますし、我々視聴者は、ただ書かれていることをそのまま
鵜呑みにせず、まず考えることが求められます。今回は、それらの点に関して、
具体的な例とともに紹介しています。どうぞ、お楽しみ下さい!


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最近発表された論文の簡単な紹介とその将来的な可能性など
体重の減少・減量に関する研究とその報道
今村 文昭
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健康に関する多くの情報が巷に溢れているのは、皆さんもご周知のことかと思
います。メルマガのテーマが最新の研究の情報を提供するというものですので、
そうした研究の報道について述べたいと思います。

人のデータを基に因果関係を推察・提言するための学問を疫学といいます。た
とえば、古くから、1つの病気が、細菌による感染に起因するのか、栄養失調
に起因するのか、環境汚染に起因するのかなど、そういった健康状態の原因に
関する疑問に科学的に応える活躍をしています。社会性が強い学問でもありま
すので、疫学研究の成果は報道の対象となることが多いのが実際です。

それについて、昨年のアメリカ疫学会(2008年6月)において、報道記事
に、研究の問題点が書かれていないこと、そしてそんな報道を導くように、研
究の論文にも問題点が明確に記述されないことが、疫学者が対応すべき問題と
して議論されました。今回はそうした問題を念頭に置いて、4月に公に流れた
報道とその研究について紹介したいと思います。

最新の研究がいち早く公に報道されるというのは、素晴らしいことです。研究
者にとってはモチベーションにもなりますし、一般の方々にとっても知識の糧
となり、実生活に活かせることであればなおよいことでしょう。しかしながら、
テレビ、新聞、雑誌など、どんな情報源でも、そういった情報には危険がはら
んでいます。2007年に放送終了となった『発掘!あるある大事典』のデー
タの捏造など、記憶に新しいところです。

しかし、そういった情報は必ずしも悪意があるわけではありません。客観的に
専門家が考えれば、科学的に問題があったとしても、研究を行った科学者もそ
の科学者の報告に興味を持ったメディアも、研究の質を疑うことなく、公に科
学・公衆への貢献を伝えたいと考えるものでしょう。

そういった公のためを思う前向きな考えについては、罪を問うことはできない
ように思います。また、そうした情報に触れる読者・視聴者が、情報を自由に
解釈して実生活への応用を思い描くことに、自己責任の足かせを施す社会など
望まれるものではありません。

では、そうした情報を少しでも客観的に、そして安心して捉えることができる
ようになるには、どういった配慮がメディア側には必要で、情報に触れる側は
何を必要条件として情報のフィルターを掛ければ良いのでしょうか?残念なが
ら、その解決策があったとしても、理想論として遠い未来の話となるでしょう。
どんな研究にも、専門家にしか理解・議論できないであろう、しかしながら時
に致命的な問題点があるものです。そうした問題点が正しく公に伝わり、理解
されることが理想です。しかし、私たちが本当に安心できる情報はありません。

4月に大手のニュースサイトで紹介された、最近の研究をピックアップしたい
と思います。

4月15~16日
◇メタボ改善のために必要な減量目標 
http://eiquida.notlong.com 
(メルマガなどの刊行への記事の掲載は著作権の問題で制限があるため、こう
した形で掲載しました。オンラインニュースの場合は、記事が削除されてしま
うことも多いので、系統立てて検索しているわけではありません。そのため、
情報の数・媒体など、ここでは考慮しません。)

こちらは、筑波大学の研究で、筑波大学の広報からも発信されています。
http://www.tsukuba-sci.com/index.php?mode=kijiid&id=1503
原著論文はPreventive Medicineというジャーナルにあります。
http://dx.doi.org/10.1016/j.ypmed.2009.01.013

4月23~24日
◇20歳過ぎたら体重減にも注意 死亡リスク、中高年で高まる
http://gaitam.notlong.com 

こちらは、国立がんセンターの研究に関する報道です。
原著論文はこちらです。
http://jech.bmj.com/cgi/content/short/63/6/447


タイトル・記事を読むと、2つの情報がお互いに拮抗していることがわかりま
す。筑波大学の研究に関する報道では減量する必要性を論じ、がんセンターの
研究に関する報道では体重が減ることで死亡率が上がることを論じているので
す。

ここで注視したいのは、たとえば日本経済新聞のサイトの場合、2つの記事の
相違相同を語ることなく記事を掲載していることです。数多くの科学が蓄積し
た状況で、多くの科学者が研究に貢献した後に、こうした内容の矛盾をも疑い
得る形で情報が流れるのは、非常に悲しいことです。「読者の皆さんが判断し
てくださいね」という意を解釈できます。

記事を読んでみると、筑波大学の研究は、いわゆる「メタボリックシンドロー
ム」を呈する平均50歳の女性のみ300人強を対象にした研究とわかります。
一方、国立がんセンターの研究は、9万人弱男女を15年追跡した研究です。
研究対象となっている女性の肥満の程度などの情報と、報道から得られるメッ
セージについて、実際の数字にしてみると次のようになります。

・筑波大の研究では、体重(kg)を身長(m)の2乗で割る肥満の指標(BM
I)の平均が29ほどですので、平均的に、皆160センチメートルの女性と
すると74キロほどの体重です。8~13%の体重の減少というと、6~10
キロの体重の減少が望まれるということになります。この研究の長さは3ヶ月
ほどです。
・国立がんセンターの研究は、20歳の頃のからの体重減少は、死亡率が上が
るのではというものです。5キロ以上の減少で死亡率が上がるとあります。
・少し考えただけでは、太っている人でも体重を減らした方がよいのかわかり
ません。

筑波大学の研究を妥当とすると、がんセンターの研究については、たとえば次
のような疑問が挙がるかと思います。

1)もともと太っていた人も死亡率上がるの?
2)病気で体重が減ったのでは?
3)体重が減っていった人と減らした人とでは違うのでは?

1)と2)については、限られた報道記事からですが、読みとることもできま
す。BMIが25以上の人でも、体重が減っていれば死亡率が上がっています。
また、追跡を始めた時点で病気を患っていない人に限っても、同様に死亡率が
上がる傾向が記されています。3)については、がんセンターからの報告を読
んでも答えが見つからず、さらに論文を読んでもわかりません。この体重の減
少が意図されたものかそうでないかは、データが得られていないのです。この
点は、研究の問題点として、論文の最後の方に記述されています。しかし、報
道では触れられることもありません。

肥満と死亡率に関する研究については、過去に多くの報告がなされています。
その中で重要な焦点は、喫煙をすると、体重が減少することによる影響です。
この研究では、それについても喫煙者を除いて解析し、体重の減少により死亡
率の上昇は抑えられていることが示されています。

しかし、近年の肥満の研究では、喫煙者と何かしらの病歴を持つという2つの
条件をともに満たす人を解析から除外するのが妥当であると考えられています。
こうした複数の条件を同時に考慮する解析が行われた記載はなく、問題点とし
て考えるべきことといえるでしょう。

記事を読むと、知識が増えるというよりは、疑問が増えるように思います。
次回は上記の2つの研究を妥当な範囲で解釈を試みて、報道の問題について触
れたいと思います。


今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=136


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自己紹介
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今村文昭

上智大学理工学部化学科卒
コロンビア大学医学部栄養学科修士課程卒
タフツ大学 Friedman School of Nutrition Science and Policy 博士課程卒
ハーバード大学公衆衛生大学院疫学リサーチフェロー


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編集後記
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この報道から3ヶ月程たちましたが、肥満関係、栄養関係、予防医学関係、内
科関係の医学雑誌でも数百に及ぶ論文が発刊されています。それを思うと、そ
うした情報の流通についても、サイエンス(Health Communicationなど)が成
り立つわけで今後も科学者として意識していきたいなと思います。(今村)


改めてメルマガ第三弾の内容をご紹介します。今回のトピックは、
・最近発表された論文の簡単な紹介とその将来的な可能性など
・大学院留学を実現するノウハウ集
の2本立てです。前者は、近年発表された論文から、最先端のサイエンス・
テクノロジーを紹介し、その将来の可能性や展望について解説します。一方、
後者は、多くの読者の方々が大学院留学に最も関心を寄せていて、また私たち
カガクシャネットメンバーの体験談を有効に活用できるトピックでしょう。ま
た、これ以外にも、随時必要に応じて特別編も配信する場合もありますが、い
ずれのトピックにしても、みなさんにお楽しみ頂ける内容を提供できるよう、
カガクシャネット一同頑張っていきたいと思います。乞うご期待下さい!
(山本)


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