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【海外サイエンス・実況中継】誰を知っているか、誰が推してくれるか

posted Jan 30, 2012, 11:34 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:34 AM ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ January 2009, Vol. 43, No. 1
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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みなさん、遅ればせながら、明けましておめでとうございます!このメルマガ
【海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継】も今年で3年目を
迎えました。本年もどうぞよろしくお願い致します。

さて、今年最初のエッセイを、東京農工大で教鞭を執られている斎藤さんに紹
介してもらいます。「Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケー
スから学ぶこと」に関して、斎藤さんは、ずばり「人脈」だと言及されていま
す。これは大学院出願時でも言えることでしょうし、学位に関係なく、就職・
転職など、どんなことにでも当てはまりそうですね。それでは、お楽しみ下さ
い!

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Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学ぶこと
誰を知っているか、誰が推してくれるか 
斎藤 広隆
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博士取得後の成功は、ずばり「人脈」です。特に斬新な提言でもないですし、
言い古されているところもあるかと思いますが、やはり人脈は博士取得後のキャ
リア形成に欠かせません。これは日本に限らず、アメリカでも同じことです。

現在博士課程に所属している皆さんであればご存知かと思いますが、博士号取
得の見込みがついたころから、徐々に就職活動が始まります。私はアメリカ時
代の同僚から「お前、就職には何が一番大事か知っているか?」と聞かれ、
「論文数?」などと、今から考えると若い間抜けな答えをしていました。彼に
よると、就職に一番大事なのは「お前が誰を知っているか、誰がお前を推して
くれるか、だ」と。

当時はこの言葉の重みを完全に理解していませんでしたが、非常に核心をつい
た言葉だなと、後に納得することになります。彼は研究能力も十分高かったの
ですが、それと同等に人脈作りにも秀でており、分野を問わず人と積極的に交
流し、すぐに打ち解ける能力がありました。彼は最終的に、超一流大学のアシ
スタント・プロフェッサーとなったわけですが、彼の幅広い人脈が助けになっ
たことは疑いの余地がありません。ただ、彼の名誉のために一言付け加えます
が、研究能力も一流であり、「コネ」だけで就職したわけではありません。

さて、ここで紹介した一言に、今回のエッセイで言いたいことは集約されてい
ますが、以下で少し詳しく書きたいと思います。 


*誰を知っているか*
はじめに、「誰を知っているか」ということに関して、私の就職体験を一つの
例として述べたいと思います。私のアメリカでの最初の就職先は、ポスドクと
して赴任した国立研究所でした。そこで働くようになったのは、そこの主任研
究員(私のポスドク時代の上司となった人)の方が、私のいた大学院で招待講
演をした際に、大学院生の代表の一人として食事を一緒にしたことがきっかけ
です。

その後、私の指導教官を通して彼と共同研究をするようになり、卒業時にぜひ
うちに来ないか、ということになり雇っていただきました。実際に研究所に入っ
てみると、すべての人事は公募の形を取っていますが、コネクションがまった
くない人間が雇われることは、ゼロとは言いませんが、非常に少ないというこ
とが分かりました。つまり、共同研究のような具体的な実績がなくとも、たと
えば学会で何度も会って議論したとか、指導教官と昔仕事したことがあるとか、
何らかの関係がある人が採用される可能性が高いということです。

こういうことを書くと、いろいろな反論も出るでしょうし、賛否様々な意見が
あるかと思いますが、それが現実だということは、あまり疑いの余地がないか
と思います。ここで一つ付け加えたいのは、コネクションで採用されるからと
いって、能力のある人間が排除されるとか、能力のない人間が優先的に採用さ
れるということではない、ということです。

また、誤解してほしくないのですが、一番大事なことは、当然ですが、自分の
「実力」です。ですが、実力を数値化して、他者と差別化することは非常に難
しいことです。また、他の候補者と比べて飛びぬけているような場合除けば、
どんぐりの背比べに近いことが多く、たとえば何か一つのことで候補者Aが秀
でていても、他の面で候補者Bが優れている、といったことになるかと思いま
す。そのような場合は、結局誰が推薦者なのか、何か関係があるか、といった
ことが重要になるのです。

留学当時、セミナーなどで学外の研究者が招待されて来るときには、毎回学科
の方から大学院生宛に、「セミナースピーカーと食事に行きたい人は、事前に
連絡してください」、というメールが流れていました。面倒くさいので無視と
いう選択肢もあったのですが、自分の興味ある分野の人であれば、なるべく参
加するようにしていました。結果として、それが最初の就職につながったわけ
ですから、意味のある行動だったわけです。 


*誰が推してくれるか*
さて、次に「誰が推してくれるか」ということについて、少し述べたいと思い
ます。実際の就職活動の中で、通常応募する際には、履歴書や研究や教育に関
するエッセイに加えて、推薦書が必要となります。この推薦書が非常に重要で、
誰が推薦書を書くのかによって、結果は大きく変わってくるといっても過言で
はありません。「推薦者次第で結果が変わる」と言うと、眉をひそめる人も多
そうです。ですが、推薦者が非推薦者の学術的な中身を知らないにも関わらず、
自分の社会的な力を背景にごり押しするようなものでなければ、私はまったく
問題ないと思います。

話は逸れますが、少し前に「口利き」がニュースでよく取り上げられました。
いわゆる、小学校教員不正採用に関わる問題で、議員や様々な有力者(ってそ
もそもなんでしょうか?)による「口利き」があって、点数操作されて不正な
形で採用が行われたというニュースです。

このニュースを聞いて、世の中の多くの人は、けしからんと思ったでしょう。
ニュースを聞いたとき、私もけしからんなーと思いました。ですが、実は博士
取得後の就職というのは、「口利き」によるものが多く、我々の世界では金品
が絡んでいないとはいえ(絡んでいる例もあるかも知れませんが)、今回の事
件で「口利き」が悪の権化のような言い方をされると、若干違和感を覚えまし
た。それに、この「口利き」という言い方も悪意がこもっていませんか?「推
薦」とか「紹介」とかそういう言葉であれば、胡散臭さも少しは軽減されると
思うのですが、新聞やテレビでは「口利き」と呼んでいます。

今回のこの教員不正採用の問題で、私個人的には「金銭の授受」があったこと
が問題であって、本来「推薦」とか「紹介」が採用プロセスに含まれることは、
好ましいと考えます。人間の評価は、基本的には難しいものです。運・不運の
要素も多く含まれる筆記試験の点数だけで、単純に順位付けすることはかなり
危険です。ですので、その人をよく知っている人に話を聞き、その情報も評価
の対象とする必要があります。それが、「口利き」であり、また「推薦」とか
「紹介」などと言われるものであるはずです。

余談ですが、そもそも日本の小学校教員採用プロセスで「推薦書」は必要ない
のだろうか、ということを疑問に思い、ウェブで少し調べてみました。その結
果ですが、どうやら「推薦書」は一般に必要とされないようです。これは、あ
る意味驚きでした。試験の結果のみで順位付けがなされ、機械的に採用が決ま
るようです。そうなると、不正してでも入り込みたいという気持ちを持つ人が
出てきて、今回の事件のようなことが起こってしまうのはあまり驚きでなくな
ります。 

さて、若干話しが脱線気味なので、話を元に戻しましょう。Ph.D. 取得後のキャ
リア形成に欠かせないのが、いわゆる「口利き」、あるいは言い方を変えれば
「推薦」です。これは、どこかの国の話ではなく、あらゆる分野で世界共通の
話だと思いますし、アメリカでもその傾向は強いように思います。やはり試験
の点数や、研究成果だけでは、人間の評価は難しいということなのでしょう。
ですから、ある人物について知りたければ、その人をよく知っていて、かつ社
会的に信頼の置ける人に意見を聞くと言うのは、ごくごく自然なことだと思い
ます。そのようなシステムが健全に機能するために、超えなければいけないハー
ドルはとても高いのですが、アメリカなどではこのシステムで比較的うまく回っ
ているように感じます。 


*人脈作りが成功へと繋がる*
結局何が言いたいのかというと、「とにかく人脈作りをしてください」という
ことです。この一言に尽きます。人と知り合うチャンスがあれば、積極的に活
用するということが大事です。学会に行く目的は、自分の研究発表だけでなく、
人脈作りにあると思います。積極的に質問する、ソーシャルイベントにも欠か
さず足を運ぶ、といった地味な活動が、皆さんの将来のキャリアに大きく影響
するかも知れません。 


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自己紹介
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斎藤 広隆
1995年東京大学農業工学科(現生物・環境工学科)卒業。1997年同修士課程修了。
2003年ミシガン大学土木・環境工学科博士課程修了(Ph.D.)。その後ポスドク
研究員としてサンディア国立研究所、カリフォルニア大学リバーサイド校
(UCR)にて研究に従事。日本学術振興会海外特別研究員を経て2006年11月より、
日本版テニュアトラック制度として新設されたテニュアトラック教員として、
東京農工大学にて研究・教育活動に取り組む。 


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編集後記
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今年初めて自分の研究室から卒業生二名を出すことになりますが、そのうち一
人が外国の大学院に進学することになりました。また、研究室は異なりますが、
専攻内の修士の学生がアメリカの博士課程進学を目指しています。このグロー
バル化の時代、外国の大学・大学院に進学するということが、日本の学生にとっ
て完全に選択肢の一つになってきたのだなーと実感しています。研究室を運営
する立場としては、優秀な学生が自分の元を去っていってしまうので、とても
複雑な気持ちです(抜けた学生の穴を埋めるのは本当に難しいのです)。です
が、教え子がかつての自分と同じような道を歩もうとしている姿を見ると、非
常にうれしく、快く送り出してやろうという気持になります。自分のところに
残るように指導すべきか、外国の大学院を目指すべく指導すべきか、学生が優
秀であればあるほど難しい課題です。(斎藤)

【注】次号配信は1月24日の予定です。


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