E-Mag‎ > ‎

2009

メールマガジンのアーカイブを公開しています。

記事のリスト


【海外サイエンス・実況中継】北米ライフサイエンスの多様化

posted Jan 30, 2012, 11:47 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:47 AM ]

「大学院留学を実現するためのノウハウ」の一環として、今回はライフサイエンスの領域
におけるプログラムの多様化・複合化について紹介したいと思います。
近年の科学の発展の1つの方向性として、Interdisciplinary あるいは
multidisciplinary と表現される、文字通り、異なる Discipline が交わる、あるいは複
数の Disciplines が組み合わさった領域の発展があげられます。ライフサイエンスの分
野ではその傾向が著しく、その一端である大学院プログラムの発展について紹介したい次
第です。

この文章は、来る3月に発刊予定である「理系大学院留学を実現する方法(仮)」に掲載
予定です。校正前の文章ですが、この時点でも読んでいただけたら幸いです。
大学院留学を目指す方のみならず、日米の違いのひとつとして挙げられることですので少
しでも参考にして頂ければ幸いです。

ご意見などございましたら、ぜひカガクシャ・ネットホームページ経由でもEメールでも
ご連絡ください。
(EMAIL:fumiaki.imamura [AT] hsph.harvard.edu)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
大学院留学を実現するためのノウハウ
北米ライフサイエンスにおける学際領域の発展
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

近年、科学技術の向上が社会により高利的に還元されるよう、アメリカを含む多
くの国々で、異なる科学分野をまたがる交流を促す機運が高まっています。医学
においては、基礎研究から臨床、あるいは政策の橋渡しとなる、いわゆるトラン
スレーショナル・リサーチ(Translational Research)が国家規模で支援されて
います。ここでは、その流れについて紹介し、簡単に日米の比較をしたいと思い
ます。

科学技術のすさまじい発展は、先進国の生命科学のみならず、発展途上国への応
用ににまで及んでいます。そうした社会の流れ通り、アメリカの生命科学系の大
学院教育では、学生も研究者も、臨床や公衆衛生などが実践されている現場と非
常に関わりの深い研究を行えること、さらにそれに伴う多彩な知見を学ぶことが
できます。

科学の研究が、その質や科学的意義を保ちつつも早急に応用へと繋がるよう、教
育基盤が整えられつつあります。研究者同士が分野をまたいだ交流が盛んになる
ことは、その環境で学ぶ大学院生にとっては、学業や研究のみならず、将来を考
えても刺激的といえるでしょう。

トランスレーショナル・リサーチとは、基礎研究を臨床研究(Bench to 
Bedside)に応用することを目指した領域です。現在では、基礎研究から臨床研
究への流れだけでなく、臨床の知見を基礎研究に(Bedside to Bench)、基礎研
究や臨床の流れを国民全体に(Bedside to bench to population)というように、
科学の広い展開が求められています。

そのニーズに根ざした学際プログラムとして、たとえば、医療工学における物理
学・人間工学の医療技術への応用(Biomedical Engineering など)、コンピュ
ーターサイエンスやナノテクノロジーの医療診断への応用(Bioinformatics な
ど)の領域を、MD/Ph.D. 課程や Ph.D. 課程を設ける大学院が近年増えてきてい
ます。

こうしたプログラムは生命科学系に限りませんが、 Interdisciplinary 
Graduate Program(IGP)と呼ばれ、これらのプログラムを通して、学生は学際
領域を系統的に学ぶ機会を得ることができます。1つの研究に従事する中で、必
要性に応じて習熟するだけでなく、そのプログラムの中で、教授陣や学生と交流
を図る環境が整えられることは、価値のあることと言えるでしょう。

こうした潮流が生まれる背景には、アメリカ国立衛生研究所(NIH: National 
Institute of Health)が、そうした研究や教育体制を支持していることが挙げ
られます(http://www.ctsaweb.org/)。

全米において、医療系の学術機関は、この流れに従うべく学際交流を盛んにし、
結果として、学生にとってはよりよい環境を作り上げています。すなわち、多く
の学術機関が、その流れに逆らわず共同戦線を組み、新しい研究を立ち上げ、政
府から資金援助を受け、相乗効果を汲み出すことに尽力しています。学会におい
ても、そうした交流が図られ、研究者が呼応し合い新たな可能性を探っています。

今後、科学の領域を行き来できるための専門性と独創性、さらに相互の理解や尊
重がさらに必要とされるでしょう。たとえトランスレーショナル・リサーチのた
めのプログラムではない、あるいは複合学部として課程を設けていない機関であ
ろうと、これからの研究者には、近年の応用科学の流れを理解し、展望を持つこ
とが求められているのは確かです。

また、NIH の支援する研究を含め、アメリカで行われる生命科学の応用研究は、
臨床現場に留まっているわけではありません。環境汚染に関する研究として、地
質学的な研究と人体への影響についての研究とが、同じ傘の下で行われ、教育が
それに伴います。

発展途上国において得られた生物学的な検体が、科学技術と数理統計の英知を駆
使した解析の対象となり、人種の違いと病理に関する科学に貢献します。こうし
た NIH など国の機関が支援する科学のアプローチが、教育現場にまで浸透し、
IGP を可能にするよりよい環境を作ります。

またプログラムを問わず、生命科学の教育現場を巻き込む人的交流の輪は、学術
領域に留まらず、企業や政府機関との関係にまで及んでいます。社会的な交流は、
研究グループの指揮官のみの話ではありません。博士号取得者の専門性や応用力
の価値が理解されているアメリカでは、大学院レベルの教育現場と企業や政府研
究機関の交流が盛んです。

それに伴って、生命科学系の大学院生を対象にした、短期のインターンシップや
ワークショップなどの機会が溢れています。それは研究者が用意した専門の学会
が主催するものや企業や政府の研究機関が扉を開いている機会などふんだんにあ
り、学生でありながら学術領域外にあたる研究やそのマネジメントに触れること
ができます。

こうした仕組みが、生命科学系の分野における、企業とアカデミアとの距離を縮
め、博士研究者を抱えこむ巨大なバイオインダストリーを培い、逆にバイオイン
ダストリーが教育現場を目に見える形で刺激しています。そして、研究成果を修
めることが求められる大学院課程とはいえ、そうした課外の交流が激励されるの
もアメリカの特徴といえるでしょう。

それでは、日本はどうでしょうか。

日本の教育現場でも、文部科学省が主導となり、大学院の教育改革が進められて
います。2007年にはグローバル Center of Excellence(COE)と題して、国際
的に活躍できる研究者を育てることを目的としたプログラムが設けられ、厳選さ
れた国公私立大学の研究施設が、そのプログラムに準じて教育現場を向上させて
います。

生命科学系の教育に限りませんが、文部科学省の公開するその予算額は、年間で
300億円を上回ります。アメリカのトランスレーショナル・リサーチの促進にか
けられる予算は、2010年に締め切られる公募で100億円相当となります。日本
における博士号取得者が定職に就けない余剰博士の社会問題を踏まえ、世界中か
ら研究者が集うアメリカの基盤や社会とのつながりを考えると、単純な比較はで
きませんが、現時点では日本が国家規模で、アメリカの研究者教育を、力強く追
従していると考えるのが妥当でしょう。

また、医学研究において日米の大きな違いの1つとして挙げられるのは、分野に
よるところもありますが、教育現場や基礎研究現場にも、医師や臨床心理士、薬
剤師など、臨床現場に近い専門家が従事していることが挙げられます。

アメリカでは、研究環境において現場を知る専門家が、積極的に教育や基礎研究
に従事し、基礎研究と応用研究との敷居が低くなり、さらに異分野の交流が成さ
れやすい環境ができあがっているといえるでしょう。

研究留学として、日本人の医師が基礎研究を学びに、あるいは基礎研究者が臨床
に近い基礎研究の応用機会を求めることは多くなりましたが、アメリカの特徴が
よく現れた傾向といえます。しかし、真にアメリカの仕組みの利点を最大限吸収
するには、大学院教育に身を投じることが必要なのは言うまでもありません。

最後に、アメリカでは、従来より、学術機関と政治や企業との人的交流が盛んな
ため、基礎研究と応用研究のむすびつきがスムーズで、科学が社会に貢献するこ
とが求められる現代に沿っているといえるでしょう。日本の科学も、社会の発展
を縁の下で支えるだけではなく、社会的、政治的に目に見える貢献をすることが
求められると考えられます。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
自己紹介
------------------
今村文昭

上智大学理工学部化学科卒
コロンビア大学医学部栄養学科修士課程卒
タフツ大学 Friedman School of Nutrition Science and Policy 博士課程卒
ハーバード大学公衆衛生大学院疫学リサーチフェロー

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記
------------------

人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells、iPS細胞)の研究で、京都大学の
山中伸弥教授が、革新的な貢献をなさいましたが、その細胞学的な発見(2006年)か
ら、臨床に生かすまでに必要な研究の進展には日米の違いがあったという経緯があります。
Translational Researchを立ち上げて遂行するための基盤が、日米で異なることが明白に
なった良い例ではないでしょうか。

科学者としてのあり方は、個々の考えがあるかと思いますが、その多様な考え方を有する
科学者が協力し合い、基礎から応用まで、先進国から発展途上国まで、文化からテクノロ
ジーまで、科学が貢献し、公の皆さんが正しく評価できるよう情報が整理されればと思い
ます。言うは易しですが・・。(今村)

留学セミナー&公開インタビュー・イベント:成功のうちに終わりました

posted Jan 30, 2012, 11:47 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:47 AM ]

12月13日にカガクシャネット主宰で、「第二回留学セミナー&公開インタビュー」が行われました。

告知したのが比較的急で、日曜日にも関わらず多くの方々に参加いただき、ありがとうございました。
おかげさまで、成功のうちに無事終えることができました。

第一部では、まず山本がアメリカでの大学院留学生の動向についてお話し、杉井がアメリカ大学院プログラムについての基礎知識について紹介、それから斉藤の司会進行で、カガクシャネットの中心メンバー5名が、留学について皆さんから質問いただいた点について、詳しくお答えしました。

第二部は、理系留学経験者への公開インタビューを行いました。北澤宏一博士と東原和成教授のお話は、科学技術の第一線で活躍されているだけに、たいへん参考になる内容でした。当日のインタビュー内容は、来春に発刊を目指しているアルク社「理系大学院留学を実現する方法(仮称)」、およびこのウェブサイトでも掲載していきたいと思います。またアナウンスをいたします。

当日の参加者アンケートで様々な要望や、満足だった点、不満だった点を教えていただき、今後のイベントに生かしたいと思います。特に、限られた時間で多くのことを詰め込んだので、フォローしきれない面もあったでしょう。これから、当日紹介したスライドや内容をこのサイトに載せていくようにします。

セミナーのあとの懇親会は、日曜であったことと、終了後時間が空いてしまったこともあり、比較的少数で行われましたが、逆に密度の濃い「ここだけの」お話を色々とすることができたと思います。参加してくださった皆様、ありがとうございました。こういったことに積極的に参加される方々は、これからの留学の実現、きっとうまく行くに違いないでしょう。

オーガナイザー:
杉井重紀  ソーク研究所、カガクシャネット代表
山本智徳  ジョンズホプキンス大学、カガクシャネット副代表
斉藤広隆  東京農工大学、カガクシャネットエグゼクティブメンバー
本澤真太郎 東京農工大学国際センター
小暮貴子  (株)アルク











【海外サイエンス・実況中継】アメリカ大学院生のバックグラウンド!

posted Jan 30, 2012, 11:47 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:47 AM ]

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
_/
_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ December 2009, Vol. 53, No. 2
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
_/
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

これまでJohns Hopkins Univの山本智徳氏が編集を担ってくださいましたが、カガクシャ
ネットの皆で編集も持ち回りにしましょうということになりました。今回は、今村文昭が
務めさせて頂きます。

「大学院留学を実現するためのノウハウ」の一環として、今回は、私と布施慎一郎氏で、
編集しました、大学院志願者のバックグラウンドに関する文章を紹介させて頂きたいと思
います。この文章は、来る3月に発刊予定である「理系大学院留学を実現する方法(仮)
」に掲載予定なのですが、改変前のナイーブな文章として捉えて頂ければと思います。
また、編集後記に、別途、私の視点で同内容について情報を付加したいと思います。

大学院留学を目指す方は、すでにApplicationのDeadlineが目前・・ということも多いと
思います。少しでも参考になれば幸いです。

ご意見などございましたら、ぜひカガクシャ・ネットホームページ経由でもEメールでも
ご連絡ください。
(URL:挿入予定
EMAIL:fumiaki.imamura [AT] hsph.harvard.edu)


先日、お伝えした日本での公開インタビューのイベント・・数時間後開催です。
カガクシャ・ネットを主宰する杉井氏をトップにまたとない機会となることと思いますの
でご都合の合う方は、ぜひ参加して頂けたらと思います。
イベント案内: http://kagakusha.net/images/event09.pdf
詳細はメール末尾に添付しました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
大学院留学を実現するためのノウハウ
志願者の多様性を知る
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

北米の大学院生のバックグラウンドはさまざまです。その多様性は、理学系の大学院に限
らず、多くの教育場面で見受けられます。

まず、医学・栄養学・法学などの教育を例に挙げてみましょう。これらの分野では、アメ
リカにおいてプロフェッショナルの資格を得るために、大学院教育を修めなくてはなりま
せん。日本では学部卒でも国家資格を得ることができる領域です。

それぞれの大学院へ入るための条件は異なりますが、例えば、医学系の大学院へは、
生物はもちろんのこと、数学から物理、中には経済学を学んだ人まで入学します。

大学院医学課程に臨む人の多くは、学部時代に主専攻(Major)、あるいは副専攻(Mino
r)として、医学と関係のある科目を履修し、さらに休みの間には、インターンシップな
どでユニークな経験(保険事業のボランティアや実際に生物系研究室での研究など)を積
みます。

このように専門性のある大学院教育でも多くの分野が交じり合うことが約束されています。
大学院教育とはそういうものなのです。多彩な経験を積んだ人が多いことが特色となり、
そうした多様性が尊重されています。これは、複数の文化を多く受け入れてきた、多民族
国家のアメリカ「らしさ」と言えるでしょう。


それでは理工系の大学院はどうでしょうか。

内容に専門性の求められる理工系の大学院では、そうした多様性はそれほど顕著ではな
いかもしれません。しかし、理工系の大学院でも、哲学や言語学などがバックグラウンド
であっても、基礎や目的がしっかりしていれば、多様性はむしろ歓迎されるのです。

幅広いバックグラウンドや経験が生かされる環境は、学部・修士課程を卒業し、仕事の経
験を積んだ後に、大学院へ進学する人の多さからもわかります。生命科学系、あるいは工
学系の企業でも、科学と社会のインターセクションにおいて経験を積んだ人こそ、基礎研
究や最先端技術の応用の現場を知っています。また、新たに基礎から学ぼうとする動機や
意欲を持っているため、これから必要とされる研究への展望が明白にできるでしょう。

アメリカの大学院における Ph.D. 課程は、企業研究には劣るものの、経済的なサポーも
充実しています。そのため、企業を離れて再び学を求める人に対しても、敷居の低いもの
と考えることができます。

また、企業研究の一端を担う学術機関も少なくないように、研究内容によっては、企業と
学術機関との距離が近いことも事実です。このような環境があるため、企業経験をバック
グラウンドに持つ人が博士号を目指すことも珍しくなく、学生のバックグラウンドも広が
ります。
そのため、選考の際の競争率が高くなることは確かです。しかし、企業経験のない大学院
生でも、課程に入れれば企業経験のある人の知恵や経験に触れる機会を増やすこととなり、
教育環境として素晴らしいものを作り上げていることには違いありません。

アメリカ理系大学院の入試選考において、専門性が明確に求められるのは GRE Subjectの
みで、独自性が求められる書類審査が大きな比重を占めます。そのため志願者は、どれだ
けプログラムや研究室、科学領域に貢献できるか、生き残るだけでなくさらに飛躍してい
く可能性があるか、などをアピールすることになります。その中で、志願者のバックグラ
ウンドが、出願するプログラムと同類のものである必要はありません。

物理学や数学を医学に、生命科学を環境問題に、経済学を化学工学に―そうした知的財産
の応用・流動は、本来望まれるべきであり、実際にアメリカの大学院教育は、そのような
可能性を受け入れているのです。また、各研究機関は、異なる領域が協力し合うことによ
る相乗効果を求められており、教育現場もその流れを汲んでいます。

つまり、バックグラウンドが特異的でも、その特異性が科学に貢献できる可能性に富んで
いることを訴えることができれば、選び抜かれます。


それでは、日本はどうでしょうか。日本の基礎科学や医学において、多くの偉人が歴史に
名を残し、工学は群を抜いた高度経済成長を支えてきました。1つの道を究める職人気質
や、それを敬う日本の社会と文化が、世界に "Japan as Number One"(Ezra F. Vogel
著)と言わしめました。

そして、理工学とその応用を根底から支える教育機関は、専門性を深く追求できる人材を
育てる仕組みを構築してきました。そのため、大学院に進む学生のバックグラウンドは、
大学院入学時から専門性に長けていることが期待されるのです。そうした人材育成と社会
との深いつながりが、大学院生のバックグラウンドが限定されたものになったといえます。

そうした教育を基盤に、量子力学などの物理領域ではノーベル賞受賞者が生まれ、分子生
物学や免疫学などの生命科学領域でも世界でも有力な研究成果を残してきました。しかし、
日本において、研究が縦に深く掘り下げられることはあっても、研究者の強い専門性のた
め、分野をまたいだ交流に弾みがつかず、研究が横に広く拡張していくことは難しいとい
えます。

京都大学の山中伸弥教授が2006年に拓いた、幹細胞研究の臨床・応用研究への発展も、日
本はアメリカに遅れをとっていると言われています。日本では、科学の社会への貢献が、
科学的、および経済的にも求められおり、そういった点では、大学院生のバックグラウン
ドが限定される日本の大学院課程は、その利点を維持しつつ、欧米諸国の多様性の価値を
深めることが、今後必要とされるでしょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
自己紹介
------------------
今村文昭

上智大学理工学部化学科卒
コロンビア大学医学部栄養学科修士課程卒
タフツ大学 Friedman School of Nutrition Science and Policy 博士課程卒
ハーバード大学公衆衛生大学院疫学リサーチフェロー


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記
------------------

私の知っている北米にいる変わったバックグラウンドをもつ日本人大学院生の極端な例と
して、生物学を一切学んだことのない心理学科卒の脳神経科学の学生、日本文学を専攻し
ていた分子生物学の学生があげられます。
優秀な人というのは背景がなんであろうとも、どんな分野でも生き残れるはずで、興味さ
えあれば凄まじいスピードで最先端の知識を吸収できるのです。北米の大学院は、そうい
った人材を見出し、迎え入れる懐があるように思います。
逆に、同じことしか学んでこなかったような頭の固そうな人ではまずいのです。

先月、日本ではいわゆる「事業仕分け」の政策で、科学と政治の考え方の違いが浮き彫り
になったように思います。さまざまな背景を持った人が、異分野交流を図るような社会基
盤が必要とされているのではないでしょうか。留学するしないに関わらず、「専門」に捉
われない、そして「専門」を尊重しあうことが大切・・と改めて思います。(今村)



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
理系大学院留学経験著名人「公開インタビュー」12月13日開催!
------------------

研究の世界もグローバル化が進んでいる今、これからの科学者は視野を広めるために、研
究留学することがますます必須となっていますが、大学院から留学するという選択肢が脚
光をあびつつあります。特に、一流の研究者を育てるための教育・サービスが非常に充実
している、アメリカの大学院は、世界中から優秀な学生を集めています。昨年も好評をい
ただいたこのセミナーを、今回はさらに規模を拡大し、実際に大学院留学を経験した若手
組と著名人の両方が集結。主にアメリカの大学院について紹介し、みなさんの質問にお答
えします。また大学院留学に興味のない方でも、第二部は楽しめることと思いますので、
どうぞご参加ください。学内外の参加を歓迎します。準備の関係上、事前に下記に登録申
し込みをお願いしております(当日も可ですが、できるだけ早い登録をおすすめします)。
スピーカーへの質問もありましたら、ぜひ登録時にお知らせください。

【イベント・スピーカー】
● 若手留学経験者
山本智徳(ジョンズ・ホプキンス大博士課程在籍中、カガクシャ・ネット副代表)、
斎藤広隆(ミシガン大博士課程修了、現東京農工大、
カガクシャ・ネットエグゼクティブメンバー)、
杉井重紀(ダートマス大博士課程修了、現ソーク研究所研究員、
カガクシャ・ネット代表)、
他数名を予定。

● 公開インタビュー著名人
北澤宏一博士(MIT博士課程修了、科学技術振興機構理事長)、
東原和成博士(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校博士課程修了、12月1日よ
り東大農学生命科学研究科教授)


【日時】
2009年12月13日(日)午後1時30分~午後4時30分

午後1時30分~午後2時45分 第一部:留学経験者による講演、パネルディスカッション
午後2時45分~午後3時00分 休憩
午後3時00分~午後4時30分 第二部:留学経験著名人への公開インタビュー、質疑応答
午後5時以降 懇親会(参加任意:飲食実費がかかります)

【場所】
東京農工大学小金井キャンパス13号館3階L1331教室(中央線東小金井駅から徒歩約10分)
http://www.tuat.ac.jp/access/

【参加費】
無料(ただし懇親会は実費)

【登録フォーム】
http://kagakusha.net/event.htm

【イベント告知ポスター】
http://kagakusha.net/images/event09.pdf

【本セミナーに関する問合せ先】
東京農工大学地域生態システム学科 斎藤広隆
Email: hiroscc.tuat.ac.jp
( を@に書き換えてください)
Tel/Fax: 042-367-5584

【主催】
カガクシャ・ネット
http://kagakusha.net/

【後援】
東京農工大学国際センター
(株)アルク
科学技術社会論学会

━━━━━━━━━━━━━━━━━
カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/
(上記サイトで無料ユーザー登録後、バックナンバー閲覧可)
発行責任者: 杉井 重紀
編集責任者: 
メールマガジンの登録と解除: 
http://www.mag2.com/m/0000220966.html
ご連絡はこのメルマガに「返信」または以下のページから: 
http://kagakusha.net/Mailform/mail.html
友人・お知り合いへの転送は自由ですが、無断転載は禁じます。
転載ご希望の際は必ずご連絡ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━

東京周辺の方、日曜日のイベントでお会いしましょう

posted Jan 30, 2012, 11:46 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:46 AM ]

カガクシャネット主催のイベントがこの日曜日にさしせまって来ました。
留学経験者がこれだけ一同に集まる機会は、まずありません。

留学に興味のある方はもちろん、留学しようか迷ってる方、単に話を聞いてみたいという方、
どんな方でも楽しめる内容ですので、東京周辺にいる方は、当日の午後、
東京農工大小金井キャンパスでお会いしましょう。
当日、会場での参加登録(もちろん無料)もオッケーです。

http://kagakusha.net/event.htm


----------
理系大学院留学経験著名人「公開インタビュー」12月13日開催!

研究の世界もグローバル化が進んでいる今、これからの科学者は視野を広めるために、
研究留学することがますます必須となっていますが、大学院から留学するという選択肢
が脚光をあびつつあります。特に、一流の研究者を育てるための教育・サービスが非常に
充実している、アメリカの大学院は、世界中から優秀な学生を集めています。昨年も
好評をいただいたこのセミナーを、今回はさらに規模を拡大し、実際に大学院留学を経験した
若手組と著名人の両方が集結。主にアメリカの大学院について紹介し、みなさんの質問に
お答えします。また大学院留学に興味のない方でも、第二部は楽しめることと思いますので、
どうぞご参加ください。学内外の参加を歓迎します。準備の関係上、事前に下記に登録
申し込みをお願いしております(当日も可ですが、できるだけ早い登録をおすすめします)。
スピーカーへの質問もありましたら、ぜひ登録時にお知らせください。

【イベント・スピーカー】
● 若手留学経験者
山本智徳(ジョンズ・ホプキンス大博士課程在籍中、カガクシャ・ネット副代表)、
斎藤広隆(ミシガン大博士課程修了、現東京農工大、カガクシャ・ネットエグゼクティブメンバー)、
杉井重紀(ダートマス大博士課程修了、現ソーク研究所研究員、カガクシャ・ネット代表)、
他数名を予定。

● 公開インタビュー著名人
北澤宏一博士(MIT博士課程修了、科学技術振興機構理事長)、
東原和成博士(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校博士課程修了、12月1日より東大農学生命科学研究科教授)


【日時】
2009年12月13日(日)午後1時30分~午後4時30分

午後1時30分~午後2時45分 第一部:留学経験者による講演、パネルディスカッション
午後2時45分~午後3時00分 休憩
午後3時00分~午後4時30分 第二部:留学経験著名人への公開インタビュー、質疑応答
午後5時以降 懇親会(参加任意:飲食実費がかかります)

【場所】
東京農工大学小金井キャンパス13号館3階L1331教室(中央線東小金井駅から徒歩約10分)
http://www.tuat.ac.jp/access/

【参加費】
無料(ただし懇親会は実費)

【登録フォーム】
http://kagakusha.net/event.htm

【イベント告知ポスター】
http://kagakusha.net/images/event09.pdf

【本セミナーに関する問合せ先】
東京農工大学地域生態システム学科 斎藤広隆
Email: hiroscc.tuat.ac.jp
( を@に書き換えてください)
Tel/Fax: 042-367-5584

【主催】
カガクシャ・ネット
http://kagakusha.net/

【後援】
東京農工大学国際センター
(株)アルク
科学技術社会論学会

Research Assistant Fellowship Openings for new Ph.D. candidates at the Virginia

posted Jan 30, 2012, 11:46 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:46 AM ]

以下の依頼をいただきました。電子/コンピュータ工学の博士課程留学を目指す方はご覧下さい。

-------
Research Assistant Fellowship Openings for new Ph.D. candidates at the Virginia Commonwealth University, USA

I have two openings as a research assistant fellowship starting from next couple semesters for seeking a Ph.D. degree in the Department of Electrical and Computer Engineering at the Virginia Commonwealth University (VCU).

http://www.vcu.edu/
http://en.wikipedia.org/wiki/Virginia_Commonwealth_University

My research fields include Medical Imaging, Computer Vision, Pattern Recognition, Robotics, and Sensory Network. The recent projects are listed in the following websites:


http://www.vcu.edu/~ymotai
http://www.sil.vcu.edu/

The desired qualifications for the candidates include frequent English and strong Math capabilities in engineering and sciences. I prefer the Ph.D. candidates who have (or will shortly complete) M.S degree, or transfer from another Ph.D. program.



Please feel free to email me your comprehensive resume if you consider applying Ph.D. programs in the US.

Yuichi Motai, Ph.D. Assistant Professor
Department of Electrical and Computer Engineering
Virginia Commonwealth University 
Email: [email protected]
Phone: 804-828-1281
http://www.vcu.edu/~ymotai

【海外サイエンス・実況中継】情報収集をする ~ 信頼のおける情報入手のノウハウ

posted Jan 30, 2012, 11:45 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:45 AM ]

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
_/
_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ November 2009, Vol. 53, No. 1
_/ カガクシャ・ネット→ http://kagakusha.net/
_/
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


まず最初に、イベントの告知からです。昨年5月に開催し好評でした、留学セ
ミナーの第二回目を、12月13日(日)に、東京農工大学小金井キャンパスにて
開催いたします。今回は二部構成で、前半はカガクシャ・ネットのメンバーに
よる留学セミナー、後半は留学経験のある理系著名人を招いた公開インタビュー
を行います。参加費は無料です(無料だけでなく、アルク社から景品が進呈さ
れます)。準備の関係上、ウェブから事前登録をお願いしております。その際
に、セミナーおよび公開インタビューの際に質問したいことをあらかじめ、送っ
ていただくことが可能です。当日時間に限りがありますので、あらかじめ質問
を送っていただけると効率的に進行ができますので、質問のある方はぜひご利
用ください。多くの皆さんの参加をお待ちしております。

事前登録ウェブサイト:http://kagakusha.net/event.htm
イベント告知ポスター:http://www.scribd.com/doc/23228761/


----------------------------------------------------------------------
研究の世界もグローバル化が進んでいる今、これからの科学者は視野を広める
ために、研究留学することがますます必須となっていますが、大学院から留学
するという選択肢が脚光をあびつつあります。特に、一流の研究者を育てるた
めの教育・サービスが非常に充実している、アメリカの大学院は、世界中から
優秀な学生を集めています。昨年も好評をいただいたこのセミナーを、今回は
さらに規模を拡大し、実際に大学院留学を経験した若手組と著名人の両方が集
結。主にアメリカの大学院について紹介し、みなさんの質問にお答えします。

【イベント・スピーカー】
● 若手留学経験者
山本智徳(ジョンズ・ホプキンス大博士課程在籍中、カガクシャ・ネット副代
表)、斎藤広隆(ミシガン大博士課程修了、現東京農工大、カガクシャ・ネッ
トエグゼクティブメンバー)、杉井重紀(ダートマス大博士課程修了、現ソー
ク研究所研究員、カガクシャ・ネット代表)、他数名を予定。

● 公開インタビュー著名人
北澤宏一博士(MIT博士課程修了、科学技術振興機構理事長)、東原和成博士
(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校博士課程修了、12月1日より東
大農学生命科学研究科教授) 

【日時】
2009年12月13日(日)午後1時30分~午後4時30分

午後1時30分~午後2時45分 
 第一部:留学経験者による講演、パネルディスカッション
午後2時45分~午後3時00分 休憩
午後3時00分~午後4時30分 
 第二部:留学経験著名人への公開インタビュー、質疑応答
午後5時以降 懇親会(参加任意:飲食実費がかかります) 

【場所】
東京農工大学小金井キャンパス13号館3階L1331教室
(中央線東小金井駅から徒歩約10分)
http://www.tuat.ac.jp/access/

【参加費・参加特典】
無料(ただし懇親会は実費) 
参加者全員にペンケース進呈(アルク社提供)

【本セミナーに関する問合せ先】
東京農工大学地域生態システム学科 斎藤広隆
Email: hiroscc.tuat.ac.jp
( を @ に書き換えてください)
Tel/Fax: 042-367-5584
----------------------------------------------------------------------


さて、今回からしばらくの間、「大学院留学を実現するためのノウハウ」をお
送りします。主なターゲットは、これからアメリカの理系大学院留学のために
出願準備を始める方となります。2010年秋入学を目指している方にとっては、
一刻も早く知りたい疑問点があるかもしれません。その際には、カガクシャ・
ネットのメーリングリスト(http://groups.yahoo.co.jp/group/Kagakusha/)
に登録して、質問を投げ掛けてください。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
大学院留学を実現するためのノウハウ
情報収集をする ~ 信頼のおける情報入手のノウハウ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.インターネットを使った情報収集

インターネットの普及により、一昔前と比べて、大学の情報収集が非常に便利
になりました。アメリカの大学のウェブサイトはとても充実しており、調べ方
さえ分かれば、教授の名前、電話番号やEメールアドレス、研究分野、発表論
文、あるいは研究室に所属している大学院生の名前まで、簡単に調べることが
できます。 

アメリカの大学のウェブサイトを初めて見る人は、最初はどこから見れば良い
のか分かりづらいかもしれません。どの大学のウェブサイトも、まず大学の紹
介、例 えば、スタンフォード大学のページなら、About Stanford というリン
ク、また出願希望者のための情報のページ(Admission へのリンク)、学部や
学科、各種プログラムへのリンクをまとめた Academics へのリンク、大学の
研究活動などを紹介する Research へのリンク、そして大学のキャンパスライ
フを紹介する Campus Life へのリンクなどがあります。名前こそ違えど、こ
れらは必ずと言っていいほど、どの大学のウェブサイトにもあります。

出願に要求される条件(Admission Requirements)、例えばどのような書類を
提出しないといけないか、GRE Subject が必要かどうか、授業料(Tuition)
はいくらか、などの情報は Admission のセクションで調べましょう。ただし、
大学院レベル(Graduate Admission)と学部レベル(Undergraduate 
Admission)では応募内容が異なりますし、さらに学部・学科ごとに異なる場
合もあるので注意が必要です。また、Admission のセクションには、たいてい
留学生(International Applicants)への出願情報が書かれています。TOEFL 
の最低点数、ビザ情報、財政援助など、ぜひ確認してください。

学部・学科(School・Department)にどのような教授がいるのかを調べるには、
Academics のリンクから、興味のある学部・学科のウェブサイトに行きます。
どこの学科やプログラムにも、教授とその研究分野の紹介があります。学科の
ページから、教授陣(Faculty)紹介あるいは教授陣のリスト(Faculty Dire-
ctory)というリンクを探してみると良いでしょう。

教授陣のページを見ると、教授の連絡先(Eメール、電話番号など)、研究分
野、これまでに発表した論文のリスト、教授によっては大学院生の一覧などの
情報もあります。連絡先は、興味のある教授にコンタクトを取る上で必要です。

闇雲に大学のウェブサイトを調べても、非常に時間が掛かって効率的ではあり
ません。そこで、自分の興味のある分野のプログラムを調べるのに役立つのは、
U.S. News の Best Graduate Schools:
http://grad-schools.usnews.rankingsandreviews.com/best-graduate-schools
などのウェブサイトです。本も出版されていますが、14.99ドル(2009年11月
現在)支払えば、オンラインのプレミアバージョンに約1年間アクセスするこ
とができます。この U.S. News のウェブサイトには、医学、工学、教育学、
ビジネス、法学の分野においては、ランキング以外にも、
・大学のURL、入試担当者のEメールアドレス、電話番号
・大学のその専門分野における研究費
・出願に掛かる費用
・去年の大学院生/教授の比率 
・授業料
・昨年時点での大学院生の数、修了者の数
・修士課程と Ph.D. 課程の割合
など、出願校を決める上で参考となる、重要な情報が満載です。 

インターネットを利用した情報収集では、U.S. News などのウェブサイトや雑
誌を利用して、自分の興味のある分野で評価されている大学をリストアップし
てみてください。そして、それらの大学のウェブサイトをチェックし、学科、
プログラム、そして良い研究をしている研究者を検索し、Eメールなどを通じ
てコンタクトを試みれば、効果的に出願先の選定、出願先とのネットワークを
作るきっかけができるのではないでしょうか。

また、U.S. News 以外のの有用な情報源としては
・日米教育委員会(http://www.fulbright.jp/)
・カガクシャ・ネット(http://kagakusha.net/)
などが挙げられます。特にカガクシャ・ネットでは、海外(特にアメリカ)の
理系大学院に留学中の大学院生や、既に卒業してアカデミアや企業で活躍して
いる人たちが多数参加しています。もしかしたら、あなたの入学希望先の大学
院に在籍中、あるいは卒業した人とネットワークを築ける可能性があります。
これらの有用な情報源を利用しない手はありません。


2.コネクションを使った情報収集

コネクションやネットワークを使って大学に入ると聞くと、日本では裏口入学
のような少々暗いイメージがありますが、アメリカでは知っている人の紹介は、
優秀な学生や人材を失敗を少なく獲得する有効な手段と考えられており、特に
大学院の入試では以下のような推薦が重要視されます。
・出願先の教授が推薦してくれる(=推薦状を書いてくれる)場合
・出願先の教授が興味を示してくれる場合(推薦状を書いてくれないまでも、
入学審査において推してくれる)
・出願先の教授の知人の研究者が推薦してくれる場合
・著名な研究者が推薦してくれる場合
これは、アメリカの大学院の入学審査が GRE などのテストのスコアだけでな
く、大学・大学院での成績に加え、エッセーや推薦状などを通じて、どんな研
究や経験を積んできたのか、大学院でどのような研究をやりたいかなど、出願
者の成功の可能性を総合的に評価するためです。

これまで触れてきたように、アメリカの大学院では、大学教授が自分の大学院
生の授業料・給料・健康保険を払うことが多いため、教授が大学院生を選ぶと
いうことは、自分の会社の従業員を雇うようなものです。そのため、出願先の
教授が推薦状を書いてくれ、合格審査でも強く推してくれる場合、非常に高い
確率で合格できます。出願先の教授に推薦してもらうのは簡単ではありません
が、教授がその出願者をどうしても合格させたい場合、そのような場合が起こ
りえます。

アメリカの教授や研究者とコネクションを築くための、有効な手段をいくつか
挙げてみましょう。
・Eメールなどでコンタクトを試みる。
・自分の所属する大学や他大学の知り合いの教授に、アメリカの大学教授を紹
介してもらう。
・国際会議や学会で質問やディスカッションをみる(前もって学会で会うこと
が可能か尋ねておくと良い)。この際、名刺やレジュメなどを準備しておくと
効果的。
・可能であれば、大学訪問をして直接会う。名刺、レジュメ、成績表などもあ
ると良い。

Eメールを利用することは、おそらく最も簡単な方法でしょう。ただし、アメ
リカの教授のところには、学内はもとより世界中からかなり頻繁に、「ぜひあ
なたの研究室に入りたい」「RAのポジションは空いているか?」といったEメー
ルが送られてきます。そのため、教授もすべてのEメールを一言一句読むわけ
ではありませんし、返事をしてくれないこともあるでしょう。最初からあまり
たくさん書きすぎると、読んでもらえない可能性もあるので、Eメールの件名
や文章中で興味を引きそうなキーワードを使ったり、自分のウェブサイトへの
リンクを張ったり、その教授の最新論文に関する質問などを織り交ぜながら、
少しずつ、大学院のことを質問したり、自分の紹介をしていくのが良いでしょ
う。繰り返しになりますが、返事がもらえなくてもあまり落胆しないで下さい。
逆に、送ったメールに返信をしてくれ、興味を示してくれた教授がいる大学を
中心に出願校を絞り込むのも、一つの方法です。特に Ph.D. 課程の場合、
5~6年間一緒に働くことになるので、将来の指導教官との相性は非常に大事
です。

自分の大学の教授、あるいは他大学の知り合いの教授から、アメリカの大学の
教授を紹介してもらう場合、コンタクトに成功する可能性が格段に上がります。
知人の研究者の学生を冷たくあしらうのは気が引けるでしょうし、知人の推薦
なら良い学生に違いない、と思われるためです。その場合、まず日本の教授か
ら、メールや電話で連絡を取ってもらうのが良いでしょう。それが難しい場合
でも、「○○教授のところで研究をしている学生です」「○○教授からあなた
のことを伺いました」と書くだけでも、かなりの違いが生まれるようです。自
分の大学の教授、あるいは他大学の教授に紹介・推薦してもらうためにも、普
段から積極的に話したり懇親会などに出席するなど、多くの研究者と知り合う
努力をしたり、学会で発表・質問できるように努めましょう。

国際会議や学会などを通じて、興味のある教授に実際に会ってみるのは、非常
に効果的と言えます。その際には、前もって論文や発表に対する質問を準備し
たり、レジュメやもしあれば論文も持参すると良いでしょう。大学教授は忙し
いので、あまり多くの時間は割いてもらえないかもしれませんが、良い印象を
与えることができれば、後々の関係にかなりのプラスとなります。英語に自信
がない場合でも、前もって質問したいことや自分のセールスポイントを考えて
おけば、ある程度は対応できるはずです。もちろん、準備が良くできていない
場合には、逆に悪い印象を残すこともありえるので、注意が必要です。

経済的に余裕があったり、国際会議などで近くへ行く場合には、出願希望の大
学を回ってみるのも良いでしょう。興味のある教授との都合が合えば、ぜひ会っ
てみることをお勧めします。事務担当者から出願情報を聞いたり、学科長や他
の教授の話などを聞くこともできるかもしれません。このときにも、やはりレ
ジュメや成績表、自分の興味のある研究などについての考えをまとめておく必
要があるでしょう。

このように、アメリカでは「知人の推薦」を始めとしたコネクションが重視さ
れます。そのため、強力なコネクションを作ることは、大学院選考においても、
就職活動を始めとしたその後の人生においても、非常に重要なことです。コネ
クションを築くには、英語でEメールを書いたり、日本の教授のコネクション
を借りたり、時間が掛かりエネルギーも要します。人との信頼関係は一朝一夕
には確立できませんので、普段からネットワークを広げるように努めることが
大切です。


今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=147


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記
───────────────────────────────────
冒頭でもお伝えしましたが、来たる12月13日(日)に、アメリカ理系大学院留学
セミナーと世界で活躍する理系人公開インタビューを開催します。イベントの
お知らせが直前となってしまいましたが、会場のスペースにはゆとりがあるよ
うなので、多くの方のご来場をお待ちしております。事前登録ウェブサイト:
http://kagakusha.net/event.htm
にて、若手留学経験者や公開インタビュー著名人に尋ねたい質問を、ぜひご記
入下さい。(山本)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
カガクシャ・ネット http://kagakusha.net/
(上記サイトで無料ユーザー登録後、バックナンバー閲覧可)
発行責任者: 杉井 重紀
編集責任者: 山本 智徳
メールマガジンの登録と解除: 
http://www.mag2.com/m/0000220966.html
ご連絡はこのメルマガに「返信」または以下のページから: 
http://kagakusha.net/Mailform/mail.html
友人・お知り合いへの転送は自由ですが、無断転載は禁じます。
転載ご希望の際は必ずご連絡ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

理系大学院留学セミナーおよび理系留学経験著名人公開インタビュー、12月13日開催!

posted Jan 30, 2012, 11:45 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:45 AM ]

研究の世界もグローバル化が進んでいる今、これからの科学者は視野を広めるために、研究留学することがますます必須となっていますが、大学院から留学するという選択肢が脚光をあびつつあります。特に、一流の研究者を育てるための教育・サービスが非常に充実している、アメリカの大学院は、世界中から優秀な学生を集めています。昨年も好評をいただいたこのセミナーを、今回はさらに規模を拡大し、実際に大学院留学を経験した若手組と著名人の両方が集結。主にアメリカの大学院について紹介し、みなさんの質問にお答えします。学内外の参加を歓迎します。準備の関係上、事前に下記に登録申し込みをお願いしております(当日も可ですが、できるだけ早い登録をおすすめします)。スピーカーへの質問もぜひ登録時にお知らせください。登録はこちら


【イベント・スピーカー】
● 若手留学経験者
山本智徳(ジョンズ・ホプキンス大博士課程在籍中、カガクシャ・ネット副代表)、斎藤広隆(ミシガン大博士課程修了、現東京農工大、カガクシャ・ネットエグゼクティブメンバー)、杉井重紀(ダートマス大博士課程修了、現ソーク研究所研究員、カガクシャ・ネット代表)、他数名を予定。

● 公開インタビュー著名人
北澤宏一博士(MIT博士課程修了、現科学技術振興機構理事長)、東原和成博士(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校博士課程修了、現東京大学農学生命科学研究科教授)


【日時】
2009年12月13日(日)午後1時30分~午後4時30分

午後1時30分~午後2時45分 第一部:留学経験者による講演、パネルディスカッション
午後2時45分~午後3時00分 休憩
午後3時00分~午後4時30分 第二部:留学経験著名人への公開インタビュー、質疑応答
午後5時以降 懇親会(参加任意:飲食実費がかかります)


【場所】
東京農工大学小金井キャンパス13号館3階L1331教室(中央線東小金井駅から徒歩約10分)
http://www.tuat.ac.jp/access/


【参加費】
無料(ただし懇親会は実費)


【登録フォーム】
http://kagakusha.net/event.htm


【イベント告知ポスター】
http://kagakusha.net/images/event09.pdf


【本セミナーに関する問合せ先】
東京農工大学地域生態システム学科 斎藤広隆
Email: hiroscc.tuat.ac.jp
( を@に書き換えてください)
Tel/Fax: 042-367-5584


【主催】
カガクシャ・ネット
http://kagakusha.net/


【後援】
東京農工大学国際センター
http://www.tuat.ac.jp/~icenter/

(株)アルク
http://www.alc.co.jp/index.html

科学技術社会論学会
http://jssts.org/

【海外サイエンス・実況中継】新低加速電子顕微鏡により明らかになる超~ナノの世界

posted Jan 30, 2012, 11:45 AM by Yunke Song   [ updated Jan 31, 2013, 12:42 PM ]

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
_/
_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ November 2009, Vol. 52, No. 1
_/ カガクシャ・ネット→ http://kagakusha.net/
_/
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


今回は、アリゾナ州立大で材料科学において Ph.D. を取得され、その後、ポ
スドクを経て米国企業にて活躍されている、Aさんに執筆してもらいました。
Aさんのこれまでのエッセイは、当ウェブサイトの過去ログからご覧下さい。
(閲覧には、無料のユーザー登録が必要です。)

■ミクロな世界で活躍している新技術 ~ナノテクノロジー
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=29
■大学院留学:給料がもらえる院生とフレキシブルな就職口
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=30

●Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには:企業編(前)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=93
●Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには:企業編(後)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=95

▲工学系の大学院事情
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=96

★アメリカ企業就職サバイバルのためのアドバイス(前)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=121
★アメリカ企業就職サバイバルのためのアドバイス(後)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=122


今回の論文紹介は、いま最もホットな研究トピックの一つである、カーボンナ
ノチューブ・カーボン系ナノ材料に関連する、電子顕微鏡の開発に関してです。
まず最初に、この論文が発表される背景となっている、電子顕微鏡の性能と限
界に対する歴史を簡単に紹介し、その後に、今回紹介されている論文を執筆さ
れた、末永博士グループの業績をまとめています。どうぞお楽しみ下さい!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最近発表された論文の簡単な紹介とその将来的な可能性など
新低加速電子顕微鏡により明らかになる超~ナノの世界
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ナノテクノロジー・ナノサイエンスとは、物質を作っている分子・原子レベル
の大きさの領域で起こる、特異な現象をうまく利用することで、飛躍的な技術
革新を起こそうとする、学際的な技術・研究領域です。この分野において、新
しく作製したナノサイズの材料や構造の特性を調べるのに、これまで非常に重
要な役割を果たしてきたツールの一つが、電子顕微鏡です。

「顕微鏡」という言葉を聞くと、多くの人は試料の拡大像を得る道具だ、と思
われるかもしれません。しかし、電子顕微鏡、特に透過型電子顕微鏡では、電
子の波としての性質から生じる回折という現象(電子回折法)を使って数ナノ
メートル(ナノメートルは、ミリメートルの1,000,000分の1)の微小領域の原
子配列の情報を得ることができます。さらには、顕微鏡内で加速された電子が
試料中の電子をはじき出すことに起こる電子のエネルギー変化、及びX線の発
生を利用し、試料の中に含まれる元素と、その含有量を特定できる(電子エネ
ルギー損失分光法およびエネルギー分散型X線分光法)だけではなく、その元
素が、試料中にどのように分布しているかを、イメージとして視覚化すること
も可能です。また、理論計算と実験を組み合わせると、試料の電子状態を調べ
ることもでき、ナノテクノロジー・ナノサイエンスのみならず、様々な研究分
野で利用されてきました。

電子顕微鏡の活躍の例を一つ挙げると、飯島澄夫博士は、この透過電子顕微鏡
技術を駆使して、新しいナノサイズの炭素材料の構造を明らかにし、カーボン
ナノチューブと命名されました[1]。

今回は、このカーボンナノチューブおよびカーボン系の材料研究分野がテーマ
です。世界的に活躍しておられる、末永博士の研究グループが、最近発表され
た論文についてご紹介させていただきます。末永グループは、この論文で、カー
ボン系ナノマテリアルを、原子レベルで解析するために必要な超高性能・高分
解能電子顕微鏡を見事に開発し、それを用いて行った画期的な研究について報
告されています。

----
論文タイトル: Visualizing and identifying single atoms using
electron energy-loss spectroscopy with low accelerating voltage

著者: Kazu Suenaga, Yuta Sato, Zheng Liu, Hiromichi Kataura,
Toshiya Okazaki, Koji Kimoto, Hidetaka Sawada, Takeo Sasaki,
Kazuya Omoto, Takeshi Tomita, Toshikatsu Kaneyama and Yukihito Kondo

文献: Nature Chemistry Online, 5 JULY Volume 1, Issue 5, p. 415-418
----


まず、この論文の背景となる部分を、少し説明したいと思います。

電子顕微鏡の分解能(どれくらい細かいものが見えるか)は、電子線のエネル
ギーの大きさとレンズの性能の両方で決まります。顕微鏡のレンズには、「収
差」と呼ばれる、ピンボケを引き起こす欠陥があり、既にレンズ技術の限界の
性能まで来ていました。そこで、分解能を上げるために、電子線のエネルギー
を上げる装置開発が行われ、一時期は100万ボルト以上の加速電圧を有する装
置も開発されました。

しかし、100万ボルト級の顕微鏡では、分解能は格段に良くなったものの、電
子エネルギーがあまりに大きいため(強い放射線を試料に当てている場合に相
当する)、試料がダメージを受けてしまうという問題が生じました。その一方、
電子線のエネルギーを上げる研究開発と平行して、ピンボケの原因を起こす「
収差」を補正する装置の開発が長年続けられてきましたが、ついに2000年前後
に、収差補正装置のついた顕微鏡の試作・商用化が行われ、分解能の飛躍的な
向上が達成可能となりました。

現在では、収差補正装置のついた10万~30万ボルト級の顕微鏡が、世界中の大
学・研究機関に設置されています(収差補正装置の付いてない顕微鏡も含める
と、10万~40万ボルトが世界の顕微鏡の主流です)。最新の30万ボルト級の装
置では、0.05ナノメートルの分解能を達成し、ナノサイエンス・材料科学の研
究に革新的な飛躍をもたらしました。

ところで、このようにナノマテリアルサイエンスにおいて、非常に重要な役割
を果たしている、この収差補正装置付きの電子顕微鏡ですが、現在のままの装
置では、ナノテクノロジー・サイエンスの主役ともいえる、カーボンナノチュー
ブの研究には向かないことが示されています。というのも、これまでの研究に
より、電子線のエネルギーが8万ボルトを越えると、観察中の試料が壊れてし
まい、正しい特性を調べることが難しいことが分かってきたのです。

カーボンナノチューブをはじめとしたナノマテリアルの正確な特性を、原子一
つ一つの高い分解能で調べるには、新しい低電子エネルギーの電子顕微鏡(専
門的には、低加速高分解能電子顕微鏡)の開発が必要とされました。そこで、
末永博士は、科学技術振興機構(JST)のCRESTからのサポートを得て、プロジェ
クトを立ち上げられました。
http://www.busshitu.jst.go.jp/kadai/year03/team03.html

末永チームの研究により、電子のエネルギーを8万ボルトより低い6万ボルトま
で下げることで、元素のマッピング(2次元的元素の分布をイメージ化する技
術)をする際に、試料のダメージを著しく軽減できることが明らかになりまし
た。ただし、6万ボルトまでエネルギーを下げると、これまで2000年前後に発
明された収差補正装置では、原子一つ一つを見る性能が著しく下がることも分
かりました。そこで、新たな概念をベースとし、より高性能な低加速用収差補
正装置(DELTA CORRECTOR)を見事に開発しました。この収差補正装置を使う
と、6万ボルト以下でも原子分解能を容易に得られるだけでなく、元素マッピ
ングを行うことも可能になります。

装置開発の詳細は、オンラインで発表された論文の補足資料に詳しく書いてあ
りますので、興味のある方はそちらをご参考ください。

この論文の中では、カーボンナノチューブの中に封入された、フラーレン分子
内に存在するカルシウム原子(原子番号20番)、ランタン原子(原子番号57
番)、セリウム原子(原子番号58番)、エルビウム原子(原子番号68番)を見
事に観察し、さらには電子エネルギー損失分光法を応用して、それぞれの原子
の種類を特定しています。特に、原子番号が一つしか違わないランタンとセシ
ウムを、原子一個という超高倍率で識別するのは非常に困難ですが、それを世
界に先駆けて達成されました。

より詳しい研究報告については、末永氏のホームページをご覧ください。
http://staff.aist.go.jp/suenaga-kazu/

数年前に発表されたプレスリリースもご参考ください。なお、装置の性能はこ
の当時よりも格段に上がっています。
http://tinyurl.com/yjda2r4


この装置開発と実験の結果から、これまで容易ではなかったカーボン系のナノ
マテリアル、あるいは軽い元素からなる有機・生物分子などを、原子レベルで
観察し、さらには元素の種類の識別、分布状態も試料にダメージを与えずに調
べられることが示されました。例えば、生物試料の中に存在する、カリウムや
カルシウム原子の位置を特定することもできるようになるため、ナノテクノロ
ジー・ナノマテリアルの更なる研究の発展のみならず、バイオテクノロジーや、
これまであまり電子顕微鏡が応用されていなかった有機系材料、あるいは有機
分子の観察・解析などナノテクノロジーの実用化において重要な研究が、この
装置により可能となります。

末永博士率いるチームはさらに次なる発展を考えておられ、今後のこのプロジェ
クトの行方に世界も注目しています!


●参考文献
[1] Sumio Iijima, Nature Vol. 354, 7, 56-58(1991)
2009年9月の時点で論文引用件数8754回


今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=145





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記
───────────────────────────────────
つい先日、ボストン美術館に“The Secrets of Tomb 10A”紀元前2000年のエ
ジプト展を家族で見に行きました。古代エジプトのミイラやお墓に関するミス
テリアスな神秘に触れることができ、とても楽しめました。またその展示で子
供達が展示物のスケッチをしたり、熱心に説明文を読んでいるのを見て嬉しく
なりました。子供の頃から、学ぶことを楽しむことは素晴らしいことだと思い
ます。(筆者)

これまで、いくつかの分野における、「最近発表された論文の簡単な紹介とそ
の将来的な可能性など」をお送りしてきましたが、次号からしばらくの間、第
3弾メルマガのもう一方のテーマである、「大学院留学を実現させるためのノ
ウハウ集」を配信予定です。ちょうど、2010年秋入学を目指す方々にとっては、
まさにこれからが出願の正念場だと思います。最初から順番に沿って配信して
いると、核心部分に到達するころには、出願シーズンが終わってしまうことも
懸念されるため、早めに取り扱って欲しい内容があれば、staff_AT_kagakusha.
net(_AT_を@に変換してください)まで、ご要望をどしどしとお送り下さい。
もしくは、メーリングリスト(http://groups.yahoo.co.jp/group/Kagakusha/)
に質問事項を投げかければ、多くの方々の意見が聞けると思います。(山本)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
カガクシャ・ネット http://kagakusha.net/
(上記サイトで無料ユーザー登録後、バックナンバー閲覧可)
発行責任者: 杉井 重紀
編集責任者: 山本 智徳
メールマガジンの登録と解除: 
http://www.mag2.com/m/0000220966.html
ご連絡はこのメルマガに「返信」または以下のページから: 
http://kagakusha.net/Mailform/mail.html
友人・お知り合いへの転送は自由ですが、無断転載は禁じます。
転載ご希望の際は必ずご連絡ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【海外サイエンス・実況中継】「がんの分子標的療法」の時代到来 ~肺がんを例に~(後)

posted Jan 30, 2012, 11:44 AM by Yunke Song   [ updated Jan 31, 2013, 12:45 PM ]

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
_/
_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ October 2009, Vol. 51, No. 1, Part 2
_/ カガクシャ・ネット→ http://kagakusha.net/
_/
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


前回に引き続き、ダートマス大で微生物学・免疫学において博士号を取得した
布施さんに、分子標的療法によるがん治療の最前線について紹介してもらいま
す。前回は、分子標的療法に辿り着くまでの時代的背景と、その治療に使われ
る2種類の標的抗がん薬品について、書いてもらいました。今回のエッセイで
は、肺がんを対象として、分子レベルの研究が治療に劇的な変化をもたらした
例、そして今後の肺がん治療の予測をご紹介します。どうぞお楽しみ下さい!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最近発表された論文の簡単な紹介とその将来的な可能性など
「がんの分子標的療法」の時代到来 ~肺がんを例に~(後)
布施 紳一郎
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

●肺がんを例に
喫煙に対する規制が進む中、米国における肺がんによる死亡率は、確実に減少
しつつあります。しかし、2009年現在でも、毎年22万人が肺がんの診断を受け、
16万人が肺がんで死亡しています[7]。5年生存率は1975年の13%から現在16%と
改善はほぼ見られず、末期患者においては5年生存率が3%を切っており、新規
治療が早急に必要とされています[8]。

肺がんは組織的観察から、主に小細胞肺癌(SCLC: Small cell lung cancer)
と非小細胞肺癌(NSCLC: Non-small cell lung cancer)に分類されます。NSC
LC はさらに腺癌(adenocarcinoma)、扁平上皮癌(squamous cell carcinoma)
と大細胞癌(large cell carcinoma)などの種類(サブタイプ)に分けられま
す。従来の治療は、SCLC と NSCLC の2種類のみに分けられ、NSCLC は1つの分
類として、タキサン・プラチナ併用化学療法が用いられてきました。しかしな
がら近年では、アバスチンが非扁平上皮癌のみに用いられるなど、NSCLC の治
療がさらに細かく分類され、サブタイプにより使用する抗がん剤の種類が異な
る傾向にあります。そして、近年の研究結果により、腺癌はゲノム変異の種類
によって、分子レベルで分類されることが明らかになってきました。以下では、
分子レベルの研究が治療に劇的な変化をもたらした例を、2つ紹介します。

1つ目の発表は、EGFR 阻害剤(アービタクス、ベクチビックス、イレッサなど)
が K-Ras 遺伝子を活性化する変異を持つ腫瘍には効果がない、という発見で
す[9]。K-Ras という遺伝子は EGFR の下流で働き、癌遺伝子として有名な分
子です。上流の変異を阻害剤で抑えても下流に異常があれば効果がない、とい
うのは科学的に考えれば当たり前だと思われるかもしれません。しかしながら、
臨床でこれほど生存率として結果が明白に表れたのは非常に有意義なことであ
ると言えます。従来、EGFR 変異や過剰発現を有する腫瘍に対しては阻害剤が
用いられてきましたが、期待されたほどの効果が示されてきませんでした。今
回の研究結果で、その原因が臨床試験において K-Ras 遺伝子の変異を有する
腫瘍をもつ患者が多数含まれていたことであることがわかりました。さらには、
他の下流遺伝子(B-Rafなど)に変異も EGFR 阻害剤の効果を打ち消すという
結果が発表されています[10]。この結果は昨年、がん分野で最も影響力のある
学会である ASCO で大きく取り上げられました[11]。最終結果が New England 
Journal of Medicine 紙に発表された直後に、米国の治療プロトコールにおい
て、EGFR 阻害剤の使用は K-Ras 遺伝子の変異を持たない腫瘍に限ることが推
薦されました[12]。学会発表から治療プロトコールを変えるまでわずか6ヶ月、
論文発表からはわずか1ヶ月程度と、肺がんの治療方法に多大なインパクトを
与えた研究成果と言えます。

2つ目の発表は、2007年に NSCLC において発見された新しいゲノム変異に関す
る報告で、この成果もわずか数年で臨床に導入されることが予測されます[13]。
発見された変異は、染色体の一部が反転することによって起きる逆位
(chromosomal inversion)と呼ばれるもので、その結果、EML4 と ALK 遺伝
子が融合し、ALK キナーゼの過剰活性化につながります[14]。この EML4-ALK 
遺伝子の発現は、NSCLC 患者の7~13%に診られます。さらにこの変異は腺癌に
限られ、且つ EGFR と K-Ras の変異を持たない腫瘍に限られることが報告さ
れています[15]。この変異を有するがん細胞は ALK 阻害剤に感受性を示すた
め、この変異を持つ患者集団にとっては有効な治療オプションとして期待が高
まります。


●肺がんの治療はどう変わるか
これらの結果を元に、Horn 氏と Pao 氏は、Journal of Clinical Oncology 
に掲載された論説において、肺がん(NSCLC)の治療はゲノム変異によって決
定される時代が到来しつつあると述べています[15]。彼らは近未来の NSCLC 
の治療プロトコールとして、以下のモデルを提唱しています。

(1) 肺がん(NSCLC)の診断を受けた患者においては、まず K-Ras の変異の有
無が検査されます。K-Ras の変異を有する腫瘍には EGFR 阻害剤は効かないこ
と、また EML4-ALK 変異を有する可能性が非常に低いことが知られています。
よってこの患者集団は K-Ras 阻害剤、または下流遺伝子(例:B-Raf)の阻害
剤による治療を受けることになります。

(2) K-Ras の変異が見られない腫瘍を持つ患者は、EGFR の変異の検査を受け
ます。この変異を有し、且つ K-Ras 変異が見られない腫瘍は、EGFR 阻害剤へ
の感受性が高いため、この患者集団は EGFR 阻害剤を中心とした治療を受けま
す。

(3) K-Ras, EGFR の変異が見られない腫瘍は、EML4-ALK 変異の有無を調べ、
変異を有する腫瘍は ALK 阻害剤による治療を受けます。

(4) 以上3つの変異が見られない腫瘍を持つ患者に関しては、さらに頻度の低
い変異(Akt, PI3Kなど)の検査を受け、その変異に適した治療を受けます。

このように、腫瘍のゲノム変異の組み合わせにより、治療を選ぶ時代が近い将
来実現する、と Horn 氏と Pao 氏は予測しています。

実際に、K-Ras と EGFR 変異を検出する試験は既に商業化されており、EGFR 
阻害剤は臨床で頻繁に使用されています。B-Raf 阻害剤は、現在肺がんとメラ
ノーマ(黒色腫)において、臨床試験第2相まで進んでいます[16]。さらには
この記事を執筆中に、EML4-ALK 変異を検出するための分子診断を開発してい
るアボット社(Abbott Laboratories)と、ALK 阻害剤を試験中のファイザー
社(Pfizer, Inc.)の提携が発表されました[17]。ALK 阻害剤は、臨床試験第
3相まで既に進んでおり、わずか数年後に、以上のモデルの1~3の過程を実現
化するためのツールが全て揃うことになります。K-Ras 変異に関する報告が、
わずか数ヶ月のスピードでプロトコールに導入されたことを考慮すると、以上
のモデルが数年後に実現化されることも可能であると言えるでしょう。

今回の記事では、肺がんの例を挙げて、がん治療の分子標的治療への移行を紹
介しました。がんの世界では、基礎研究が市場に届くまでの過程(Bench to 
Bedside)が非常にスピーディーであり、他の腫瘍タイプにおいても、今後同
様の傾向が見られることが予想されます。


●参考文献・用語解説
[7] ACSレポート。発生率、死亡率共に一位。
[8] 遠隔転移あり。ステージIVに相当。
[9] Karapetis CS et al. "K-ras mutations and benefit from cetuximab 
in advanced colorectal cancer." New Engl J Med. 359:1757, 2008.
[10] Di Nicolantonio F et al. "Wild-type BRAF is required for response 
to panitumumab or cetuximab in metastatic colorectal cancer." 
J Clin Oncol. 26:5705, 2008.
[11] 米国臨床腫瘍学会。American Society of Clinical Oncology の略。
[12] http://www.nccn.org/about/news/newsinfo.asp?NewsID=194
[13] Soda M et al. "Identification of the transforming EML4-ALK 
fusion gene in non-small-cell lung cancer." Nature. 448:561, 2007.
[14] EML4: Echinoderm microtubule-associated protein-like 4; ALK: 
Anaplastic lymphoma kinase
[15] Horn L and Pao W. "EML4-ALK: Honing In on a New Target in Non-
Small-Cell Lung Cancer." J Clin Oncol. Aug 10, 2009 [Epub ahead of 
print]
[16] B-Raf遺伝子の変異は肺がんの約5%、メラノーマの65%において
見られます。
[17] http://tinyurl.com/n7eloz


今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=144


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
自己紹介
───────────────────────────────────
布施 紳一郎

布施 紳一郎
慶応義塾大学理工学部、東京大学院医科学修士、米国ダートマス大学院博士課程修了
(2008年、免疫学)。大学院修了後、ボストンに拠点を置く早期ステージベンチャーキ
ャピタルであるPureTech Venturesのアソシエイトとして、Vedanta Biosciences、
Mandara Sciencesの起業に関わる。2012年よりヘルスケア戦略コンサルティングファーム
であるCampbell Allianceのシニアコンサルタントとして製薬・バイオテック企業の戦略
アドバイザリーを手がける。コンサルティング業に加え、起業家、VCアソシエイトを対象
としたNPOであるStartup Leadership Programの2012年ボストンフェロー、
現ヴァイス・プレジデントとして運営を手がける。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記
───────────────────────────────────
9月中旬に欧州最大の腫瘍学会である欧州臨床腫瘍学会(ESMO: European 
Society of Medical Oncology)年総会が開かれました。今年の学会で最も注
目を浴びた発表は、黒色腫(メラノーマ)におけるBRAF阻害剤の劇的な効果で
した。

2002年に黒色腫の60%がBRAF遺伝子に変異があることが発見されて以来、この
分野におけるBRAF阻害剤の効果が注目されていました(Davies et al. Nature, 
2002)。現在有効な治療が存在しない後期黒色腫にも分子標的療法の風が吹き
はじめています。(布施)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
カガクシャ・ネット http://kagakusha.net/
(上記サイトで無料ユーザー登録後、バックナンバー閲覧可)
発行責任者: 杉井 重紀
編集責任者: 山本 智徳
メールマガジンの登録と解除: 
http://www.mag2.com/m/0000220966.html
ご連絡はこのメルマガに「返信」または以下のページから: 
http://kagakusha.net/Mailform/mail.html
友人・お知り合いへの転送は自由ですが、無断転載は禁じます。
転載ご希望の際は必ずご連絡ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【海外サイエンス・実況中継】「がんの分子標的療法」の時代到来 ~肺がんを例に~(前)

posted Jan 30, 2012, 11:44 AM by Yunke Song   [ updated Jan 31, 2013, 12:45 PM ]

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
_/
_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ October 2009, Vol. 51, No. 1, Part 1
_/ カガクシャ・ネット→ http://kagakusha.net/
_/
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


今回は、ダートマス大で博士号を取得し、現在はボストンにあるヘルスケア専
門のコンサルティング会社で活躍している布施さんに、分子標的療法によるが
ん治療について、執筆してもらいました。なお、これまでに布施さんが執筆さ
れたエッセイは、下記リンクより読むことができます(無料のユーザー登録が
必要です)。

■「記憶」することができるのは「脳」だけではない ~ 免疫学
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=34
■学生自らが大学院プログラムの運営に関わる
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=35

●アメリカで「成功」する学生たちに共通するもの(前)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=97
●アメリカで「成功」する学生たちに共通するもの(後)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=98

▲アメリカにおける博士号取得後のキャリア・オプション(前)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=99
▲アメリカにおける博士号取得後のキャリア・オプション(後)
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=100


さて、今号のエッセイでは、分子標的療法に辿り着くまでの背景、そして、そ
の治療に使われる、標的抗がん薬について解説してもらいます。次号では肺が
んを例にとって、より専門的な話題が出てきますので、今回のエッセイで背景
の知識をよく理解しておきたいところです。それでは、どうぞお楽しみ下さい!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最近発表された論文の簡単な紹介とその将来的な可能性など
「がんの分子標的療法」の時代到来 ~肺がんを例に~(前)
布施 紳一郎
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

●「がんとの戦争」は「分子標的療法」の時代へ
ニクソン大統領が1971年に「がんとの戦争」を宣言して38年。以来、米国立癌
研究所(NCI: National Cancer Institute)は約10兆円($100B)の資金をつ
ぎ込み、がん研究は飛躍的な進歩を遂げてきました[1]。逆に、死亡率や生存
率などの改善は、劇的と呼ぶには程遠く、「治療」という観点からは、投資に
見合った結果を出せているとは、現時点では言い難いのが現実です。 

とはいえ、前立腺がんの5年生存率は、1975年の69%から現在は99%へと改善し、
末期(ステージIV)結腸直腸がんの生存率は、2001年の12ヶ月から21ヶ月以上
へ延びるなど、一部進歩も見られるのは事実です[2,3]。その背景には、主に
癌の早期発見技術の進展が挙げられますが、末期がん患者の生存率の改善とい
う点においては、主に標的抗がん薬の導入が大きな役割を担っています。

がん研究の進展により、発がん及び進行の機構が明らかになりつつあり、がん
治療は従来の化学療法に代わり、「分子標的療法」の時代に入り始めました。
慢性骨髄性白血病におけるグリベック、B細胞慢性リンパ性白血病におけるリ
ツキサンなどの標的薬の成功を受けて、近年では腎臓癌に使用されるスーテン
ト、トリセル、アフィニトル、大腸がんなど多種の腫瘍に使われるアバスチン、
アービタクスなど、特定の分子を標的とする抗がん薬が、米国の FDA[4]によ
り多数承認されています。

●標的抗がん薬とは
標的抗がん薬と、従来の化学療法に用いられる抗がん剤とでは、何が違うので
しょうか?従来の抗がん剤は、主に細胞の増殖を抑制するものが主で、微小管
重合を阻害するタキサン系抗がん剤や、DNA の複製を阻害するプラチナ製剤な
どがその例です。増殖している細胞は非特異的に阻害されるため、がん細胞だ
けでなく、白血球なども影響を受け、副作用を引き起こします。それに対し標
的抗がん薬は、がん細胞において変異しているまたは過剰発現されていてかつ
細胞の増殖や生存に重要な分子を、特異的に抑制します。よって、理論的には、
より効果的で副作用の少ない抗がん医薬を作製することができます。

標的抗がん薬には、主に二種類の薬品があります。一つは人の免疫機能である
抗体を元とする、モノクローナル抗体技術を用いたものです。がんにおける血
管新生(angiogenesis)にとって重要である VEGF 分子を標的とするアバスチ
ン、B細胞性の白血病細胞の表面に発現されている CD20 分子を標的とするリ
ツキサン、乳がん細胞の表面に過剰発現されている Her2 分子を標的とするハー
セプチンなどがその例です。モノクローナル抗体は、バイオテクノロジー技術
を用いて作られる薬品であり、一般ではバイオロジックス(biologics)と呼
ばれる分類に属します。

二種類目の標的抗がん薬は、小分子阻害剤(small molecule inhibitor)と呼
ばれ、化学的に合成されます。細胞内にある酵素(主にリン酸化酵素であるキ
ナーゼ)を阻害するものが主であり、染色体の転座によって過剰発現される A
BL キナーゼの阻害剤であるグリベック[5]、VEGF 受容体を阻害するスーテン
トやネクサバール、EGF 受容体(EGFR)を阻害するタルセバ[6]などが、この
種類の薬品にあたります。モノクローナル抗体は、細胞やバクテリアを用いて
生産するタンパク質であるため、製造工程が小分子阻害剤に比べ複雑です。ま
たモノクローナル抗体が主に静脈注射によって投与されるのに比べ、小分子阻
害剤は経口薬であるのが特徴です。

このように、ガンの分子レベルにおける理解が深まり、標的抗がん薬の使用が
増えることに伴い、がんの診断や分類、治療プロトコールなども変りつつあり
ます。乳がんや白血病などの例は有名ですが、次回では肺がんの例を紹介しま
す。

●参考文献・用語解説
[1] Kolota G, "Forty Years' War: Grant System Leads Cancer Researchers
to Play It Safe," New York Times, 2009年6月27日記載
[2] 米国立癌研究所SEER9 データベース、及び米国癌協会 (ACS: American 
Cancer Society) レポート
[3] Schrag D, "Price Tag of Progress - Chemotherapy for Colorectal 
Cancer," New Engl J Med. 351:317, 2004.
[4] Food and Drug Administration の略称で、アメリカ食品医薬品局。日本
で言う厚生労働省に当たる省に属する一機関。
[5] 染色体の一部が入れ替わる異常。英語では、Chromosomal translocation.
[6] 上皮成長因子。Epidermal Growth Factor の略。


今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。
http://kagakusha.net/modules/weblog/details.php?blog_id=143


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
自己紹介
───────────────────────────────────
布施 紳一郎

布施 紳一郎
慶応義塾大学理工学部、東京大学院医科学修士、米国ダートマス大学院博士課程修了
(2008年、免疫学)。大学院修了後、ボストンに拠点を置く早期ステージベンチャーキ
ャピタルであるPureTech Venturesのアソシエイトとして、Vedanta Biosciences、
Mandara Sciencesの起業に関わる。2012年よりヘルスケア戦略コンサルティングファーム
であるCampbell Allianceのシニアコンサルタントとして製薬・バイオテック企業の戦略
アドバイザリーを手がける。コンサルティング業に加え、起業家、VCアソシエイトを対象
としたNPOであるStartup Leadership Programの2012年ボストンフェロー、
現ヴァイス・プレジデントとして運営を手がける。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記
───────────────────────────────────
ちょうど本稿を書き終わった一ヵ月後に、グリベックの開発に関わった3人
(ドラッカー氏、リンデン氏、ソイヤー氏)が米国版ノーベル賞であるラスカー
賞を受賞しました。分子標的療法の導入ががん治療においていかに革命的であっ
たかを象徴していると思います。

米国では、本記事で述べたトレンドは肺がんに限らず多数のがん種において顕
著に見られ、ここ数年では確実に加速していくと思われます。米国は基礎研究
が患者に届くまでの過程(Bench to Bedside)が非常にダイナミック且つスピー
ディーで、今後も皆様にその様子を伝えられたらと思います。コメント、批評
などはいつでも歓迎致します。(布施)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
カガクシャ・ネット http://kagakusha.net/
(上記サイトで無料ユーザー登録後、バックナンバー閲覧可)
発行責任者: 杉井 重紀
編集責任者: 山本 智徳
メールマガジンの登録と解除: 
http://www.mag2.com/m/0000220966.html
ご連絡はこのメルマガに「返信」または以下のページから: 
http://kagakusha.net/Mailform/mail.html
友人・お知り合いへの転送は自由ですが、無断転載は禁じます。
転載ご希望の際は必ずご連絡ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1-10 of 31