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【研究者向け】第3回:科学英語に関して:科学英語の科学 by 今村文昭

posted Jan 30, 2012, 11:16 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:16 AM ]
今回紹介する論文は、科学英語のプロが書いたものです。日本人だけではなく一般の科学論文における問題を紹介し、改善する考え方を提案したものです。

George D. Gopen and Judith A. Swan,
Science of Scientific Writing,
American Scientisit, 1990;78(6) 550-558
http://www.americanscientist.org/template/AssetDetail/assetid/23947/page/1
http://www.amstat.org/publications/jcgs/sci.pdf
(amstat: American Statistical Association.
再掲載されたものです。)

 論文のタイトル通り、科学的に科学英語に関して論じています。ここでいう科学とは、言語学と認知心理学と言えるかと思います。読み手がどのように読み進んでいくか(Readers' Expectation)という心理に着目し、それを意識して英文を書いていく術を論じています。サブタイトルにある言葉の通り、「読み手が書き手の述べたいことを理解するのであれば、書き手も読み手が必要としていることを理解しなくてはならない」ということが基になっています。

読み手が何を期待しているかという、読み進み方を明確にしている点は、一般の科学論文の書き方としてアドバイスされる「簡潔に、解り易く、明確に・・・」といったようなものとは一線を画していると言えるでしょう。この論文では、具体例として実際にPublishされた論文の解り難い文章を非常に解り易い文章に改善させています。

この論文は、一貫して読み手の期待を重要視しているのですが、論文の内容としては以下の特徴が挙げられます。

1.論文の構成、英単語の用法に関する記述は無く、文章についてのみを論じている。
 このDr. Gopenらの論文では、読者の期待に基づいて、文章1つの造りとその文章と前後の文章との繋がりを重要視しています。前回のコラムで紹介したDr. Leggettの論文は、英語の用法と論理校正の流れを重視していましたので、Dr. Leggettの論文には欠如した点をDr. Gopenは書いていると言って良いでしょう。2つの論文の共通点としては、両者ともに、1つのパラグラフでは1つの軸(テーマ・トピック)が必要であるという事が挙げられます。D. Gopenらはそれについては、パラグラフを成すということは、その中で1つのテーマが存在するよう読み手が期待するのだから、書き手もその意識を持つことが重要だと述べています。

2.論文の校正をしている。
 Dr. Gopenらの論文の流れは、読み難い実在の例を挙げ、その問題の在り処を整理し、そして改善を加えていくというものです。この論文では、具体例を基になぜ読み難いのかを、読み手の期待を軸に明らかにしています。そして、その問題点に着目して、その元の文章を改善し、文章が読み易くなる過程を実演しています。さらにその過程で、論理的な流れの問題や乱雑さを浮き彫りにしつつ、筆記の際の要点を紹介しています。実際にPublishされた論文の文章が、適格な視点で校正されていると考えて良いでしょう。

 皆さまの中には、英文の校正を英語を母国語とする人に依頼し訂正してもらった際、なぜ訂正されたのか不明瞭だったことはありませんか?科学に関する文章を読んで難解だと感じた際、あるいは読み難い文章を書いた際に、その問題の在り処を特定することは容易なことではないように思います。その難点について、メジャーなケースを、この論文は言語学者の視点で述べていると言えます。またそうした問題の特定を暴いて改めることで、それまで埋もれていた問題が浮き彫りになる様子が分かります。

3.読み難い文章の原因究明
Dr. Gopenらは、難解な文章というのは専門用語の難しさに原因が帰属されがちであること述べ、それを否定しています。確かに、科学の論文というと、読み難いと感じたとき、それが専門用語や科学性の難しさが原因だと判断しがちかもしれません。しかし、Dr. Gopenらはその因果関係を否定し、筆者の文章構成の問題が主な原因であるとしています。そして、科学的な重要性や深い理解を求める論理性を損なわずに読み易くできる事を強調し、実際に例で示しています。

Dr Gopenらは、論文の読み手の心理を基にストーリーを作るように論じています。最初の例は文章ではありませんが、分かり易いので、改変して以下に挙げてみました。次の2つのTable 1とTable 2を見比べてみてください。どちらが見易いですか?

Table 1.
天気          都市
_______________
雲          大阪
雲          ニューヨーク
雪          東京
雨          ボストン

Table 2.
都市         天気
______________
ボストン        雨
東京          雪
ニューヨーク     雲
大阪          雲


 多くの方が、内容からTable 2の方が見易いと判断されるかと思います。なぜなら、私たちは天気というと、都市⇒天気という情報を流れを認識し、さらに、テーブルでは左から右に情報の流れを汲み取るからです。

 同じ事が文章についても言えます。私たちは左から右に読み、古い情報を基盤に、新しい情報を処理・読解・解釈するので、その読み進み方を考えると、文章の流れは古い情報 ⇒ 新しい情報と書かなくてはいけません。従って、1つの文章は古い情報と新しい情報が混在することとなるのですが、古い情報を前に、新しい情報を後に配置すべきと考えることができます。また1つの文で紹介された新しい情報は、次の文に引き継がれ、古い情報として新たな情報を導く役割を果たします。簡単に述べましたが、1つの文の中で、理解し易いように情報の流れを組み、さらに次の文でもその流れを絶やさないように文を造るのです。Dr. Gopenらは文の情報の起点をTopic Positionと名づけ、そこに古い情報を置くように薦めています。

具体例をピックアップしてみましょう。異なる例文に
「XXX研究によるとAはBであった。」
「YYYという観測によるとAはBであった」
という似た意味の英文が2つ挙げられています。

1.   A was B by XXX studies.
2.   From YYY measurements, A was B.

似た構造ですが、前置句の位置が違いますね。
ここでは2について述べます。

この前の文章には、「測定することができる」という表現があり「測定できる」という事実に重きが置かれています。その「測定できる」という情報を引き継いで、From YYY measurementsから文章が始まっているのです。言い方を変えると、ここでは、「測定する」という内容が古い情報で、「AはBであった」ということが新しい情報であり、古い情報から新しい情報へという流れの通りに情報が配置されているのです。見方を変えると、読み手は、前の文の「測定できる」という情報から、無意識に「測定できる」という事に由来する情報の流れに期待を寄せます。その期待に沿った形で、文が成り立っているのです。つまり1つの文章の構成は前の文章からどういった情報を引き継ぎ、どういった情報を導くかによるのです。

この論文の最後には7つの要点がリストされています。
それぞれの要点には、読み手がどういった期待を読む際に持っているのかということが背景にあります。その「読み手の期待」の内容を引用してそれぞれを以下に解説します。

1.読み手は、動詞の意味とその主語との関係を基準にして文章を理解する。従って、主語と動詞がかけ離れる(Subject-Verb Separation)ことのないように。

2.読み手は、1つ1つの文章で新しい情報を得るために文を読むため、文の終盤に強調する内容があった方が読み応えがある(そして1つ1つ文で間を取る(Mental Breath))。従って、文の最後(Stress Position)に新しい情報を配置すること。

3.読み手は、誰(何)がどうなるのかを期待して読む。従って、その文章のトピックを定める位置(Topic Position)、すなわち文の前方に、明確な主語を配置すること。

4.読み手は、古い情報から新しい情報を理解へと読み進む。従って、古い情報が、前文からの流れを引き継ぎ、Topicを定め、さらに新しい情報を導くように配置すること。

5.読み手は、仮説がいかに証明されるか、あらゆる情報がプレーヤーとしてその過程でどうアクションを起こすかを期待して読み進む。従って、各文章や節で動作を明確にすること(Locating the Action)。

6.読み手は、自身で解釈をしつつ読み進む。従って、その解釈の筋道を書き手が担うように、内容を明確にすること。読み手に推測させるようではいけない。

7.読み手は、文章の構造により強調されている箇所を読み取る。従って、読み手が文章の構造に導かれて強調されていると感じる部分に、書き手として強調したい内容を、配置させること。

繰り返しになりますが、この7つの要点を明確にするように、具体例が挙げられています。実際にPublishされた論文が改善されていく様子をぜひご覧になってみてください。
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