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【海外サイエンス・実況中継】Ph.D. コース終了、それから(後)

posted Jan 30, 2012, 11:22 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:22 AM ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ May 2008, Vol. 33, No. 1, Part 2
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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今週は、前回に引き続き、博士号取得後のキャリアを成功させるためのエッセ
イを、杉尾さんに紹介してもらいます。前号では、杉尾さんが大学院生時代の、
カンザスで出会った友人の話でしたが、今回は、現在ポスドクをなさっている
イギリスでの友人の話です。日本・アメリカ・ヨーロッパと回られているので、
それぞれの長所・短所がわかって興味深いです。

[メーリングリスト登録を希望されていた方へのお詫び]
2008年5月25日
ここ1年くらい、メールサーバーの不備のために、フォームを送信しても管理
者に全く届かないという、不手際がありました。急遽、問題を修正いたしまし
た。過去に、メーリングリスト参加希望のフォームを送信したのに、レスポン
スがないという方がいましたら、大変お手数ですが、もう一度下記フォームで
送信していただければ幸いです。改めて、お詫びとともに、メーリングリスト
の登録をさせて頂きます。
http://kagakusha.net/postmail/postmail.html
何か質問・問題があれば、webmaster-at-kagakusha.net までご連絡下さい。
このたびは申し訳ありませんでした。


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Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには
~成功したサイエンティストたちを見て学んだこと
『Ph.D. コース終了、それから』 杉尾 明子
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■ 何よりも家族が大切?イギリスで出会った友人の場合
イギリスの場合、Ph.D. コースをサポートするお金はきっちり決められており、
応募時に成績の良かった学生なら4年間、それ以外の学生は3年間で卒業しな
ければなりません。また、Ph.D. コースをはじめる前にマスターコースを終了
することは要求されないので、とても早く(イギリス人の場合25歳くらい) 
Ph.D. のタイトルを獲得できます。そのため、Ph.D. を取得してから、「私は
本当に研究が好きなのだろうか」という迷いを持つ人も見受けられます。もち
ろん、若いということは、これからさらにいろいろなことにチャレンジできる
わけで、サイエンスに関連するジャーナリズムへの就職を考えたり、サイエン
スとはまったく関係のない就職を考えたりする、心の余裕があるようにも思え
ます。

アカデミアに残ることを決心しても、Ph.D. 取得後すぐにポスドク職を見つけ
るのは難しく、宙ぶらりんの無職期間を経験する人は少なくありません。いろ
いろなフェローシップやポスドクの募集広告を探し、応募することになります
が、結果が出るまでにかなり時間がかかるため、3ヶ月ほど旅行に出て、「自
分探し」や「リラックス」するケースが多いです。私の友人で努力家のドイツ
人カップルの場合は、フェローシップの応募時からイギリスに来て、結果が出
るまでのしばらくの間、無給に近い状態で研究をしていました。運良く二人と
もフェローシップを得て、今はポスドクとして研究を続けています。

Ph.D. の学生同様、ポスドクの場合も、きっちり2~3年間と期間が決まって
いるため、ポスドクを続けながら生活をしていくのには、期限というプレッ
シャーがつきまといます。PI になることを目標とする人は、ポスドクをしな
がら職探しをすることになりますが、イギリスではアメリカとは違い、研究に
専念できる PI の職はとても少ないのです。大学に講師として就職する場合は、
多くの講義をこなす必要があり、研究をする時間もお金も無いということにな
りかねません。私の勤める研究所で PI になるためには、PI 職の公募があっ
たときに応募するか、若い研究者をサポートする奨学金を得て、研究所に一部
屋ラボを開かせてもらえるように交渉することになります。どちらの場合も競
争が厳しく、インパクトの高い雑誌に複数の論文を発表したという功績が無け
れば、イギリスで PI 職を勝ち取るのは非常に難しいようです。

中には学生時代から Nature や Science に論文を発表し、若くしてイギリス
で PI 職を勝ち取った人たちもいます。彼らはもちろん頭もいいし、努力家で
もあるのですが、発表論文のリストに関しては、運がよかった、と思える部分
が多いです。そのとき、最もホットな分野の研究を選ぶことは能力の一つかも
しれませんが、所属するラボで細々と続けてきた研究が、他分野の研究に引っ
張られて脚光を浴びることもあるからです。また、所属するラボがインパクト
のある論文を発表した場合(一番最初に論文を発表する人は、かなりの努力を
強いられますが)、二報目、三報目は比較的容易に発表できることがあります。
そんな絶好の機会に、よい研究テーマを与えられた人は、その後のキャリア形
成においても割合とスムーズに事が運んでいくように感じます。

外国人ポスドクや留学生の場合、母国に職を得て帰国していく人もいますが、
ヨーロッパ全体で PI 職が不足しているようです。また、国によっては、助手、
准教授、教授といった階段を少しずつ上ることが要求されるため、定職に就く
ことができても、自分の研究を好きなように進めることはできないのだそうで
す。

ポスドクを続けることには疲れたし、PI になる可能性もほとんど無いし、もっ
と家族と一緒にのんびり時間をすごしたい、といって数年間のポスドク後、研
究以外の仕事を探している友達が何人かいます。研究職を辞め、ビールの醸造
所をはじめる友人もいます。家庭に仕事とストレスを持ち込みたくない、家族
とのんびり過ごしたい、とリサーチアシスタント(RA)職につく人もいます。
イギリスの RA は、ラボの面倒を見ながら、PI から与えられた研究を進めた
り、ポスドクがやり残した仕事を引き継いで、論文発表に必要なデータを取っ
たりします。ポスドクのようにバリバリ研究を進める RA もいれば、9時から
5時までのんびりと「やらなければいけないことだけをやる」RA もいます。

Ph.D. 取得後、そしてポスドク経験後の行き先はいろいろですが、その進路選
択で一番大切なことは、自分が満足できているか、ということだと思います。
日本人の私たちは、高校生の時に将来何を学ぶか、ある程度の選択をしますが、
10年、20年経つと、感じることも、考えることも、自分の置かれた環境も、
大きく変わっているかもしれません。そのときに、いま自分が就いた仕事を続
けていくことが本当に幸せなのだろうか、と立ち止まって考えることが、その
後の「成功」のために大切だと思います。PI 職を獲得することをあきらめて、
ビール醸造所をはじめる友達を「負けた」と言う人がいますが、細々とポスド
クを続け、チャンスに恵まれることも無く、不満の多い生活を送るよりは、ずっ
と前向きな判断であると私は思います。PI として Nature や Science にたく
さんの論文を発表しても、私生活が孤独で寂しいものであったり、ラボの学生
やポスドクに恨まれるようなことをしていては、本当の「成功」とは言えない
のではないでしょうか。

■ 私の場合
私はイギリスに来るきっかけとなった2年間のポスドクを終えて、同じ研究所
で新たなポスドクをはじめました。Ph.D. を取得したばかりのころは、自分ひ
とりで研究室を持ち、運営することは無謀に思えましたが、今はなんとしても
自分の研究室を持ちたいを思っています。PI となる人の多くは、もちろん働
き者なのですが、負けず嫌いで、とにかく精神的に強い人が多いように思いま
す。ポスドクや学生の将来を背負いながら、研究助成金を勝ち取り、質の高い
研究を進めていくPI 職には、並ならぬ精神力が必要でしょう。私の精神力と
運がどこまで続くかわかりませんが、研究以上に好きなことがみつかるまでは、
今ある道を進みたいと思っています。

ヨーロッパの文化や環境や考え方は、私にとってはアメリカのそれより心地よ
いもので、できればヨーロッパで PI 職を得たいと思っています。とはいえ、
ヨーロッパで、しかも私とパートナーの二人分のポジションを得るのは至難の
業。最終的にはヨーロッパにはこだわらず、アメリカや日本も含めて手当たり
次第 PI 職に応募することになりそうです。


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自己紹介
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杉尾明子
東京工業大学生命理工学研究科修士課程卒、産業用酵素のメーカーで研究員と
して勤務後、2001年に渡米。2005年カンザス州立大学植物病理学部で Ph.D. 
取得。2006年から2年間マリーキュリーフェローシップを得てイギリス・ジョ
ンイネスセンターでポスドク、2008年から同研究所内の別グループで二度目の
ポスドクを始めたところ。


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編集後記
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最近、私の友人知人にいろいろなことが起こり、「成功って何だろう」と思う
ことが度々あって、こんなとりとめもない文章になりました。一人がサイエン
スで成功するのは簡単ではありませんが、カップルの二人とも成功するとなる
と、とてつもなく難しくなります。とは言え、二人とも PI としてがんばって
いるカップルも皆無ではないので、意思があれば道は開ける、と楽観的に考え
ることにしています。(杉尾)

5月22日に東京農工大学で行われた大学院留学セミナーは、おかげさまで多
くの方に参加して頂き、大盛況のもと終えることができました。今後も、この
ようなイベントを開催することで、我々の活動主旨をより多くの方に理解して
もらい、今後の大学院留学生のお手伝いをできれば、と考えています。(山本)


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