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【海外サイエンス・実況中継】奨学金が奨学金を呼ぶ

posted Jan 30, 2012, 11:22 AM by Yunke Song   [ updated Jan 30, 2012, 11:22 AM ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/ May 2008, Vol. 33, No. 2
_/ カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/
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留学本ではわからない海外大学院の実情を、引き続き杉尾さんに執筆してもら
いました。お題は、奨学金(scholarship)についてです。日本で奨学金とい
えば、貸与と賞与に分かれますが、前者は返済義務があるので借金であって、
アメリカでは loan と呼ばれます。日本で賞与の奨学金を得るのは非常に狭き
門ですが、アメリカには様々な種類の奨学金があります。アメリカの市民権・
永住権が必要なものが多いのも事実ですが、こういうシステムを一度知ってし
まうと、優秀であっても給料も奨学金ももらえない日本の大学院生は、とても
不憫に思えてしまいます。


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留学本では教えてくれない海外大学院のホント~実際の体験から
『奨学金が奨学金を呼ぶ』 
杉尾 明子
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私がアメリカ大学院留学を本気で考えるきっかけになったのは、スタイペンド 
(stipend) というお給料のようなものが出て、学費や生活費の心配をする必要
なく、学位が取得できると知ったことによります。

そのスタイペンドに加えて、私は思いがけなくたくさんの奨学金をもらうこと
ができました。まず、私が大学院に入学を決めるときに、成績のよい学生をリ
クルートするために設けられた奨学金を受け取ることができました。この奨学
金は、私が入学する前年までは、アメリカ人学生だけのための奨学金だったそ
うですが、学部のアメリカ人が、「それでは留学生に対して不公平だ」という
署名活動をしてくれたそうで、運良く私が留学生第一号の奨学生となりました。
この署名活動をしてくれたアメリカ人学生たちには、感謝してもし尽くせませ
ん。ちなみに、私がこの奨学金を得られたのは、履歴書に自慢げに書いた「日
本育英会奨学生」の効果ではないかと思います(育英会の奨学金はいまだに返
済中です)。

その後は、学会が開催される時に設けられるような旅費助成金とか、大学院生
の組合が設けた旅費助成金など、手当たり次第応募しました。カンザスで出会っ
た日本人の友人に、「奨学金は、一つもらうと次がもらえやすくなるのよ」と
きいて、金額が少ないものでも応募する気になりました。旅費の助成金は、学
会に参加費用にあてなければいけないので、自分のポケットには入りませんが、
ラボのお金を節約することにはなります。応募が簡単だし、応募さえすればも
らえることが多いので、履歴書の飾りを増やすために応募することをお勧めし
ます。もちろん、奨学金等々の応募には、エッセイや研究のまとめなどを書く
必要があります。奨学金がもらえればそれに越したことがありませんが、もら
えなくても、「書く練習になった」と思えば何も失うものはありません。応募
しなければ損です。

さらに、私は Ph.D. コース最後の年に、大学院で分子生物学を学ぶ大学院生
のための奨学金(15,000ドル)に応募し、その年の奨学生として選ばれました。
この奨学金に応募したのは、何しろ金額が大きかったことと、その時期に私の
ラボが財政難に陥ってしまい、スタイペンドが出るか出ないかわからない状態
になった、という切羽詰った理由がありました。最終的には、学部内でいろい
ろとやりくりをしてくれたようで、私はスタイペンドをもらいながら奨学金も
受け取り、無事卒業することができました。

Ph.D. コース最後の年に就職活動を始めた私は、Marie Curie Incoming Inter-
national Fellowship に応募しました。選考の時点では、私の初ファーストオー
サーとしての論文は投稿したばかりで、レビューも戻ってきていない状態でし
た。そのため、このフェローシップを得るのはとても難しく思えました。とこ
ろが、これまた運良く、私はこのフェローシップを得ることができました。選
考員のコメント欄には、「応募者はファーストオーサーとしての研究論文を発
表していないが、応募者がこれまでに受賞した数々の奨学金が、応募者の研究
者としての可能性を裏付ける」みたいなことが書いてあって笑ってしまいまし
た。

奨学金等々の選考委員は奨学金を「確か」な人に与えたいのではないかと思い
ます。その「確かさ」は、大学・大学院での成績などのほかに、それまでに得
たいろいろな賞や奨学金によって裏付けられるのでしょう。私は本当に平凡な
学生でしたが、履歴書をうまく飾り立て、運良くいろいろな奨学金を獲得でき
たのだと思っています。

最後に、私が授与した奨学金を設立した Dr.Tillman と Dr.Sarachek に感謝
の意を表したいと思います。特に Dr.Sarachek には直接会ってお話しをする
機会が与えられたので、とても光栄に感じ、さらに感謝の気持ちも深まりまし
た。彼は特にお金持ちではないそうですが、博士課程終了間際に、多くの学生
が将来とお金を心配をしなければいけないことを憂慮されて、奨学金を設立さ
れたそうです。アメリカには、個人によって設立された奨学金(もちろん、返
済の必要はありません)が実にたくさんあって、こういうところにアメリカ人
個人の懐の深さが見えるように思います。


今回のエッセイへのご意見は、こちらへどうぞ。
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自己紹介
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杉尾明子
東京工業大学生命理工学研究科修士課程卒、産業用酵素のメーカーで研究員と
して勤務後、2001年に渡米。2005年カンザス州立大学植物病理学部で Ph.D. 
取得。2006年から2年間マリーキュリーフェローシップを得てイギリス・ジョ
ンイネスセンターでポスドク、2008年から同研究所内の別グループで二度目の
ポスドクを始めたところ。


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編集後記
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お金の話ついでに…アメリカの医療費はとても高いので、健康保険への加入を
強くお勧めします。大学が用意してくれる保険に加入した場合は、身分が変わ
るとき(学生からポスドク等)に注意が必要です。私も一時期保険がないこと
がありましたが、アメリカ人の友人はそんな保険の切れ目に髄膜炎になってし
まい、大変な借金(5万ドル)を作ってしまいました。その点、イギリスでは
医療サービスがほとんど無料で受けられるので、大きな怪我や病気をしても金
銭的には安心していられます。産休育休も有給で6ヶ月、無給でならさらに延
長できるので、女性にも比較的優しい社会だと思います。(杉尾)


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