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【海外サイエンス・実況中継】 未だ存在する「環境ホルモン問題」? 環境毒性学

posted Jan 9, 2012, 9:26 AM by Yunke Song   [ updated Jan 9, 2012, 9:26 AM ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』 
_/  September 2007 Vol 19 No 1 
_/  カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/ 
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サイエンスの実況中継をお送りするのも、19回目となりました。今週は、
イリノイ大アーバナシャンペーン校の博士課程を修了し、現在UCデービス校
で研究している迎さんが、環境毒性学について紹介されます。迎さんがおっ
しゃるように、一時期、日本でも「環境ホルモン」という言葉が流行語になっ
て、この問題が大きくクローズアップされました。ところが、今となっては
マスコミなどに取り上げることはほとんどなくなっています。しかし、メディ
アに注目されなくなったというだけで、問題が解決されたわけでは全くあり
ませんし、まだまだこれからも、活発な研究がされなければいけないことが
伺えます。
(杉井)



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今日のエキスパートな質問(答えは下にあります)
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1. 俗に「環境ホルモン」と呼ばれる内分泌撹乱物質は、どのような物質
のことを言うのでしょう?

2. 環境ホルモンは非常に低い濃度でも悪作用をしめす。その理由は?

3. 最近、内分泌撹乱研究の焦点の一つとなっているのは、どのような
事柄でしょうか?



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未だ存在する「環境ホルモン問題」? 環境毒性学
                         迎 素子
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こんにちは。イリノイ大学アーバナシャンペーン校の迎素子です。

今回は、私の研究分野、環境毒性学(Environmental Toxicologyまたは
Ecotoxicology)の紹介です。この学問は毒性学の一種であり、環境中に
おいて、化学物質などによって引き起こされる、微生物や植物、そして人を
含む動物などへの影響を研究する学問です。これら毒性をしめす物質は、
さまざまな工業排泄物であったり、農薬、害虫駆除薬、医薬品などの人工
化学物質であったり、またはある特定の環境にもともと含まれる自然な化学
物質の場合もあります。


「環境ホルモン」と環境毒性学

私がサイエンスに足を踏み入れた1996年の頃、ちょうどTheo Colborn、
John Peterson Myers らによってOur Stolen Future(日本語訳「奪われ
し未来」)という本が出版され、日本のマスコミで取り上げられた「環境
ホルモン」という言葉は、多くの方が聞いたことはあると思います。それ
以前にも環境毒性学という学問はもちろんありましたが、この本が出版され
てから、日本を含め世界中の研究者が、環境中に微量に含まれる汚染物質が、
どのように動物および人間の生体を脅かしているのかということを、さらに
詳しく研究し始めました。今回は、この環境ホルモンに焦点をおいて、環境
毒性学の紹介をしたいと思います。

環境ホルモンは、正式な科学用語では内分泌撹乱物質(Endocrine Disrupting
Chemicals, EDCs) といい、生体の成長、生殖や行動重要なホルモンの作用を、
阻害または真似る性質を持っている化学物質のことです。通常、ホルモンは
体内に存在する特有のホルモン受容体(レセプター)に結合することによっ
て、作用をしめします。

例えば女性ホルモンのエストロジェンは、エストロジェンレセプター(ER)に
結合する事によって、特定の遺伝子を活性化させます。このホルモン受容体
を介した作用というのは、数十倍ものシグナルとなって体に影響を及ぼすの
で、従来に考えられていた細胞に直接ダメージを与えるという様な毒性作用
と比べると、より低用量でもみられます。

体内で作られるホルモンには、ほとんどの場合周期性があります。いつも
ある一定の量が作られるわけではなく、生理的な条件にあわせて、必要な時
だけ必要な分、分泌されるのです。しかし環境中に、エストロジェンに似た
構造をもつ化学物質が存在し、普通のエストロジェンよりも代謝されにくい
ため、長い間受容体に作用したり、通常はエストロジェンが少ししかない雄
や男性の体に作用したら、どうなるでしょうか。問題が起きるのは、容易に
予想できると思います。

実際の研究で幾つか例を挙げると、さまざまな議論はあるものの、フロリダ
アポプカ湖のアメリカワニの雄の雌化、日本貝類の雌の雄化、男性の精子
濃度が低下していることなどが、内分泌撹乱物質によるのではないかと、
予想されています。ある種の内分泌系の癌や病気の増加も、環境中に排出
される化学物質の濃度と比例しているという報告も多く見られます。

それならば、単にこれらの化学物質を作ったり排出しなければいいのでは
ないか、と思われるかもしれません。しかし、一部副産物として排出される
ものを除き、多くの化学物質が私たちの生活を豊かにしているということも、
念頭におかなければいけません。現代社会がコンピューターなしでは機能し
ないように、私達は化学物質なしでは生活できなくなっています。

どの化学物質をどれだけ使うか、どれだけ環境中に放出しても大丈夫なのか、
環境毒性学はその答えを導き出すための学問でもあります。製造禁止または
環境中濃度を規制するためには、まずこれらの病気や現象の原因因子および
因果関係を、ハッキリさせなければなりません。これには、非常に長い時間、
多大な労力と費用、それに入念な分析、資金を必要とします。

なぜなら、環境毒性学は常に変化し、さまざまな要因に囲まれている「環境」
というものを、念頭におかなければならない学問だからです。これが、環境
毒性学の大きな特徴です。


環境毒性学という学問の特徴

たとえば、実験室でおこなわれる研究は、人の手によってコントロールしや
すい。培養細胞を使っていたら、温度や湿度、CO2の%まで実験を繰り返す
たびに同じ条件を使うのが当たり前です。実験動物を使った実験でも、何十
世代も近親交配を繰り返して、遺伝子がほとんど同じマウスを使うことに
よって、個体差を最小限に抑えることができます。

しかし、実際の地球環境は天候や異常気象など、常に変化しています。動植
物も遺伝子の多様性から、大きさ、栄養状態も様々です。ある一定の実験室
の条件で、ある選ばれたマウス系を使ったときにXという化学物質の影響が
みられなくても、それが環境中のすべての生き物に影響がないとは言えま
せん。その逆も同じ事がいえます。マウスやラットの実験で影響があると
証明された物質でも、人にはそれほど影響は見られなかったという例もたく
さんあるのです。

それに、環境中に流出する化学物質は1種類だけではありません。ほとんど
の場合、幾つかの化学物質が混合して存在しています。最近、内分泌撹乱
研究の焦点の一つとなっているのは、このいくつかの化学物質が同時に加わ
ると、生体への影響に、相加または相乗効果をきたすのではないか、という
点です。

今までは、実験室で、化学物質Xのみを濃度A量にて動物に投与して影響が
見られない場合は、その濃度は安全とされ無毒性量と(NOAEL、No Observed 
Adverse Effect Level)とされました。環境中の濃度がこれと同じか低けれ
ば、安全とされる量です。しかし、本当にこれだけの簡単な実験で安全性を
決めてしまって大丈夫でしょうか。仮にXはAの2倍の濃度では生体に悪影響
を及ぼすとします。もし、Xと似たような影響を及ぼす物質が同時に同量環境
中に存在する場合、もはや安全とはいえません。

これを、防ぐためには類似作用を起す化学物質をまとめて、それぞれに毒性
作用の強さの係数(TEF, Toxic Equivalence Factor)をつけた上で、総量を
計算するという手法がありますが、今のところこれはダイオキシン類に限ら
れています。そのダイオキシン類でも、TEFの場合、ある一つの毒性作用のみ
を指標としていて、他にもいろいろあるダイオキシン類の作用は無視した形
となるので、これだけに頼ることも出来ません。さらなる研究が進むにつれ、
政府や行政機関と共同作業で、環境中に放出される物質の安全性をより的確
に評価する方法を編み出していくのも、環境毒性学者の大きな責任でもある
のです。


何でも屋の環境毒性学者

環境毒性学をやっていると、他の分野にも視野を広げないといけないことに
気づきます。その理由は、簡単です。ある化学物質が私たちや動物の体に
どのように害を及ぼすのかを知るためには、まず、その体が正常な状態に
おいてはどういう働きをしているのかを、生物学的に知る必要があるから
です。さらに環境中でどのように、化学物質が移動、蓄積、代謝されたり
するかを知る必要があります。だから、環境毒性学はある意味、何でも屋
ではなければなりません。

私も大学院在学中に環境毒性という一テーマを軸として、生殖生理学や内分
泌学、発生学、神経科学や生態学など、ありとあらゆる分野の勉強する機会
がありました。最初からそう狙ってこの分野に進んだわけではありませんが、
研究を行っていくに従って、必然的にそうなりました。今考えると、この
多様性に富む環境毒性学の特徴が、私の性格にはぴったりだったと思います
し、あらゆる分野の最先端のサイエンティストがいる大学で、コースワーク
や研究を通して学べたことは、とても幸運だったな、と思います。

アメリカの大学では、頻繁に学部を超えた授業やセミナーが開催され、環境
毒性学などの多様性に富む学問を勉強するには最適な場所といえるでしょう。
大学内だけでなく、他の大学や企業、政府機関からの講演者と話す機会も
豊富にあります。


環境毒性学のすすめ

「環境ホルモン」という言葉は日本のマスコミでは最近ほとんど聞かなくなっ
たそうですが、他の環境毒性分野を含め、これら内分泌撹乱物質の環境への
影響についての研究に対する、必要性がなくなったわけではありません。
まだまだ判らないことばかりですし、ひと時の流行で終わらせずに、更なる
研究が絶対に必要なのです。

アメリカやヨーロッパ諸国では近年にも増して研究に力が入れられています。
日本でも今まで行われてきた素晴らしい研究を続けていかなくてはならない
と思います。

おそらく、環境毒性学という学問は、人が新しい化学物質を作り続ける限り、
続く学問でしょう。

これを読んで、環境毒性学や環境ホルモン学に少しでも興味を持ってくれる
人がいれば幸いです。



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自己紹介 
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迎 素子
麻布大学獣医学科卒業後、渡米。イリノイ大学アーバナシャンペイ校にて
博士号取得。その後、米国某製薬会社の毒性学部門でのインターン経験を
経て、現在カリフォルニア大学デイヴィス校にてポスドク中。研究分野は、
鳥類の神経内分泌。

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今日のポイント(エキスパートな質問の答えです)
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1. 「環境ホルモン」すなわち内分泌撹乱物質とは、生体の成長、生殖や
行動などに重要なホルモンの作用を、阻害または真似る性質を持っている
化学物質のことを言う。


2. 体内で作られるホルモンは、特有のホルモン受容体(レセプター)に
結合することにより数十倍ものシグナルを発し、体に影響を及ぼす。環境
ホルモンは、このレセプターを介して毒性作用を示す為、低用量でも悪作用
を示しやすい。

3. 最近、内分泌撹乱研究の焦点の一つとなっているのは、環境中に混在
しているいくつかの化学物質が、同時に加わると、生体への影響に、相加
または相乗効果をきたすのではないか、という点である。



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編集後記 
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日本では、まさに「流行国」です。流行っている時は、誰もが知っている
けれども、その波が過ぎてしまえば、本当に聞きも見もしなくなります。
サイエンスにもたしかに流行はありますが、地道な研究が必要な分野にとっ
ては、時には困ったことにもなるわけです。日本の「環境ホルモン問題」は、
典型的な例といえるでしょう。



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