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【海外サイエンス・実況中継】 私たちを構成する細胞を形づけているのは油の成分? ~ 生物物理学

posted Jan 9, 2012, 9:24 AM by Yunke Song   [ updated Jan 9, 2012, 9:24 AM ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』 
_/  August 2007 Vol 16 No 1 
_/  カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/ 
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研究の最前線をお送りする第16回目。今週はカリフォルニア大学バークレー
校で博士号を取り、現在、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で研究さ
れている貝塚さんです。私たちを構成している一つ一つの細胞。その細胞を
覆っているのが細胞膜です。「細胞膜」というと何かしっかりした固体の物質
で囲まれているような想像をしてしまいますが、実は全くそうではないと
いう驚きの紹介をしてくれます。
(杉井)



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今日のエキスパートな質問(答えは下にあります)
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1.大雑把にいって、細胞膜はどのような特徴があるのでしょう?

2.細胞膜の基本構造はどのようなものでしょうか?

3.貝塚さんは、どの細胞を使って、細胞膜のどのような機能を、何を使っ
て見ているのでしょうか?



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私たちを構成する細胞を形づけているのは油の成分? ~ 生物物理学
                         貝塚 芳久
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私は日本で化学系の学部と大学院修士を終えた後、アメリカの大学院で化学
科の先生の下で生物物理の博士号を取り、今は細胞生物学の先生の研究室で
ポスドクとして研究を続けています。「化学、生物、物理」とあちらこちら
に飛んでいるように聞こえるかもしれませんが、実は逆でこれらの境界領域
で研究しています。具体的には、細胞膜に注目しており、細胞膜がどのよう
な物理法則に従って構成されて、動き、そして生命活動をコントロールして
るのか、そういったことを知りたいと思ってます。

現在ではそのような境界分野の研究が世界的にも盛んに行われています。
色々な大学のホームページを見てみますと、化学科、物理学科の研究室の中
でも、DNA、タンパク、細胞などという生物的な材料を研究対象とされてい
る先生が大勢おられることがわかります。「物理学」は、大まかには自然の
現象がどのような仕組みでおきているのかを考える手法、手段だと私は思う
のですが、その対象が生命であったとき、それが「生物物理」ということだ
と考えます。

「化学」は主に分子を基本単位と考えて、物質の構造、反応を考える学問
だと思っていいですが、物理的な解釈を導入すれば「物理化学」ですし、
生物に応用した場合は、これも大雑把な説明ですが、生体から分子を取り
出して分析する「生化学」となります。「生化学」とそこから発展してきた
「分子生物学」が近代生物学の主力となり生命に関して多くのことを明らか
にしてきましたが、私はそれに加えて、物理的、特にその中でも分子レベル
の理解に便利な物理化学的な手法を応用して、さらに生命を詳しく理解する
ような研究を目指したいと思っています。

生命は複雑です。物理、物理化学の手法が通じるのはとても単純なシステム
だけですので、生命を物理的に解釈していくのは実際不可能に近く、「生化
学」「分子生物学」が生物学で重要な手法となってきました。しかし私が
注目する細胞膜は複雑な構造ながらも、部分的には単純な手法が通じるかも
しれない、とても興味深いシステムだと思ってます、というのは、一つには
細胞膜は大雑把に「二次元の液体」と考えることができるからです。

二次元の液体とはどういうことでしょうか?

まず液体としてコップの水について考えて見ましょう。水には溶かせる物質
もあれば、混ぜても混ざり合わない油のような物質もあり、溶けきれず沈殿
する物質もあります。砂糖などは温度を上げればよく溶けるものの、温度を
下げると溶けきれず析出してきます。こう言ったことが液体の特徴ですが、
細胞膜でも、実はこれに近いことが起きてるのではないかと思っています。

細胞膜の特徴はもう一つ、二次元ということで、これはシャボン玉を思い浮
かべてもよいでしょう。やわらかい一枚の膜ですから曲げることもできれば、
ゆらゆら揺れることもあるかもしれません。けれどもその膜の中で面内の
方向に分子が液体として、緩やかにつながりながら自由に動いているのです。
そしてそういう二次元の膜の中で、上に書いたようなコップの水と同じこと
が起きてると思うのです。

細胞膜は水ではなく、主に脂質でできています。大まかに言って、脂質
(すなわち油のような流動性の小さい)液体の中に、細胞の様々な機能に
関係する数多くのタンパク質が溶けているという状態であることがわかって
きました。生物学の興味は、これらのタンパク質がどのように動いて、細胞
の機能をコントロールしているかということです。顕微鏡で見てみると、
これらのタンパク質が最初はバラバラに細胞膜の中に存在するのが、特定の
種類のものが集団化してはじめて、細胞が活性化されることが色々な細胞で
みつかりました。これは、物理的、化学的に考えると、膜という液体の中に
溶けていたタンパク質が、あるきっかけで集って沈殿してきた、あるいは
混ざり合わない二つの液体となった、というようなことかも知れません。

細胞の場合、例えばヒトの体温は37度ですから、温度は変わりませんが、
タンパク質の構造、種類が、例えば外からくる信号に応じて変わったりしま
す。液体の中の物質の種類が変わるわけですから、それに応じて沈殿が出て
くることがあっても。不思議ではないということです。

二次元のやわらかい膜という性質も、細胞の機能に役立っています。細胞、
そしてその中の小器官も色々な形をしてますし、またそこから分裂したり、
くっついて融合したりしますが、膜のやわらかさが変形に役立ちます。そし
てこのような場合にも、例えば曲げやすい分子、タンパク質が集ることで、
その部分の細胞膜が変形して、分裂や融合などにつながることがあっても
よいはずです。

二次元の流動性の小さい液体、というその構造が、実験的にも便利であると
いうことがもう一つの細胞膜の利点です。「生化学」、「分子生物学」の成果
によって、細胞膜は脂質やコレステロールによって作られる二重の膜で、
その中に数多くのタンパク質や糖が含まれてるという、基本構造を持つこと
がわかりました。それらのタンパク質を働かなくしてみたり、あるいは細胞
膜の中からタンパク質の結合体を抽出して分析することにより、細胞膜の
機能を明らかにしてきました。そのような結果が得られると、顕微鏡が強力
な方法となります。

顕微鏡は近年目覚しい進歩を遂げ、生きている細胞を細かいところまで見え
るようになってきました。生化学により明らかにされた細胞膜の分子が、
実際にどのように分布し、動き、働いているのか、観察します。この顕微鏡
観察に、細胞膜の構造がとても適しているのです。二次元ですから平らに
なれば見やすいですし、また流動性が小さいことから、分子の動きも集団化
するスピードも遅く、細胞内部の中で起きていることに比べてはるかに観察
しやすいのです。

私が目指す生物物理は、「細胞膜内の分子の動き、構造がどのような物理法則
に従っているのか」を理解したいということです。その際には顕微鏡の観察
が多くの情報をもたらすでしょう。そして、二次元の液体として細胞膜を
とらえる考え方も大いに役に立つものと思ってます。

現在は免疫細胞を用いて、この免疫細胞が標的の細胞と結合するときにその
結合部分の膜にできるタンパク質の集団について調べています。これらの
タンパク質は標的細胞と結合する前は、免疫細胞の膜の中で「溶けている」
状態なのですが、標的細胞との結合をきっかけとして集合体になる様子が
はっきりと顕微鏡で観察できます。その間、膜の形もかなり曲げられ変形
します。

さらに、この集合体は細胞膜だけではなく細胞の中の細胞骨格と呼ばれる
構造も利用して形成されることがわかってきました。まだまだわからない
ことだらけですが、多くの研究室と協力して、研究を進めているところです。
現在は顕微鏡を使った観察の段階までですが、ゆくゆくは物理的な理解も
なされるのではないかと期待しています。

ここでは細胞膜について述べましたが、他にも色々な生物のシステムが物理
的な理解を目指して研究されています。これら生物物理の研究は生化学、
分子生物学の成果を土台としているわけですが、生化学、分子生物学の発展
とともにますます盛んになって行くと思います。



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自己紹介 
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貝塚 芳久

1998年東京大学工学部卒、2000年同大学院修士課程修了、2005年カリフォル
ニア大学バークレー校PhD課程修了(生物物理)、同年よりカリフォルニア
大学サンフランシスコ校にてポスドク研究員として勤務中。



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今日のポイント(エキスパートな質問の答えです)
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1.細胞膜は「二次元の液体」と考えることができる。

2. 細胞膜は脂質やコレステロールによって作られる二重の膜からなり、
その中に数多くのタンパク質や糖が含まれるという、基本構造を持つ。

3.免疫細胞を用いて、その細胞が標的の細胞と結合するときに、その結合
部分の膜にできるタンパク質の集合体について、顕微鏡で観察している。



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編集後記 
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日本はかなり暑いようですが、アメリカも真夏を迎えています。夏といえば
レジャー。先週末、家族でキャンプに行ってきました。アメリカはいわずと
知れたアウトドア天国。その辺のスーパーに行ってもキャンプ用品のセール
をよく目にするし、専門店に行こうものなら、「-20?Cまで耐えられる」
寝袋なんかを勧められたりします。どこの地域でもキャンプができないとこ
ろはまずありません。

われわれがキャンプしたのは、サンディエゴから1時間ほど内陸にいった山
の中。 競争社会のアメリカに住んでいるとはいえ、たまにはこういう環境
に身を置くと心が洗われますし、なんかいいアイデアをひらめきそうな気が
します。今まで見たことがなかったくらい無数の星がよく見えて、北斗七星
以外は星座が分からなくなるくらいでした。流れ星もたくさん見ました。
後で知ったのですが、「ペルセウス座流星群」がちょうど来てたんですねえ..。
(杉井)



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