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【海外サイエンス・実況中継】 ミクロな世界で活躍している新技術 ~ ナノテクノロジー

posted Jan 9, 2012, 9:16 AM by Yunke Song   [ updated Jan 9, 2012, 9:16 AM ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』 
_/  May 2007 Vol 9 No 1 
_/  カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/ 
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研究の最前線をお伝えする第9回目。今回はアリゾナ州立大で博士号を取ら
れた青木さんが、いま全世界でホットな研究分野、ナノテクノロジーについ
て紹介されます。アメリカでも日本でも、ナノテクは国家をあげて重点を
置いている分野。なぜそれほど国がこぞって重要視するのか、この記事で
その理由を推測してください。



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今日のエキスパートな質問(答えは下にあります)
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1.現在のナノテクノロジーの研究を3つに分類すると、どのような研究に
分かれるでしょうか?

2.ナノストラクチャーの例として、典型的なものには何がある?

3.カーボンナノチューブのように、目では見えないナノスケールのものを
観察するのに活躍している道具とは?



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ミクロな世界で活躍している新技術~ ナノテクノロジー
                         青木 敏洋
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ナノテクノロジーあるいはナノテクという言葉を一度は聞いたことがあると
いう方は、結構おられるのではないでしょうか。ではいったいナノテクって
何?と尋ねられると、皆さんだったら何と答えられるでしょうか?

まず、ナノテクの「ナノ」という言葉を簡単に説明したいと思います。ナノ
の語源は、Greekの言葉「nanos」で「dwarf」、つまり小人という意味です。
また、現在はメートル、ミリメートルといった長さの単位の一つとして、
ナノメートルを意味するように使われ、1メートルと比べると、1ナノメー
トルはその10億分の1の長さに相当します。地球の直径を1メートルだと
仮定すると、ビー玉1個分が、ナノメートル位のサイズに相当します。地球
とビー玉の大きさの違いを考えれば、このナノという世界がどれほど小さい
世界なのか、お分かりいただけるかと思います。

そしてこの非常に小さいナノメートルという単位は、様々な物質を作って
いる分子・原子の大きさの領域であり、この極小の世界では、これまで予想
もしなかったような興味深い現象が起こることが分かってきました。そして
ナノテク・ナノテクノロジーとはつまり、この極微小の世界で起こる奇妙な
現象を上手く利用することで、飛躍的な技術革新を起こそうというものです。
そしてこのナノテクノロジーは、良く知られている半導体技術やナノ材料
分野に留まらず、バイオ・医療関係を含む分野で非常に学際的な研究が行わ
れています。

ところでここで私の独断と偏見で(?)現在のナノテク研究を3つに分類して
みたいと思います。

(1) まずはナノストラクチャー(ナノメートル規模の小さいもの)を作る。
(2) ナノストラクチャーの形状・性質を調べる。
(3) 作ったナノストラクチャーの応用研究をする。

まず(1)のナノストラクチャーを作る研究ですが、ナノストラクチャーに
も様々なものがあり、作り方も千差万別ですが、良く紹介される2つの方法、
トップダウン方式とボトムアップ方式を簡単に説明します。

トップダウン方式は、大きなものを削ったり溶かしたりして、どんどんと
小さくしていく方法です。これに対して、ボトムアップ方式は、大まかに
言うと原子・分子ひとつひとつをつかんで動かして積み重ね、自分の好きな
構造を作っていく方法です。トップダウンの典型は、半導体のチップを作る
技術(フォトリソグラフィー技術)やイオンビーム(集束イオンビーム:FIB)
による加工です。文字通り、大きなものをガリガリと削ってナノサイズの
ものを作ります。ボトムアップの典型はIBMのホームページで紹介されて
いる走査トンネル顕微鏡(STM)などを使う技術です。

http://www.almaden.ibm.com/vis/stm/atomo.html

IBMのホームページでは、キセノンの原子をSTMの先端についている針を
使って動かし、「IBM」や「原子」という文字を書いたものを紹介してい
ます。この方法ではかなり小さなものが作れますが、現在のままでは大量
生産には向きません。

ナノストラクチャーを作る研究において重要なのは同じものを大量に作る、
という点です。 大量生産できるが、作るたびにできたものが一つ一つ違う
のでは困ります。

ナノストラクチャーには様々なものがありますが、いくつか典型的なものを
紹介すると:

? ナノチューブ: 文字通り非常に小さい(ナノスケール)のストローの
ようなものですが、ストローのように先端が空いておらず、閉じている
構造です。カーボンだけでなく他の種類のナノチューブも近年発見され
ています。

? 量子ドット: 主に半導体材料を用いて100個?数千個ぐらいの原子
で作られた箱のような構造で、電子を狭い領域に閉じ込めることで、とても
効率の良いレーザーや量子コンピューターを作ることが、理論的に予想され
ています。この他にもナノワイヤやナノロッドと呼ばれるナノ構造の研究も
活発に行われています。

? 超格子構造: この構造は多重井戸型構造とも呼ばれますが、江崎玲於奈
先生が1969年にすでに提唱されていました。違う種類の材料を限りなく
薄くして(ナノレベルで)重ね合わせたもので、電子顕微鏡で拡大して観察
するとサンドイッチのように見えます。とても効率の良い半導体レーザーや
LEDを作れることが実証されています。

? ナノ粒子: ナノ粒子とは一般的に1?100ナノメートルくらいのサイズ
の粒子を指しますが、金属粒子、半導体粒子、様々なナノ粒子が現在作られ
ています。ナノ粒子はサイズによって性質が大きく変わるため、目的に応じ
た適切なサイズの粒子を作ることが重要となっています。

次に(2)ナノストラクチャーの形状・性質を調べる、という研究ですが、
作ったものの形状や特性により用途が全く変わってくるので、非常に重要と
考えられ、理論・実験の両方から様々な研究が行われています。例えば、
飯島澄夫博士によって発見されたカーボンナノチューブですが、ナノチュー
ブを作っている炭素原子の並び方から、理論的に鉄鋼の20倍の強さがあり、
炭素原子の並び方の違いによっては金属のようによく電気を通す性質になっ
たり、半導体のような性質になったり、全然電気を流さない性質になったり
することが予想されました。理論から予想される性質を、実際に実験によっ
て調べる必要がありますが、ものが小さいため簡単ではありません。

そこで活躍するのが、走査プローブ顕微鏡や電子顕微鏡です。これらの道具
を使ってやることで、目ではとても見えないナノスケールのものを見て形状
を調べたり、電気的な性質や強さを調べたりすることができます。飯島博士
は得意の電子顕微鏡・電子回折法と呼ばれる、物質中の原子の配列を調べる
のに適したテクニックを使い、カーボンナノチューブの中で炭素がどのよう
に配列しているかを調べました。

そして、ものを作って性質を調べると、当然、どのように使えるのか?と
いう疑問がわいてくるでしょう(3)。ナノストラクチャーは従来の物質と
は異なる性質を示しますので、その性質を実際どのように利用することが
できるか、を考える応用研究が非常に重要になってきます。

すでに何度かお話したカーボンナノチューブは大量生産する方法がある程度
確立され、理論・実験面からどういう性質を持つかがかなり分かってきたの
で、実用化への動きがとても活発です。例えば、前述のようにナノチューブ
は半導体にもなるので、カーボンナノチューブを使ったデバイスを作る研究
や、形状が小さいことから電界放射に適していると考えられ、高性能ディス
プレイに使おうとする研究、あるいは安全に水素を内部に貯蔵できること
から燃料電池などに応用する研究など、様々な試みがなされています。

これまで基本的な分類について話しましたが、ここで各分野におけるナノ
テク研究例を紹介したいと思います。

光エレクトロニクス分野での例として、多重量子井戸構造があります。この
ナノストラクチャーでは2種類の性質の異なる半導体を10?50ナノメー
トルごとに交互に積み重ねることで、エネルギー的な井戸を作り出し(量子
井戸と呼ばれる)、そこに電子とホール(電子とは反対にプラスの電荷を
もつキャリア)を閉じ込めて、“量子閉じ込め効果”という不思議な現象を
発現させます。
この現象を利用すると発光ダイオード(LED)やレーザー性能が著しく向上
します。中村修二氏はこの手法を用いて高性能の青色LED・レーザー開発
に成功されました。この多重量子井戸構造は、初期のナノテク研究の成果
ともいえます。

エレクトロニクス分野では先ほど紹介した量子ドット・ナノワイヤなどを
用いて、より低電力消費で高性能なデバイスを作ろうというナノエレクトロ
ニクス研究が盛んです。例えば、今の技術ではICチップのトランジスタを
動かすのに大量の電子を使う必要がありますが、そうすると大電力を使い、
熱も発生します。これをナノ構造を使って、電子一個で動かすことができれ
ばどうでしょうか。超小型・低電力・低発熱のデバイスを作ることができま
す。このようなトランジスタは単一電子トランジスタと呼ばれています。

また近年は電子が自転することで起こる特性を(スピンと呼ばれUpとDown
の2種類がある)利用しようという、スピントロニクス(=スピンエレクト
ロニクス)という研究も盛んで、スピンの向きを識別することで低電力、
高性能なデバイスを開発しようとしています。実は、スピンを利用した
デバイスの一部はすでに実用化されており、コンピューターのハードドラ
イブの高性能化に大いに役立っています(巨大磁気抵抗ヘッド)。思い出し
てみると、私が大学4年生で研究室に配属になった時(1997年当時)の
ハードドライブの大きさはたった2?3GBくらいでしたが、スピンを利用
するデバイスのおかげで、いまや数百GBのハードドライブは当たり前に
なってしまいました。今後はさらに、高度にスピンを利用したメモリや
トランジスタが開発され、コンピューターの技術が大きく変わるかもしれ
ません。

これらの用途以外にも、医療分野におけるナノテクノロジー研究もかなり
盛んにおこなわれています。ナノメディシンやバイオナノテクノロジーと
呼ばれる分野すら存在します。

一例として、ドラッグターゲッティング・ドラッグデリバリーと呼ばれる
研究を紹介したいと思います。普通、薬を服用すると、全身にほぼ均一に薬
が行き渡ります。こうなると薬の効果も落ちますし、有害な副作用が生じる
こともあります。例えば、抗癌剤などの場合は副作用が大きな問題になりま
す。ドラッグターゲッティングでは、サイズが4?400nmほどの「キャ
リア」と呼ばれる媒体を用いて患部のみに薬を運んでやります。課題として
は、ナノサイズのドラッグキャリアを作ることと(ナノサイズでなければ
上手く働かないことが分かってきた)、キャリアに患部の組織を認識させ
そこで薬を放出する機能を持たせることです。

以上、簡略にナノテクノロジーのことを紹介させていただきました。ナノ
テクノロジーは、世界中の様々な分野で活発な研究が行われており、目が
離せません。今後ナノテクによって私たちの生活が大きく変わるかもしれま
せん。このエッセーではナノテクの基礎的なことを紹介してきましたが、
紙面および私の乏しい知識のためかなりかぎられた内容となっていることを
ご了承ください。興味のある方はサーチエンジン等を利用して、リサーチを
してみてはいかがでしょうか。ナノテク関連のキーワードを、いくつか下に
書いておきます。

走査トンネル顕微鏡
原子間力顕微鏡
透過型電子顕微鏡
走査型電子顕微鏡
自己組織化
フラーレン
量子ドット
スピントロニクス
分子エレクトロニクス
DNAコンピューター
DNAチップ
量子コンピューター
ナノバイオテクノロジー




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自己紹介 
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青木 敏洋
2000年熊本大学材料システム専攻博士前期課程(修士課程)修了後、アリ
ゾナ州立大学Science and Engineering of Materials Program 
(現School of Materials)留学、2003年Ph.D. program修了。
2003年12月?2004年9月アリゾナ州立大学ジョン・M・カウリー高分解能
電子顕微鏡センターでのポスドクを経て、現在、JEOL USA, Inc.
にTEM Application Specialistとして勤務。専門は電子顕微鏡法の
ナノマテリアル研究への応用。



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今日のポイント(エキスパートな質問の答えです)
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1. ナノストラクチャーを作ること、ナノストラクチャーの形状や性質を
調べること、そして作ったナノストラクチャーの応用研究をすること、の
3つに分類される。

2. ナノチューブ、量子ドット、超格子構造、ナノ粒子などが、ナノスト
ラクチャーの典型的な例である。

3. 走査プローブ顕微鏡や電子顕微鏡が、ナノスケールのものの観察に使
われている。



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編集後記 
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ナノテクノロジーはとても新しいアイデアのような印象があるかもしれませ
んが、1959年にリチャード・ファインマンが行った有名な講演、“There 
is a plenty of room at the bottom”の中に、すでに基本的概念が
触れられていました。また、ナノテクノロジーという言葉も実は1974年の
段階で元東京理科大教授谷口紀男氏により提唱されていました。

長い年月を経てようやく技術がアイデアのレベルに追いついてきた、という
感じです。そういう意味では新しい“技術”と言えます。

今の段階で成果の出ている分野もありますが、多くの研究がまだ基礎研究の
段階にあり、ナノテクにより数年で飛躍的な技術革新が起こるかどうかは
分かりません。しかし、現在、世界中で活発な研究が行われており、小さな
発見・ブレークスルーが引き続きおこることで長期的には大きな技術変革に
つながると確信しています。請うご期待!
(青木)



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  ◆あなたは英会話を覚えるのにどんな勉強をしてきましたか?◆

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