E-Mag‎ > ‎2007‎ > ‎

【海外サイエンス・実況中継】夢とロマンから現実へのシステムを作り出す ~ 航空宇宙学

posted Jan 9, 2012, 9:24 AM by Yunke Song   [ updated Jan 27, 2013, 3:02 PM by Yohei Ishii ]
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 
_/ 
_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』 
_/  September 2007 Vol 17 No 1 
_/  カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/ 
_/ 
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/



サイエンスの実況中継も第17回目となりました。今週はジョージアテック
の袴田さんがお送りします。航空宇宙学は、多くの人が子供の時に研究する
ことを夢見ていた分野ではないでしょうか。かくいう私もそういう時期があ
りました。しかし、実際にどんな研究をしているのか、見えなかった部分も
多かったと思います。そんな研究の最前線を垣間見ることができるだけでな
く、次世代に求められているテーマまで知ることができます。
(杉井)



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
今日のエキスパートな質問(答えは下にあります)
───────────────────────────────────── 


1. 航空宇宙は総合学問ですが、どのような分野が密接に関わっているの
でしょうか?

2. 袴田さんが研究している航空宇宙システム設計法の目的は、ハードに
対してはどのようなものでしょうか?

3.さらにシステム全体にまでおよんで、この設計法が応用されている例
は?



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
夢とロマンから現実へのシステムを作り出す ~ 航空宇宙学
                         袴田 武史
─────────────────────────────────────


航空宇宙といえば、夢とロマンを掻き立てます。工学を志す人なら一度や
二度は、飛行機やロケットを見てかっこいいな?、と思ったことでしょう。
常に最先端を走り、その成果は社会に対してとてもインパクトがあります。
日本でも2006年の初めには探査船のはやぶさの動向がマスコミでも取り上
げられ、さらにはH2A・2機を含む国産のロケットが、1ヶ月間に3機も
宇宙へ打ち上げられました。日本のロケット及び衛星の技術力は、間違い
なく世界のトップクラスです。

航空宇宙界では忘れてはならない存在があります。それはアメリカ。20世紀
以降アメリカはNASAを筆頭に、常に世界の航空宇宙をリードしています。
例を挙げればきりがありません。

月着陸を果たしたアポロ、宇宙の神秘を解き明かすために宇宙に設置された
ハッブル望遠鏡、ついに太陽系を抜け出したボイジャー探査船、日本人宇宙
飛行士も搭乗したスペースシャトル、国際宇宙ステーション、世界を飛び交
うボーイングの旅客機、世界を圧倒させる最新鋭の戦闘機およびミサイル
などなど。さらには、人類を2020年までに再び月に、そしてさらに火星へ
送るという壮大なプランをブッシュ大統領が発表しています。

これらの航空宇宙の成果は、さまざまな形で私たちに恩恵を与えています。
旅客機があるために、速く安全にどこにでも海外旅行にいけます。ロケット
が衛星を打ち上げ、衛星が通信してくれるおかげでカーナビで位置が分かっ
たり、衛星放送が見れたりします。宇宙での実験によってエイズやがんの
治療に有用な物質が開発されています。各惑星に飛んだ探査船が惑星を調査
し、私たちの好奇心を満たし生活を豊かなものにしています。

もっと身近な例では、NASAが開発した素材を利用した枕とかもありますね。
別の方面から見ると、世界最速の列車、新幹線は多くの元航空宇宙のエンジ
ニアが開発に関わったそうですし、1980年以降、金融派生商品(ディリバ
ティブ)が急速に発展したのは、ロケットサイエンティストが金融業界に
大量に流出したからだと言われてます。

ではいったい、航空宇宙という学問は何なのでしょう。

航空宇宙は総合学問です。ありとあらゆる分野が密接に関わってきます。

まずは航空機であれ宇宙機であれ、機体を作るための分野があります。航空
宇宙工学です。機体周りの空気の流れを分析する流体工学、機体の構造・
材料を設計する材料・構造工学、機体を制御する制御工学、飛ばすための
エンジンを作る推進工学など。機体は多くの電子部品で構成されています。
そのため、電気・電子工学も必要です。そして多くはコンピューター制御
ですので、プログラミングも必要です。エンジンの燃料や機体の材料も突き
詰めれば化学です。さらには、宇宙は地球とは異なる環境ですので、生物学、
医学も関わってきます。

つまりどの分野であれ、最先端の研究をしていれば航空宇宙の分野になって
しまうのです。もしあなたが将来、航空宇宙分野にかかわりたいと考えてい
るのであれば、純粋に航空宇宙工学を目指すという選択肢以外にも、道は
多くあるのだということを知っておいてください。

そんな航空宇宙分野の中で、私は次世代・航空宇宙システムの概念設計法に
ついて研究しています。

航空機のデザインと聞いてどんなことを想像しますか?デザイナーが考える
ような航空機のフォルムのデザインでしょうか?それとも技術者が大きな紙
に描かく機体の精密な設計図でしょうか?CADを使ったコンピュータ上での
設計でしょうか?

私たちがやっている「デザイン」はそのどれとも違います。私たちはアート
的なデザインや、詳細な設計図を書くためのデザインを追及しているのでは
ありません。端的に表すなら、製品サイクルの最上流に位置する「製品企画」
といえると思います。そして、Object(物体)そのものに注目するのではなく、
Function(機能)に視点をおきます。ある製品(航空機や宇宙船など)を
作るときに、どんなことを実現する必要があり、その実現のためにはどんな
機能が必要で、それらの機能を得るにはどんな選択肢(技術)があり、どの
組み合わせがどういった理屈により一番最適なのかを、判断する方法を探っ
ています。これはまさに、システムエンジニアリングの視点を持った製品
企画なのです。そしてこの一連の作業は、どうやって夢を現実にするのかと
いうことなのです。

私たちの対象は物理的に存在するものだけではなく、システム全体に及び
ます。航空機や宇宙機といったハードのみならず、それらを含んだシステム
全体、あるいは政策や研究開発費の配分などのソフトなものまで。私が関
わったプロジェクトでは、新技術を導入した旅客機の設計、利益を最大にす
る旅客機製造戦略、米海軍の次世代電気戦艦の設計環境の設計、日米欧の
航空技術の最新研究開発動向、旅客機の需要予測など多岐に渡ります。これ
ら以外にも、研究室では独自の設計法をミサイル、軍事戦略、UAV (Unmanned
Aviation Vehicle/無人航空機)など様々な対象に応用しています。


具体的な研究内容としては意思決定法です。システムの目的に対して最適な
ものをどのように選び出すのか?ということです。

現在の世の中は、ひとつの基準で物事を決めれるほど単純ではなくなりまし
た。コストが最も安ければ常にいいのでしょうか?性能まで犠牲にできる
ほどコストを安くすることはできません。しかしその境というのは微妙です。
どこで妥協するべきか明確ではありません。

性能、安全性、製造過程、メンテナンス、環境への対応、廃棄時の影響、
コスト、法律などあらゆることを考慮して、誰にでも分かる明確な基準で
判断する必要があります。あらゆる知識をデザインの初期段階に集約するの
です。さらに、デザインの初期段階ですべての面で完全な知識が得られる
わけではありません。そのために確率的に物事を考えていくという事も行
なっています。そのような考え方を反映できるツールを創り出したり、
それらを他の対象に応用したりしています。


この次世代航空宇宙システムの概念設計という分野は、日本では行なわれて
いないどころか、アメリカにおいても特殊な研究分野であり、近年注目を浴
びているようです。その証左として、所属している研究室、Aerospace 
Systems Design Laboratory(ASDL)、の規模の大きさがあります。
なんと大学院生だけで150人も在籍しており、私の同学年だけでも40人も
います。しかも、彼らのほとんどがResearch Assistantとして学費免除
+給料を受けながら研究をしています。これは大勢の学生を雇うことができ
るほど研究資金が潤沢に研究室に流れてくる、つまり、政府研究機関や企業
などのスポンサーが、それだけこの分野に興味を持ち、研究費を提供するに
値すると考えているということです。

研究室としても、年に一回、全米の航空宇宙関連機関のプロジェクトマネー
ジャー50人程を招待し、2,3日に渡り研究成果を発表しています。彼らを
研究室のアドバイザーとして研究の方向性を議論したりもしています。学生
のインターンやリクルートも活発です。アメリカは明らかにシステムという
考え方に注目しています。

システムという考え方は今後の日本にとっても重要になるでしょう。日本は
科学技術立国として世界に君臨してきました。日本は非常に細分化された
特定領域の研究開発においては、とてもすばらしい業績を残しています。
それは世界の流れに沿って研究開発を行なう分には効率的に働きました。

しかし、今後、欧米のように日本からも未来の道筋を示しながら、宇宙開発
に代表されるような巨大システムを構築していくには、個々の技術開発と
いう視点を抜け出し、システムで考え、高い位置から物事全体を見る視点が
必要になるでしょう。私もこのような考え方を学んだ者として、将来的には
日本の航空宇宙産業の更なる発展に、微力ながら貢献できればと願っていま
す。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
自己紹介 
───────────────────────────────────── 

2004年名古屋大学工学部(航空宇宙工学)卒、2006年ジョージア工科大学
修了(航空宇宙工学)。同年より日本にて戦略系コンサルティング会社勤務。
2010年より民間月面探査の国際レースGoogle Lunare X PRIZEに日本から
唯一参戦するWhite Label Space(http://wlsj.jp/)の代表。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
今日のポイント(エキスパートな質問の答えです)
───────────────────────────────────── 

1.航空宇宙は、流体工学・材料・構造工学・制御工学・推進工学・電気・
電子工学等からなる工学、コンピュータ・プログラミング、化学、生物学、
医学など、幅広い学問と密接に関わっている。

2.航空宇宙システム設計法の目的は、航空機や宇宙船などの製品を作る
ときに、どんなことを実現する必要があり、その実現のためにはどんな機能
が必要で、それらの機能を得るにはどんな選択肢(技術)があり、どの組み
合わせが一番最適なのかを、判断する。

3.さらにシステム全体にまでおよんで、この設計法が応用されている例と
して、意思決定法がある。システムの目的に対して最適なものをどのように
選び出すのか?ということを研究する。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
編集後記 
───────────────────────────────────── 

修士課程を修了し、博士課程に進むことも考慮しましたが、最終的に日本に
帰国し就職することを選択しました。しかも、今までの研究とはまったく
関係の無い分野です。大学を出て、航空宇宙工学そのものをやろうとすると
日本ではまだ受け皿が非常に小さい(市場規模が小さい)のが現状です。
アメリカでは軍事産業とみなされるので市民権が必要になります(大学レベ
ルの研究でも市民権を要求される場合があります)。ですので、この分野を
真正面から続けるのは難しいというのが実情です。しかしながら、アメリカ
ではベンチャー企業が宇宙船を独自に製造する時代に突入しました。私も
将来的には日本でもこの分野を真正面から取組める受け皿を大きくしたいと
考えています。
(袴田)



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/ 
(上記サイトで無料ユーザー登録後、バックナンバー閲覧可)
発行者: 杉井重紀 
メールマガジンの登録と解除: http://www.mag2.com/m/0000220966.html 
ご質問・要望・感想等はこちら: http://kagakusha.net/Mailform/mail.html 
連絡先: staff@kagakusha.net (@を@に変換してください) 
友人・お知り合いへの転送はご自由にしてください。 
ただし、無断転載は禁じます。転載ご希望の際は必ずご連絡ください。 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 



 ■□━☆・・━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━□■
  ■□━━━━━━━━━━━━━━━☆・・━━━━━━━━━━━□■ 

      無┃料┃E┃メ┃ー┃ル┃で┃英┃語┃を┃学┃習┃!┃
      ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
   I┃T┃・┃ビ┃ジ┃ネ┃ス┃用┃語┃の┃発┃音┃も┃学┃べ┃る┃
   ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛


  ■□━━━━━━すでにこれまで75万人以上が参加!━━━━━━□■ 
 ■□━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・・☆━━━□■

 『 ハングリーフォーワーズ eFlashcard 』は、フラッシュカード(単語暗記帳)
  方式の、インタラクティブ語学学習ツール。

  広告によって運営されているので、「一切無料」です!
http://af1.mag2.com/m/af/0000150712/001/s00000000206003/036

 ★☆★☆★☆━━━━━━★━━━━━━☆━━━━━━★━━━━━━━☆

    ┏━━━━━≪好きなカテゴリーが選べます!≫━━━━━━┓
    ┃                           ┃
    ┃ ■ビジネス&金融 ■旅行       ■TOEIC ┃
    ┃ ■上級ビジネス  ■ファッション   ■TOEFL ┃
    ┃ ■Genius  ■グルメ      ■受験英語  ┃
    ┃ ■IT      ■アメリカンスラング       ┃
    ┃                           ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

≪キャリアアップにも役立ちます! 登録はこちらから!≫
Comments