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【海外サイエンス・実況中継】 「一つの問題の解決は新たな問題の始まり」の歴史をあゆむ ~ 数学

posted Jan 9, 2012, 9:25 AM by Yunke Song   [ updated Jan 9, 2012, 9:25 AM ]
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_/ 『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』 
_/  September 2007 Vol 18 No 1 
_/  カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/ 
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サイエンスの実況中継の第18回目をお送りします。今週は、ペンシルベニア
大でドクターを取り、UCSDでの研究生活を経て、現在イスラエルにおられる
武田さんが数学について紹介されます。理系分野の中でも、数学ほど、熱狂的
な支持者と心から嫌う人がはっきり別れる分野は、他にあまりないのではない
でしょうか。しかし、サイエンス研究の根底に流れているのは、すべて「数学」
です。我々が研究している問題で、数字や数式で表せないものはないと言って、
過言ではないでしょう。あからさまに嫌悪感を表すのでなく、できる範囲で
理解を試みるのが、研究に従事するすべての人たちに課された課題なのでしょう。
(杉井)



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今日のエキスパートな質問(答えは下にあります)
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1. 3次方程式の解の公式は何と呼ばれているでしょうか?4次方程式の
解の公式は?

2. 19世紀の初め、数学者アーベルは、5次方程式の解の公式について、
どのような発見をしたのでしょうか?

3.「ガロア理論」から発展した理論にはどのようなものがあるでしょう?



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「一つの問題の解決は新たな問題の始まり」の歴史をあゆむ ~ 数学
                         武田 秀一郎
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皆さん、「類体論(Class Field Theory)」という言葉をご存知でしょうか?
数学を専攻としない人には聞きなれない言葉ですね。では「ガロア理論
(Galois Theory)」という言葉はどうでしょうか?余計聞いたことがない?
それでは、以下の中学で習う「2次方程式の解の公式」を思い出してくだ
さい。

a,b,cを整数とすると、二次方程式aX^2+bX+c=0 (式1)の解は
X=(-b±root(b^2-4ac))/2a (式2)
と書ける。
*編注
(式)の正式な形はホームページ上
http://kagakusha.net/images/Formula
で見ることができます。

といやつです。中学時代、この公式をお経のように唱えて覚えた記憶が
ある方もいるかも知れませんね。ちなみに、この公式は古代バビロニア
人にも知られていたほどの古い公式です。方程式の中に表れるXの最高
次数が2であるため、「2次方程式」と呼ばれるわけですが、それならば
「3次」ならばどうなるでしょうか?つまり、3次方程式

aX^3+bX^2+cX+d=0 (式3)

の解の公式はどうなるのでしょうか?これは、「カルダノの公式」と呼ばれ
ておりルネッサンス期のイタリアで発見されました。とんでもなく複雑な式
で、とてもここで書けるような代物ではありません。さらに、4次方程式

aX^4+bX^3+cX^2+dX+e=0 (式4)

の解の公式はというと、「フェラリの公式」と呼ばれる、さらに複雑な式で、
カルダノの公式とほぼ同時期に発見されました。

それでは、「5次方程式の解の公式」は?さらに「6次方程式の解の公式」
は?フェラリの公式以降、多くの数学者がこの問題に挑戦しました。が、
誰も答えを導き出すことができないまま、約250年の年月が過ぎたのでした。
そして、19世紀の初めになって、アーベルと呼ばれる数学者によってこの
問題は誰も予想しなかったかたちで解決したのです。アーベルの出した答え
とは

「5次以上の方程式では解の公式自体がそもそも存在しない」

というものでした。なんとも気の抜けるような結論かも知れませんが、
そう、5次以上では、解の公式そのものが存在しないのです。良いか悪いか
は別として、これで一応「解の公式論争」は終結したかに見えました。

ですが、数学においては、「一つの問題の解決は新たな問題の始まり」であ
るのが世の常で、この問題もその例外ではありませんでした。たとえば、5
次方程式

aX^5+bX^4+cX^3+dX^2+eX+f=0 (式5)

の解の公式が存在しないというのは、「方程式を満たすXを係数a,b,c,d,e,f
を使って書き表すことができない」、というだけのことであって、「解が
存在しない」訳でもなければ、「どんな場合でも、解を書くことができない」
訳でもありません。例えば、

x^5-3x^4+6x^3-6x^2+5x-3=0 (式6)
http://kagakusha.net/images/Formula

という5次方程式の解の一つはx=1であることは簡単に確かめられます。
つまり、「解の公式」自体は存在しないけれども、解(の一つ)は簡単に
書き表すことができる訳です。

もう少し正確にいうと、以下のようになります。まず、2次方程式の解の
公式を見てください。これは係数a,b,cの四則演算と混合(ルート)を
使って書かれています。ここでは複雑すぎて書けませんが、3次、4次の
公式も同様に、係数の四則演算と混合を使って書くことができます。

で、5以上になると、一般にはそのような解の表記ができないというのが、
基本的にアーベルの証明したことなのです。ですが、上の例にもあるように、
係数a,b,c,d,e,fをうまく取ってやると「解を簡単に書くこと」ができる訳
です。では、どのような場合に「解を簡単に書き表す」ことができるのでしょ
うか?つまり、係数a,b,c,d,e,fをどのように選べば、四則演算と混合を使っ
て、解をズバリ書き表せるのでしょうか?

この難問を見事に解決したのが当時まだ19歳だったガロアと呼ばれる天才
数学少年でした。これは19世紀初頭で、アーベルの死後間もないことでし
た。ガロアは(当時としては)極めて抽象的な「群(group)」や「体(field)」
といった、概念を用いて、この問題を完璧に解決してみせたのです。

ですが、残念ながらガロアのアイデアは、あまりのも時代を先取りしすぎた
ため、彼の理論は当時は誰にも理解されず、ガロア自身は自らの理論が世間
に認められる前に、なんと21歳の若さでこの世を去って行きました。そして、
ガロアの死後、四半世紀の後、リュービルという数学者によって彼の理論が
正しいものであると認められ、その後「ガロア理論」として世間に知られて
いくようになりました。

では、「ガロア理論」とはどういうものなのか?これは、大学の数学科の
3年次ぐらいでやっと習うほどの理論で、上にもあげた、「群」や「体」と
呼ばれる極めて抽象な概念に関する理論であり、ここで簡単に説明できる
ようなものではありません。

ですが、ここでのポイントは「ガロア理論とは何か」ではありません。ポイン
トはここでもやはり、「一つの問題の解決は新たな問題の始まり」であった
ということです。ガロア自身は「方程式の解法にかんする問題」を「群」や
「体」といった抽象概念を用いて解決しました。ですがその後、ガロアから
出発した、この「群」や「体」といった概念自体を研究する分野が生まれ、
それぞれ「群論 (Group Theory)」や「体論 (Field Theory)」などと呼ば
れる理論に発展しました。

そして、そのさらに発展したものの一つが「類体論(Class Field Theory)」
と呼ばれる理論であります。

類体論自体は日本でもアメリカでも基本的に大学院で数学を専攻しなければ、
習わない理論で、数学を専攻する人の中でも、全員が学ぶ理論ではありませ
ん。

この類体論は20世紀初頭に、クンマーやヒルベルトといった数学者によっ
て研究が始められ、第一次大戦中に日本人最初の近代的数学者である高木貞治
によってほぼ完成した、近代数学の中でももっとも魅力のある理論の一つです。
(ちなみに、数学を専攻しない方の中でも、高木貞治の名前を聞いたことが
ある日本人はいるかもしれませんね)

さて、この類体論は基本的に完成した理論なのですが、やはりここでも「一つ
の問題の解決は新たな問題の始まり」でした。

高木らが完成させた類体論とは、多少専門的な言葉を使うと、「拡大体(field 
extension)」と呼ばれる概念に関する理論と解釈することができます。しかし、
類対論は「拡大体」の中でも極めて特殊な「アーベル拡大体 (Abelian 
extension)」に関する理論でしかないもので、より一般的な、「非アーベル
拡大体」に関しては、類体論は完全に無力な理論であります。

そして、その「非アーベル拡大体」をもふくむ理論、つまり類対論をより一般
化した理論を完成させる試みが、この半世紀間、数学において大きなテーマの
一つであり、今もって達成されていないものであります。この試みの一つが、
「ラングランズ・プログラム(Langlands Program)」と呼ばれているものです。

これは、Robert Langlandsと呼ばれる、現プリンストン高等研究所の教授で、
かつてアインシュタインが高等研究所で使っていたオフィス"Einstein's 
office"を現在使っている、カナダ人の数学者によって打ち出されたもので、
「保型表現(Automorphic Representation)」と呼ばれる概念を用いて、
類体論を一般化しようという試みです。そして、これこそが、私の現在の
研究分野であります。

さて、ここまで来ると、専門用語がずらずら並んできて、訳が分からん、と
思う方もいるかも知れませんね。でも、それでよいとおもいます。簡単に
理解できるようなものは、高度な学問とは呼べないと思います。特に数学の
研究ほど多くの積み重ねを必要とする分野はないと思っています。数学とは
そういう性質の学問でもあると思います。でも、そこが数学の面白さだとも
思います。そして、だからこそ、私は、数学という学問に引き寄せられた
ようにも思います。



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自己紹介 
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武田 秀一郎

日本の某大学の機械工学科を卒業した後、専攻分野を工学から哲学に変える
ため渡米。サンフランシスコ州立大学で哲学修士を習得。主に分析哲学を
学ぶが、その間に、数学の世界と運命的な出会いをし、同大学で数学修士も
習得。その後、2006年春にペンシルバニア大学でPh.D.(数学)を習得。
同年の秋から一年間UCSDでポスドクをしたのち、2007年の9月からは、
イスラエルでポスドク生活を送る。



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今日のポイント(エキスパートな質問の答えです)
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1.3次方程式の解の公式は「カルダノの公式」、4次方程式の解の公式は
「フェラリの公式」と呼ばれる。


2.19世紀の初め、数学者アーベルは、「5次以上の方程式では解の公式
自体がそもそも存在しない」ことを証明した。

3.「ガロア理論」から、「群論」や「体論」と呼ばれる理論に発展し、
さらにそこから「類体論」が発展した。



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編集後記 
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ちょうど一週間ほど前に、イスラエルに到着し、一通り生活のセットアップ
が終わりました。日本ともアメリカとも、生活環境も自然環境も異なるため、
いろいろ苦労しますが、貴重な経験とも思います。

私は、ちょうど10年前に多くの希望を胸にアメリカに渡り、紆余曲折を
経て現在に至ったのですが、その頃の気持ちを忘れることなく、これからも
研究や教育に全力投球していきたいと思っています。
(武田)



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