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【海外サイエンス・実況中継】○○サプリや●●ダイエットって本当に効くのか - エビデンスの重要性 ~ 栄養疫学

posted Jan 9, 2012, 9:06 AM by Yunke Song   [ updated Jan 9, 2012, 9:06 AM ]
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_/  『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』
_/       January 2007 Vol 2 No 1
_/    カガクシャ・ネットワーク → http://kagakusha.net/ 
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研究の最前線をお伝えする第2弾、今回は栄養疫学についてお届けします。
ちょうど今、健康科学をうたっているTV番組が、ねつ造問題で揺れてい
ますね。番組を作る側も、番組に出てコメントしていた識者・研究者も、
番組を見ていた視聴者も、今回の栄養疫学の知識があったら、もっと早く
から疑いの目を向けていたかもしれませんね。


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○○サプリや●●ダイエットって本当に効くのか - エビデンスの重要性 ~ 栄養疫学
             今村文昭 
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「大豆って身体にいいの?」 
「低脂肪食と低炭水化物食とどっちがいいの?」 

こういった疑問を抱いたことはありませんか? 
これらの疑問に答えを導くのが栄養疫学という学問です。 

近年、生活習慣病は増加しています。若年化の傾向もあり、関心が非常に
高まっています。それに乗じてさまざまな情報が氾濫しています。食品1つ
1つに加え、サプリメントも市場にはびこっていますよね。 

果たしてそうした情報は、どれだけ信頼できるものなのでしょうか。研究
結果があるとしても、その研究はヒトに当てはまるものなのか。マウスの
研究ではありませんか?ヒトでの研究であっても、日本人の体質に合うもの
なのでしょうか。 
そもそも、信頼できる情報を提供するためにはどういった研究が必要で、
どういった結果がどのように提供されるべきなのでしょうか。 

みなさんは栄養学についてどういったイメージをお持ちですか?病院の患者
さん、学校の児童のために、食中毒への細心の注意を払いつつ栄養の
バランスを考えるのも栄養学者です。粉ミルクの組成をデザインしてくれる
のも栄養学者。カロリーメイト?の栄養の組成を考えてれているのも多分、
栄養学者です。 

「学校で料理してるんだよね。」 

私がハウスメイトから頂いた断定的な質問です。良い質問ですね。 
でも違います。 

ビタミンやミネラルは栄養素として広く知られています。 
そのほとんどは20世紀前半に発見され、そのころからすでに体内での働き
がよく研究・理解されています。さまざまな栄養素が特定された時代、
栄養学が目的としていたのは欠乏症の対策でした。 
しかし、ここ数十年でそういった状況は著しく変化していきました。 
そして最近になって、いまだに理解できていないことがたくさんあることが
わかってきました。 

近年、注目を浴びている生活習慣病は、マウスの寿命よりはるかに長い年月
をかけて、危険因子を身体に蓄積させて発症します。その過程で数多くの、
そして私たちが食事を通して摂取する栄養素たちはどういった役割を果たし
ているのでしょうか。 

日本ではほとんどの人が、欠乏症を予防するのに十分な栄養素を摂取・貯蔵
しています。しかし、生活習慣病を予防するという目的を考えると、私たち
の食は十分なのでしょうか、あるいは適切なバランスが保たれているので
しょうか。 

それらの問いに対する科学の知識は本当に限られています。 

生化学的な技術が発達し、1つの名前で知られる個々の栄養素でもたくさん
の種類があることがわかってきました。植物で様々なのはもちろん、調理
して変化したり、胃腸や他の臓器へ運ばれて形を変え、さらに体内にある
多くの因子が関与して身体に影響を与えています。遺伝子に直に働く栄養素
もあれば、免疫機能や臓器間の連絡をになう、あるいは脳神経のシグナルを
仲介する栄養素もあります。 また、個人の特徴を決める遺伝子の型の違いに
よって、栄養素の効果に違いが出ることもわかってきました。 

特に栄養はすべての人が必要とし食事を通して摂取しているものですが、
医薬品と同じように病気の治療にはもちろん、病気の予防について大きな
可能性を秘めています。ものによっては病気の発症にも多大なる貢献をして
いることもわかっています。 

20世紀の科学の発展は著しく、人々の生活の変化もまた負けずとすさまじい
ものがあったといえます。科学と生活の変化があって、栄養学は新たな局面
を迎えているのです。 

そういった状況で、栄養学では果たしてどういったエビデンス(証拠)を
どのように提供すればよいのでしょうか。量と質について、動物実験から
得られるエビデンスは参考にはなりますが、結論を出すことはやはりでき
ません。 

その理由の1つは動物とヒトの寿命の違いのためです。 生活習慣病と称さ
れる病気は、その発症に何年もかかると考えられています。 
もちろん、生物種の差も考慮しなくてはいけません。遺伝子や体のサイズの
違いを考えると、質と量について人の世界に応用するには限界があります。 

たとえば、抗酸化物質の働きについては、癌や心疾患への予防効果、または
美肌効果(?)がうたわれています。そしてコエンザイムQ10(CoQ10)や
ポリフェノールなどが注目を浴びています。これらは体内で抗酸化効果を
発揮するとともに、ビタミンB群の介する代謝経路で代謝され、さらにビタ
ミンCやその他の抗酸化物質と化学的に反応することが知られています。 

しかし、ヒトを除くほとんどの哺乳類はビタミンCは体内で生産でき、また
脂質に溶解する類の栄養素は特に吸収と代謝の率が異なります。従って動物
を用いた抗酸化物質の研究を、そのまま人の医学に展開するには注意が必要
です。このような動物実験の限界を考えると、人を対象に研究する必要が
出てきます。 

その必要に応える学問の1つが疫学です。 
疫学では質・量について科学的な証拠を提供するための方法論、どう実社会
に応用していくかという理論・実践を扱います。疫学者は、医療現場におい
て臨床試験をデザインしたり、病気それぞれの診断やスクリーニング・予防
プログラムの効率化を図ったりしています。また栄養、タバコ、ウィルス、
遺伝子などと疾患との関連について検証し、病気の予防に貢献しています。 

近年、医学では、往年の医師の経験にとらわれず、証拠と理論に基づいた
信頼できる医療を、医療機関で共有しあい患者さんに提供しましょうという
アイデアが重要視されています。Evidence-based Medicine (EBM) と呼ばれ
るものです。エビデンスを与える学問が疫学ということで、疫学が重要に
なってきていることがわかるかと思います。 

疫学の中で特に食と病理に着目しているのが栄養疫学です。 
たとえば「赤ワインは身体にいいの?」というような研究課題を例に考え
ましょう。薬学では薬をヒトに投与する臨床試験により効果を検証しますが、
赤ワインについても同様に臨床試験が可能でしょうか。薬学の場合、比較
対照に偽薬(プラセボ)を用います。薬を摂取するということの心理効果を
考慮するためです。では、赤ワインの偽薬というのはなんでしょうか。
心当たりがありませんが、口にすれば赤ワインかどうかわかってしまうので
役に立ちそうにありません。また、臨床試験が可能だとしてもどれだけ長い
期間行えばよいでしょう。 

赤ワインが成人病の予防によいとします。果たしてどれだけ長い期間、
研究費から赤ワインを購入・提供して、研究を行えばよいのでしょうか。
そもそも、アルコール飲料の臨床試験は倫理的に可能でしょうか。参加する
被験者は極度のお酒好き・お酒に強い人・お酒に飢えている人かもしれま
せん。研究結果が一般人に応用できるのでしょうか。アルコールの代謝が
上手ではない日本人に、赤ワインを常飲しているフランス人の研究結果が
応用できるのでしょうか。どういった研究を行うことが可能で、科学的に
強い根拠が得られるか、どこまで一般化できるのか。そうしたことに議論が
必要であることがわかります。 

研究をデザインする上での選択肢は多々あるのですが、赤ワインの摂取に
関して、たくさんの人に質問するという方法が簡易で安価と考えられてい
ます。しかし、果たして妥当な定量ができるのでしょうか。その妥当性に
ついては、血中を流れる赤ワイン由来のポリフェノールなどの分子を検出
できれば量的な検討が可能です。 

また、数年間、特定の集団を追跡して病気の発症を観察することができれば、
赤ワインの摂取と病気の発症の関係を量的に検証することが可能です。 

このとき、疾患として何を対象とするのが良いでしょうか。心疾患や癌で
しょうか。病気の進行を示唆する血中の生体分子でもよいかもしれません。
血圧やコレステロールなど、様々な候補があげられます。その決定には、
赤ワインの摂取を考えるのであれば、生物学的なメカニズムを考慮すること
が賢明かもしれません。 

アルコールの肝臓へのダメージ、ポリフェノールの抗酸化効果、それともポ
リフェノールの遺伝子への効果など、どれを考えるのが最も科学的でしょう?
どんな因果関係が理論的・科学的に最も妥当性があり、倫理的・経済的に
測定可能でしょうか。ここでは栄養学的・医学的な知識が必要とされます。 

またこの研究で、どのように赤ワインが病気の因子であると結論付けられる
でしょうか。赤ワインをたくさん飲む人は、赤ワイン自体がカロリーの摂取
となりますし、お肉を食べ、脂肪分を普段からたくさん摂取しているかも
知れません。また週末にたくさん飲む人もいれば、日ごろから少ない量を
飲んでいる人もいます。年齢や性別、他の生活のスタイルも関わってくる
ことでしょう。 

そういった疑うべき因子が多々ある中で、1つの赤ワインという因子の効果
を見るにはどうしたらよいのでしょうか。 

そして、赤ワインの摂取に効果があるとすれば、飲めば飲むほど効果が
上がるのでしょうか。効果があるにしても、飲みすぎたらやはり害になる
ような気がしますよね。 

ではどれだけ飲むと健康に有益、あるいは有害なのでしょうか。これに
ついては、どれだけの量の赤ワインでもっとも疾病を患う確率を低下、
あるいは増加できるかということを統計を用いて解析します。 

欧米のいくつかの研究で、年齢や性別、人種の違いはありますがアルコール
を「適量」飲むと心疾患の発症がいくらか下がることが示唆されています。
しかし、ある種の癌の発症する率が高まることもまた知られています。
そして、その一方で、成人の飲酒は交通事故や家庭内暴力の引きがねとも
考えられています。 

これらを考慮すると、危険(Risk)と利益(Benefit)のバランスを、数字を
比較して解析(Analysis)する必要が出てきます(Risk-Benefit Analysis)。 

また、臨床試験のようにいろいろな因子をコントロールした研究ではない
ので、方法論上の問題点がありそうです。というわけで、数多くの研究結果、
RiskとBenefitのバランス、方法論上の問題、生命科学的な根拠をおさえた
上で、数多くのエビデンスを整理した後に学問の世界に認められます。
栄養疫学という科学は未熟ながら、誰もがその情報を必要とする学問です。 
実際に、栄養疫学が導く結論のいくつかが、ときにメディアに拾われ、とき
に自由奔放な解釈をされ、一般の方に伝わっていきます。 

かつては、欠乏症のみを問題視していた栄養学は、今では生活習慣病とも
対峙をしています。そして近年、ストレスや鬱などの精神医学、免疫学や
プロテオミクスとのかかわりが注目されてきています。医療技術や医薬品の
届かない発展途上国でも、栄養疫学は文化と絡んで、異なる形で必要と
されています。 

「論文を読むよりも、論文が出る方が速い」とささやかれるほどの学問で、
しかも分子生物学や統計学など幅広い学問の導入が必要とされます。 

それがとてもやりがいのあるところです。 
そして何より、私たちは食べ物に囲まれて生きている。 
お店に並ぶ野菜たちもさまざまなことを伝えてくれます。 
とても楽しい学問なのです。 




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自己紹介 
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今村文昭 
2002年上智大学理工学部化学科卒業。コロンビア大学医学部栄養学科
修士課程修了後、タフツ大学のフリードマン栄養科学政策学部の博士課程
にて栄養疫学を学ぶ。 

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編集後記 
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先日、某テレビ番組の情報の捏造が発覚いたしました。大変、残念なこと
です。しかし、それも氷山の一角。学術雑誌では、栄養学・疫学を含む複雑
な科学においては、著名な医学雑誌であろうとも、研究デザイン・解析に
おける欠陥、偏りに満ちた解釈など目に付いてしまうのが現状です。さらに、
メッセージ性の強い情報が選択されている裏で、信頼できる科学が埋没して
しまっている現状もあります。 
科学技術が複雑化し、さらに社会学的な要素も介入しつつある状況で、様々
な概念や方法論の発展を遂げてきた栄養疫学の様を伝えるのは難しいですね。
本文が、読んでいただいた方々にとって、日々の情報を疑う、あるいは今、
口にしている食べ物の価値を考えるきっかけとなっていただければと願って
います。
(今村文昭)

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